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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
2. 少女リリーナと戦乱の女兵士 編
35/105

・悪行の狂騒〈下〉(3)




◇◇◇◇◇




「リリーナぁ? ……おーい! リリーナぁ!」




 ラティファは、しばらく動作が固まったリリーナの頬を、右手の人差し指で突っついた。




「へぇ……? あぁ、ごめん……! ちょっと考え事してて……えへへっ……」




「なんか精神が別世界に行ってたけど……大丈夫?

 悩みとか辛い事とか、独りで抱え込んでない……?」




「え? いや大丈夫だよ……! あぁそうだ……! 仕事の続き続き!」




 リリーナは、ラティファが見張りをしている間、野菜畑の水やりと肥料撒きに勤しんでいたが__


 どうやら考え事をしていると、いつの間にか、じょうろを片手に立ち尽くして、動かなかったようだ。




「リリーナ、アンタの考えてた事は想像できるわ。自分の拘束を解いたせいで、このラティファさんを裏切り者にしてしまったのではないかって。当たり?」




「え……? あぁ……そう……当たり……」




「図星かぁ、分かりやすい女の子よねぇ?」




 ラティファは、リリーナの緋色の髪をそっと撫でる。少し硬いが、しなやかで甘い香りがする。





「リリーナ、もうアンタは難しい事を考えるのをやめなよ。せっかくお互い少し分かり合えて、仲良しになったんだからさ……


 私、後悔なんて、一切していないわよ!


 だってアンタは私達を助けて、守ってくれて、分かってくれて、本当に優しくて温かくて素敵な人なんだから……!」




「ラティファ……?」




「………むしろイザールなんかに従ってたら、それこそ私は……一生後悔してたわ……!」




「……?」




 他人に聞き取れない微かな声で、ラティファはこっそりと呟いた。

 


 そして、あまり話すことを好まない自身の胸の内を、リリーナに語りたくなる。ついこそばゆさから彼女に背を向けたが、言葉を発さずにはいられない。





「私もさぁ! ほら……アフメド司令から言われるの!

 

 そんなに日頃から思い詰めてると、戦闘よりもストレスで先に死ぬぞー! なんてさぁ……!」





 ラティファは、自分で話していて恥ずかしいのか、暫くはリリーナを背にして目を合わせない。



 それでもリリーナは、そんなことは一切気にすることなく、ラティファの気持ちの言葉をを懸命に聞き取って、彼女を理解しようとする。





「私はね、正直開き直ってるのよ! 人のあれこれ考えすぎるのは、性格ばかりでしょうがないっていうかさ……!」





 ラティファの言葉は、リリーナの共感と感心を心から誘い、どこか救われるのうに感じる。


 彼女の言葉を、夜明けまで聞いていたくなる。



 リリーナにとって、誰かから胸の内を親身に語ってくれるというのは心地よく嬉しいことだった。



 しばらくは何も考えずに、ラティファと言葉を交わし合い、永遠と語りたい。


 リリーナの心には、そんな欲求が芽生えていた。



 だが無情にも__


 それを遮るように、彼女のブレザーに隠した板型のスマートフォンが、荒々しくバイブを鳴らす。




 __ブレザーの胸元に手を入れるリリーナは、激しい憂鬱に見舞われた。


 恐らくそれは、リリーナにとって、何よりも優先にして応じなければならない。最重要事項の連絡だったからだ。


 


「あっ……ごめん……ラティファ……!」




 ただ背を向けて、ひたすら話すことに夢中なラティファをよそに、リリーナはひっそり立ち上がる。




「……だからさ! なんか同じ考えの仲間がいるとぉ〜


放っておけないっていうか、悩みがすごくわかるからさぁ〜!


そうでしょ? リリーナ……! ……って……リリーナ?」  





 ラティファがようやく振り向いたその時は、既にリリーナの姿は影も形もなかった。




◇◇◇◇◇




 地下豪から約50m程離れた地点に、崩れずに残されたビルの廃墟が1つある。



 ラティファから離れたリリーナは廃墟の屋内に身を潜めて、着信のあった板型スマホのディスプレイを確認する。



 やはり、ディスプレイを開いた瞬間、予想通りの相手からの着信があった。




「もしもし、キルト? ごめんね……ちょっと取り込んでいたから出られなくて……! どうしたの……?」




『リリーナ……! まずい事態になった……!』




「え………?」





 まるで緊張で絞られたかのような相手の声が、よからぬ報告が耳に入ることを予期させる。





『単刀直入に言うぞ!〈革新の激戦地(ヴェオグラード)〉の奴等が、〈旧政府軍〉を乗っ取った……!!』




「……な!? 乗っ取ったって……何があったの……!?」




『……これは他の潜入班からの調査報告だが、連中は《ギルソード》を手土産に〈旧政府軍〉に接触し、軍の最高指導者を手玉に取った。


 連中特有の巧みな口回しによって、司令官の信頼と友情を得るや否や、彼を騙して、失敗作の《ギルソード》の実験体として、身体に植えつけたそうだ。


 《そいつ》の詳しい特徴や能力は不明だが、なんと彼は、全身を《ギルソード》に取り込まれ、物言わぬ怪物兵器になり果てた。


 そして、空白となったその権力者の座を見事に掠め取った連中は、全軍の指揮権を掌握し__


 〈自由軍〉等の反乱分子を殲滅するため、ダマスカス郊外へ進軍を開始した。


 これが、送られてきた一連の情報ってヤツだな!』




「いや、衝撃的な情報が多すぎて頭の整理が………!


えっ!? 進軍を開始……? 今、進軍を開始したって……言ったよね……!?


じゃあ連中はとっくに……!? この地下壕へ真っ直ぐ向かってきてるって事なの……!?」





『あぁそうだ! 奴等は〈自由軍〉の本拠地など、すでに特定している! 何故か分かるか? リリーナ……!』





 一方的に伝えられる情報は衝撃的で、普通なら受け入れ難いなものばかりである。


 しかし、リリーナの表情は、冷静かつ冷淡なそれから何1つ変わることはなかった。



 それどころか、全く冷静な様子でこう言い放った。





「……知ってるよ! だって、こっちだって()()してるんだよね……?」




『……やはり、もう知っていたんだな! お前、〈革新の激戦地(ベオグラード)〉の奴等が、〈自由軍〉に《ギルソード》を持ち込んでいた事までも……!』




「もう分かってる。ラティファが私に、何を隠してるのかもね……!」




 リリーナはそう言うと、50m先の地下豪の方角へ振り向き、じっと睨みつけた。そして……





「《粒子器発動の覚醒瞳(ブレインアイズ)》起動!!」




 リリーナの緋色の眼は再び姿を変えて__


 鮮やかな紅色の虹彩と純白で機械人形のような瞳孔のそれへと変貌した。



 ただ静かに、地下豪の隅から隅を解析し分析するように、じっと紅の眼を凝らし続ける。





『リリーナ、()()()()?』




「見えたよ!地下豪の奥地にある作戦会議室、そこに安置されている!」




『便利な能力だな。普通の人間なら、目に見える《ナノマシン》は、発動状態に光を帯びた状態のそれに限る。それ以外は透明かつ小さすぎて、目に映らない。


 しかし、お前の目《粒子器発動の覚醒瞳(ブレインアイズ)》は違う!


 人の肉眼には絶対に見えない未発動時の《ナノマシン》、それも、ただの透明な浮遊粒子の状態でも、お前のそれは目視、感知できる。


 「脳」と一緒に「眼球」も弄られているからな!


 3km先の遠方だろうと、壁や障害物囲まれていようと、隠れた《ギルソード》や《ギルソード使い》の正確な位置を把握したり見破ったりできる。


 その上、《ナノマシン》のミクロまで構造を分析できる。《ギルソード》の特徴・性質、能力さえも、全ての特定さえ可能だ……!


 本当に頼りになるぞ! お前の目の《特殊能力》はな! って……? どうした?』





 電話越しに自分の能力を褒めちぎられるのをよそに、リリーナは悲しい眼差しで、その方角から目を離さない。





「ラティファ……自分のこと不器用で苦しみがちって……言ってたのに……」





『悲しい事だがな……!


 人間の本質ってのは、置かれた環境や状況によって簡単に自分の意志を殺すことができる……!


 本人がそれを望もうが望まなかろうが……だ……!』




「………ごめんキルト! もうしばらく、私だけで行動させてもらえないかな?


 向こうが〈自由軍(こっち)〉の動きを正確に把握しているのなら、まだ内通者を忍ばせているかもしれない。炙り出して仕留める!!


 ラティファや皆を、奴等から守らないと……!!」





 リリーナが決断に喉を震わせた刹那、それを打ち消すが如く冷酷な言葉が、受話器から耳に刺さる。




『待てリリーナ! お前……大人しく〈自由軍〉から離れろ……!』




「…………は!?」





 リリーナは、咄嗟に苛立って声を荒げた。



 彼の予想だにしなかった言葉を、リリーナは受け入れられなかった。




『不本意だが、状況が状況だ……! こちらとて……お前1人に重責を負わせるわけにはいかない。


本国からの増援を要請し、事態の収集に当たらせよう。ユウキ=アラストルの奴も応援に向かわせる。


 だから、その場から離れた地点で待っていろ……!』




「……今そんなの待ってる場合!? こうしてる間に〈旧政府軍〉は迫ってるんだよ!?


 地下豪には子供達だってたくさんいるんだよ!?


 時間なんて、あるワケないじゃない!!」





『待てリリーナ……! 俺達の目的を冷静に思い出せ!


ユウキの奴がシチリア島に、お前が中東地方にそれぞれ派遣された理由は何だ?


革新の激戦地(ヴェオグラード)》の連中に奪われた《ギルソード》によって、その存在が外部に知られるのを阻止するためだろ!


万人を救うなど、大それた正義のために動いてるわけじゃない__!


 俺はユウキのヤツほど冷酷ではないが、最悪、シチリア島の時のように、〈両軍〉共に消耗か全滅させてでも、奴等を炙り出して仕留めるのは可能だろう。


 だが、もう後は……その国の情勢の問題だ。俺らの干渉が効く領域じゃないんだよ!


 こうなれば、手に負えない犠牲には、追悼と祈りを捧げるしかない。


 これ以上の最善策を見いだせない限界値ってのは、世の中じゃ幾らでも発生するだろうが!?


 そういう割り切った考えを、お前も少しは持てよ!


 えぇ? リリーナ……!』





 その言葉を聞いていたとき、リリーナの右手の拳は激しく震えだした。



 激怒した拳の握力は抑えられず、完治していない傷口の包帯には血が染まり、握ったスマートフォンには徐々に亀裂が生じていく。





「つまり見捨てろって言うの? ごめんキルト。私、そういう考え方ってついていけないし、分からない!」




『はっ!? ……だから! そういう子供の考え方が……!!』





 相手が反論を言い出した刹那__


 スマートフォンは彼女の右手によって粉々に砕かれた。



 端末の破片や内部の基盤は、全て彼女の血に染められる。



「ごめんね……キルト……ユウキ……! 私って頑固者だから、どうしても譲れない生き方があるんだ……! 自分が馬鹿なのは、もう分かってるから……!」



 バラバラに砕けた赤い端末を、リリーナは瓦礫の地面に投げ捨てた。


 そして、地下豪の方角には戻らず、それとは反対の方向へと、少女は歩き出す。



 このままラティファから姿を消すように__





「ラティファ……ごめんね……! 絶対に……貴女を守ってみせるから……!!」





◇◇◇◇





「リリーナあぁ……!リリーナあぁあ……!!」




 ラティファは一心不乱に荒野を駆け回った。




 額から汗を、眼には涙を、樹液のように滴らせながら、1人の少女の名前を叫び続けた。




 だが無情にも、陽はまるで瞬く間のように沈んでいった。彼女の大切な時間を、悪魔が悪戯に奪うかのようだ。




 苦しそうに激しい息切れを起こしながら、ラティファは瓦礫の野の上で崩れるように座り込み、ぽろりぽろりと眼から涙を零す。





「リリーナ……どこ行っちゃったの……? どうして勝手に消えちゃったのよ……?ねぇ……リリーナぁ……」





 小さく乾いた声を不意に漏らした。



 しかし、人影のない荒野の上でその声に気づく者は、誰1人としていなかった。



 彼女はしばらくの間、リリーナを思う不安と悲壮感に、ただ時間を奪われていた。


 __が、そのうちに地下豪入口のマンホールから、1人の男兵士が顔を出して言った。




 彼の放つ声は低く、酷い悲しみに打ちひしがれたような、それ__





「ラティファ……こんな所にいたのか……? ずっと戻らないから探したぞ……!」

 




 驚いたラティファは、その間まで孤独にすすり泣いていたので、涙に濡れた眼を合わせてはみっともないと、慌てて目をこすり拭う。





「す……すみません……私は見張りなのに……役目を投げ出しました……この責任は私が………」




「いや……いいんだ……そんなことはいいんだ……とにかく……落ち着いて聞いてくれ……頼む……」




 男兵士は、次の言葉を発すのに、極度に唇を震わせる。



 それを口にした時の、彼女の反応を恐れるように。






「アフメド司令が……司令室で……銃殺されていた……!


 頭を撃ち抜かれて……即死のよう……だ……と……」





「………え?………え?………!?」





 それを聞いたラティファは、思考が追いつかず混乱する


 その純粋な精神に異常エラーをきたしたかのように、その身動きと反応を本能が静止させた。





 あまりの突然に訪れた悲劇を受け入れることは、今の彼女には到底できなかった。



 思考が死にかけたようなラティファの喉から、徐々に悲痛の嗚咽が溢れて押さえられなくなる。





 やがて喉から破裂させた悲痛の声は、断末魔の絶叫に変わり果てる。





「いや……いやぁ……! いやぁあぁああああ………!!


 殺され……た……!? アフメド………司令が…………


 私のお父さんがぁぁあああああ………!!!」





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