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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
2. 少女リリーナと戦乱の女兵士 編
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第15章 迫り来る絶望(1)


 地下豪の廊下を、ラティファは震えながら足を動かす。



 発作を起こしたような荒い呼吸、手足の痙攣、その身体はもはや、自身で抑制などできはしない。



 それを抑制しようという心、精神すらも壊れてしまったのだ。




「アフメド……父さん……私の……お父さん……」



 

 視界の色を閉ざしたような虚ろな目で、司令室の前へと辿り着くと、そこには〈自由軍〉の兵士達、地下避難民、彼女を慕う子供達、そこで生き抜く皆々が狭き場へ集っていた。



 そして、涙を流す彼らの目線の先には、司令官アフメドが収められたであろう陶器の棺が、そこに横たわっていた。




「無残な姿じゃったよ。銃弾を2.3発、額に撃ち込まれたら……後の身体は金棒で滅多打ちじゃ……!


 行き場のないワシらの命を、一心に守ってくれたお方の仕打ちには、あまりに酷すぎる……」




「辛かろう……戦場で両親を目の前で殺されたラティファを、誰よりも目をかけて……育てて……!


 お前が〈自由軍〉に志願した後も、何も変わらずに一端の兵士として、そして実の娘のように……可愛がっていた……のに……」




 アフメドの死を嘆く声、そしてラティファの心境を気遣い悲しむ声が、周囲から飛び交っては、皆で彼の不幸を嘆き悲しんでいた。




「……父さん……どう……して………」




 ラティファは衝撃と傷心のあまり思考が停止し、彼の棺を前に発する言葉さえ見つからずに、ただ生気を失った表情で、それを見つめるしかできなかった。




「……これから……俺達はどうすりゃいいんだ……!」




「指導者を失ったんだ……! これから〈自由軍〉はどうなる……?後継者は……! 俺達は〈旧政府軍〉に抵抗できるのか……!?」




「イザールのヤツはどこへ行ったんだ!! こんな事態になっちまったってのに……!


 大体なァ! なんで腹心のアイツが司令官を拠点を放り出してんだ……! 今頃どこで何やってるんだよクソッタレェ!!」




 向けようのない怒り、混乱、焦燥感に駆られた兵士達は、その矛先を叫び合っては、さらに喧嘩にまで発展するものが出てきてしまう。





「お……おい! ちょっと待ってくれ……!」




 大人達が暴れ出す混乱状態の中、また1人の兵士が声を上げた。

 その者の言葉に、人々は皆耳を傾ける。




「そういえばだが……! あの女はどこに消えたんだ……! ほら、ラティファが連れてきたガキだ! あの赤っぽい髪と眼とグレーのブレザー着たヤツ……!」




「女? あぁ、詳しくは聞いてねぇが、何やら奇妙な行動やりやがって、怪しいから監視してたガキだろ?

おい、なんだってんだ!? まさかソイツいねぇのかよ……??」





 焦燥と憤怒を駆り立てるどよめきは、次第に兵士だけでなく、この場に集う老若男女共々飲み込んでいく。




「冗談じゃねぇ!!アイツはここに来たときから、イザールが一番に警戒していたんだ!

 本人に自覚が有ろうか無かろうが、敵軍から送り込まれた潜入者スパイじゃねえかってよぉ!!」




「畜生がァ!! やっぱり奴は、恩を着せたラティファをたぶらかして、俺達の拠点に潜伏して、アフメド司令を暗殺したってのか!!」



「オイ! まだそれ程は離れていない筈だ! 虱潰しに探し出して処刑しろ……!!」




 大人達が憎悪と殺意に心を染められる中、少女の幼く甲高い声が響き渡る。




「ち……違うよ……!絶対に違う……!!」



「………あァ!?」




 皆々は、まるで鼓膜から鎮静剤を打たれたかのように、即座の決断力を鈍らされ、仕方なく声のする方へ視線をやった。

 

 その声を上げた主は、戦場の最中でラティファとリリーナに命を救われた、あの幼い少女ミーナだった。




「リリーナお姉ちゃんは良い人だよ……! 敵じゃないよ……! だって……あのとき私とラティファお姉ちゃんを……助けてくれたんだもん……!」




「今はガキの理屈を聞いてる場合じゃないんだよ!

 それを理由に恩を売って、我々に接近して犯行に及んだかもしれないだろ!!


 信用ならないんだよ!!怪しい奴や警戒すべき奴は徹底的に排除する!!」




 焦り惑い、ミーナ激昂する兵士を前に、もう1人の少女が割り込んで抗議する。



 彼女は前々日、地上で謎の《人形型の兵器》によって殺される寸前、リリーナに命を救われたのだった。




「違う……! 違うんです……! ミーナちゃんの言ってることは本当です…! だって……そんな悪い人だったら……私達を助けてはくれません……!


それに……あの人はすごく優しかった……! 一緒にいて……すごく温かかったんです……!


 信じてあげてください……!! あの人は悪い人じゃない…! お願いです……!!」




「そうじゃよ……! この子達は、間違ったことは言うとらんよ……! 私もなぁ、大事な孫を救ってくれた人を、悪い人とは思いたくないんじゃ……」




 ミーナの唯一の家族である老婆もまた、彼女の肩を弱々しく抱きながら、真っ直ぐな眼差しで兵士達を見つめて諭す。




「何をこんな事態にお前達は……! この方の遺体が目に入らないのか…! 大事な人が失われたのに…!

 こうなっては我々もいつ皆殺しにされるか、分からんのだぞ……!!」




「あぁそうだ……!皆の命を守るためだ…!!〈旧政府軍〉の毒牙と思わしきものは徹底的に……!!」




「……待ってください……!!」




 1人の叫び声が、激昂し興奮する兵士達を静止させた。



 その声は、司令官アフメドの遺体の前に俯いて涙を流していたラティファの、精一杯の叫びだった。




「ごめんなさい……! 少し……考えさせてください……! こうなっては……全ては私の責任です……! 父さんが殺されたのも……!リリーナがいなくなったのも……全ては私が………!


 だから……この命に代えても……落とし前をつけます………!それをつけるため……皆さんを守るため……だから……少し……考える時間をください……!我が儘だって……分かってます……でも……ごめんなさい……考えさせて……ください……」




 精神的に弱り果てた表情で、棺桶の前で恐縮するラティファを前に、流石の兵士達も彼女に投げる言葉は見つからなかった。



 その後、市民達は、棺桶の前のラティファを哀れむように見つめ、兵士達は各々で対策を取ろうと密かに団結して、俯いたラティファを1人残して、その場を立ち去った。




「ラティファお姉ちゃん……」




 ミーナと少女は、ラティファを慰めようと背後から声をかけたが、「放っておいて……独りにして……」と、冷たくあしらわれてしまった。




 彼女は、1人孤独に取り残された。




◇◇◇◇




「なぁ……俺達は一体どうなっちまうんだ……」




 ラティファに代わって見張りを行う1人の兵士は、薄暗い曇り空を見つめて呟いた。




「馬鹿! 今そんなこと嘆いたって、何の解決にもならねぇだろうが。とにかく対策を考えろ。生き残る最善の策で頭をいっぱいにするんだよ。雑念を捨てろ!」




 もう1人の兵士は、手持ちのアサルトライフルに油を差しながら無愛想に言う。




「……何でそう落ち着いてられんだよ! 指導者が暗殺されて……!

 

 まだ主犯や敵軍の主犯やグループが潜伏してるかも分からないんだぞ……! 俺達だっていつ殺されるか……!!」




「だからこそだろ……! それでも俺達には守るものがある! 残された市民達の命は! 子供達の未来は! ここには失っちゃならねぇもんしかねぇんだ! どんな最悪な状況でも抗うしかねぇんだよ!!」




 磨いていたライフルの薬莢を力一杯に握り締めながら、兵士の男は、歯を食いしばるように言った。




見張りを続けていた一方の兵士は、「ちっ!」と、舌打ちをかましながら、無言で遠くを見つめている。




 このやりきれない心情を、互いに独り静かに抱え込むように。


 


「ねぇ……兵隊さん……」




 すると、背後から幼い少年の声が聞こえた。振り向くと、地下豪出入り口のマンホールから、2.3人の少年少女が顔と胴を出している。




「こらお前達! 危険だからここには来るなと言っただろうが!」




「……俺達も一緒に見張りやるよ! 不安でじっとしてられねぇんだよ…!」




 少年達の手には、どこから手に入れたのか、アサルトナイフ、小型の拳銃を服のポケットに隠し持っている。それなりの心構えはあるようだ。




「ダメだ! そんな物騒なもの漁ってないで、大人しくしてろ!


あぁそうだ、ラティファの様子はどうだ?少しは心の整理はついた感じはあるか?」




「うぅん、ラティファお姉ちゃん……あれからずっと棺でうずくまって……部屋から出て来ないの……」




 後ろの少女がそう告げると、ライフルを持った兵士は、顔を暗くして首を横に振った。




「……なぁ兵隊さん! 俺達も戦わせてくれよ! 俺達だって、ラティファ姉ちゃんやみんなを守りたいんだ!」




「気持ちはわかるが、ここは俺達に任せて、お前達はラティファや地下のみんなの傍にいてやんなよ。お前達が心の支えになるんだからな……」




 男はライフルのベルトを肩にかけ、少年達を優しく撫でるように、両手を彼らの頭にそっと置いた。その刹那。




「お……おい!しっかりしろ…!一体何があった…!」




 見張りをしていた筈の男が、唐突に騒ぎ立て始める。




「うぅ″……あ″っ……我が……同……士………よ″……ぉ″………」




 荒野の向こうから、1人〈自由軍〉の兵士が、ゆっくりと近づいてきたかと思えば、身体中から血を流して瓦礫の地に倒れ込む。


 幾多の銃傷と血みどろに身体を覆われ、今まさに命が果てる寸前である。




 子供達を撫でていた男は、「緊急事態だ、悪いが外してくれ!」と、彼らに戻るよう促した後、見張りと共にそちらへ駆けつける。




「お…お前……首都ダマスカスの潜入捜査班だったろう……!何が起きたんだ…!他の仲間達はどうしたんだ……!」




 男は瀕死状態であるが、ぜぇぜぇとか細い呼吸を荒げながらも、精一杯に声と息を絞り出す。




「…仲……間……ガハッ……こ……殺……され……た………俺……ゴフッ……独……り……


ハァ……頼……む……これ……を……司令……官……に……」





 息の絶える寸前の彼は、震える手で1台の旧型デジタルカメラを差し出した。




 何としても、この中に収容された写真を見せたいのだろう。




「ハァ……アフ…メ…ド……司令……に……」




「それが……!アフメド司令官は……もう……!」




 司令は殺された。残酷な真実を打ち明けばなるまいと、兵士2人は声を震わせながら口に出そうとしたが、すでに男の息は絶えてしまった。




「おぉ……同士よ……一体……俺達に何を伝えたかったんだ……!」




 見張りの男は、絶命した兵士の亡骸を抱いてすすり泣く。



 一方の男は、ライフルを背負ったまま、亡骸の右手からこぼれ落ちたカメラを拾い上げ、中に現存する写真のデータの確認を始めた。




 次の瞬間、突然に男の目が見開き、顎と両手が震えだし、カメラは再び手からこぼれ落ちる。




「お……おい……お前……悪いが見張りを頼む……!!」




「おいどうした?……顔色が悪いぞ……!その写真……何が写ってる……!? おい……!」




 見張りの兵士は不審に思い問いつめるも、彼は震えてばかりで答えない。




「す……すまん……後で…話させてくれ……この写真……嘘であってほしい……頼……む……!」




 男は憔悴しきったような顔で、血と泥で汚れたカメラを拾い上げると、見張りの男を1人残したまま、ふらりふらりと地下のマンホールへと千鳥足を赴かせた。




◇◇◇◇◇◇




《おまけの会話コーナー》


ユウキ「おいテメェ…!!」


作者「ん~どうしたのん~?」


ユウキ「俺…主人公だよね?主人公ったら一番目立って活躍すべきキャラだよね?何で10話以降登場してねぇの?」


作者「あぁ♪後1話終わったらちゃーんと登場するから♪大丈夫ダ!問題ナイ!」


ユウキ「問題?ありまくりだクソ野郎~!!ボカッバキッドコッ……」


リリーナ「お願いします…飽きずに読んでくれると…私達救われます…神様…(読者様にお祈り)」

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