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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
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第2章 マフィアの少女(1)

《登場人物紹介(追加分)》


ロザリア=ヴィットーリオ(14歳)シチリア諸島の巨大マフィア〈ヴィットーリオ=ファミリー〉の令嬢にして次期頭領。その環境から、闇の権力争いに巻き込またりと、マフィア社会の暗黒面を目にして育ったために、マフィアを心底嫌っている。


ローツェ・ドゥ=ヴェルニーニ(18歳)ロザリアの幼馴染みにして、シチリアの巨大マフィア〈ヴェルニーニ=ファミリー〉の次期頭領である。マフィアである家同士の因縁の関係で、ロザリアとは顔馴染みながらも、家を背負うライバルとして認識している。厳格な性格で部下から恐れられており、ファミリーを背負う者として相応しいとされている。


東洋人の男(?歳)〈ヴェルニーニ=ファミリー〉として身を置いているが……


 

 再暦273年(推定西暦2473年)7月9日、パレルモ市街に存在する〔旧大聖堂カッテドラーレ〕には、十数台の高級自動車と数十人のマフィア達が、広場一体を取り囲んでいた。



 黒い高級車を降りる面々は、皆シチリアに名声を轟かせる大手ファミリーの頭領ばかりで、屋内へ向かって歩いていくその堂々たる姿勢と、黒のスーツを着こなしたその身なりは、見る者全てに圧迫感を与えていく__



 聖堂のエントランスには、マフィアの幹部やガードマンが整列し、頭領達を丁重に出迎えている。



 その光景を部外者が見れば、神聖な教会が闇社会の無法者共に占拠されたと錯覚するだろう。



 広場を覆っていた十数台の高級車のうち、最後尾についていた1台が、ようやく聖堂のエントランス前に到着した。





「どうぞお嬢様、この先のエントランスホールにて、御頭領がお待ちです」




 図体の大きな男に誘導された少女、ロザリア=ヴィットーリオはさっさと車を飛び降りる。



 彼女の機嫌はすこぶる悪かった__



 肩幅が広い黒スーツは今一度自分の肩に合わず、夏に入ったばかりの日差しに容赦なくスーツに、一日中熱気をもたらされるともなれば、朝方から苛立ちを覚えずにはいられないものだ。




「……ったく! 何で私がこんな所に……!」




 茶髪のストレートヘアーを右手で掻き上げ、ため息混じりの舌打ちをかましながら、ロザリアは乱雑な足取りで堂内へと入っていく。



「ヴィットーリオ嬢、お待ちしていましたよ。規則の通り、護身用の武装はお持ちですね?」




 ロビーを回っていた黒人の男に声を掛けられる。マフィア関係者で、会場の警備係のようだ。



 ロザリアは、己が緑色の瞳を鋭く尖らせ、無愛想な形相を浮かべながら、黒いスーツのスカートに手を潜らせる。



 すると、そこの中から、金色の光を輝かせたマグナム銃(アメリカ製の44レミリック・マグナム)を取り出して彼に見せた。



 


「ほらこれ! 私が物心ついた時から手放していないわ。何たって黒いスーツと武装やタトゥーは、この街での闊歩が許されるマフィアの証なんでしょう?」




「よろしい、では奥へお入り下さい」


 


男に指示をされた彼女は、金色のマグナムを黒いスカートの中へ仕舞い混み、急いで先へ進んだ。



旧大聖堂(カテドラーレ)の屋内は、旧西暦時代までは列記とした宗教史上の建築物として保存されていたのだが、シチリアがマフィアによって自治国を名乗ってからは、屋内を全体的に改装されたのだ。



 現在では、広大な聖堂は3階建ての造りに変わってしまい、主に会議場や社交パーティーを目的とした部屋が多く設けられている。


 大衆からは[市民会館]と呼ばれているが、実際にはマフィアの裏取引や会合の会場に利用されることが多く、まさに〔マフィア達の巣窟〕という呼び名がふさわしい状態であった。




 エントランスを奥まで進んだロビーのカウンターにて、黒い髭を生やした紳士が、こちらを呼びかける。





「おぉロザリアじゃないか、もう着いていたんだな。お前を待っていたんだよ!」





 呼び掛けていたのは、〈ヴィットーリオ=ファミリー〉の頭領、フランコ=ヴィットーリオであった。





「あら、そういうお父様こそ、随分と早くご到着なされていたのですね」





さすがに自身の機嫌の悪さを、父の前で表すわけには行かなかったため、ロザリアは淑やかな笑顔で彼に接した。





「あぁ! なんと言っても今日は、国全体を挙げての会合だからなぁ。諸島の至る所から有力なファミリーの頭領が、一斉に集まっているんだ!」




「はい、前日から聞いてはいたのですが、本当に盛大な会合なのですね。でも、国全体を挙げて……というのは?」





「シチリア諸島を支配する大規模なファミリーが、皆ここに集結してるという意味だよ。おそらくは、この会合でこのシチリア自治国の将来が決まるといっても過言ではないさ!」





 ロザリアは改めて周囲を見渡した。確かにこの旧大聖堂カッテドラーレは、建物が改修されて以来、ずっとマフィアによって独占的に使用されていたが、こんなにもマフィア達がこの場に集まるのは、今回が初めてのことだ。





「それで……そんな重要な所に……私を?」




「当たり前じゃないかぁ。何せお前は、このシチリアを支配するマフィアの中でも最大の勢力を誇る〈ヴィットーリオ=ファミリー〉の頭領である私の跡取りだ。


だからお前が大人になる前に、こういった取引の空気や緊張感を学ばせるには、これほど絶好な機会はないと考えとるよ!」




 フランコは、右手に持った葉巻を激しく振り動かしながら話していた。これからの会合に向けての意気込みが、その仕草から伺うことができる。





「ということは……私自身も会合に参加するのですか?」





「いや、お前がお勉強するのは、あくまで会合の空気だよ。今回は…ちょっとね、機密事項が含まれているからなぁ、大人だけの話し合いだ」





「大人だけの……そうですか……」




 不意にロザリアは不機嫌さが表情に出てしまい、眉にしわが寄ってしまう。





「頭領、そろそろお時間です。2階の中央会議室の方へ……!」





 傍にいた付き人が、フランコに会合の場へ向かうように促す。





「あぁわかった。ヴェルニーニの頭領はもう席についているだろうな……!


 じゃあロザリア、お前は3階の交流ホールに向かいなさい。


頭領の夫人や家族たちがパーティーを楽しんでいるからね。社交会は良い人生経験になるぞ!」





 フランコはそう言って、付き人と共にその場を立ち去っていった。




「重要な会合ねぇ…… 一体どれ程えげつない金儲けの話なのかしら……?」




ロザリアは再びため息混じりに舌打ちし、ロビーの手前にあるモダンな階段を上がっていく。




しかしながら、元は大聖堂とはいえ、1階建ての建物を強引に3階建てに改装したからか、各フロアの天井はやたら低い。




 それ故に、何だかこの建物全体が、とても小さく感じられる。




そうかと思えば、正面のエントランスホールは、1階の地面から3階の天井まで12m程の空間が突き抜いている。




 また、2階や3階の会議室やホール等は定員300名程の大きくて開放的な空間が備え付けられていた。そのためマフィアの会合でなく、ごく稀に、民衆や一般企業などの会議場としても利用されることがある。




階段を3階まで上がると、言われた通りのパーティー会場、〔交流ホール〕へ入っていく。




 60坪ほどの広大なホールは、キャンドルと豪華な料理で彩られたパーティーテーブルと薔薇色のカーッペットに覆い尽くされている。


 そこに洒落込んだドレスや洋服を着飾ったマフィアの婦人たちが、食事をしたりシャンパンを手に語らうなどをして、日が昇る時間から宴を楽しんでいた。






「あら、貴女様はヴィットーリオ御頭領様の娘様ではありませんこと~?」

 



 やはりホールに入って早々、小太りした中年の淑女に声を掛けられる。





「えぇ……父が会合なので……自分は付き添いとして参上致しましたの……」




「フフッ、本当にお淑やかで礼儀の正しいこと♪


 なんと言っても、ロザリア様はフランコ頭領様の跡取りとなるお方ですものね〜♪


 そのお立場を貴女様お継ぎになれば、きっとこのシチリアは安泰と繁栄が約束されますわ! 将来がたのしみですこと♪」





 一人の淑女がそうやってロザリアを褒めちぎると、他の夫人やマフィア関係者達がわらわらと彼女の元へ集まり、寄って集って可愛がろうとする。




 懇切丁寧に相手をすれば、かなり体力を浪費するだけだ__





「あの……もうよろしいでしょうか? 私は最近疲れていて、また少し落ち着いてから……飲み物や御馳走を頂きたいですわ……!」





「そうですの? やはり次期御頭領ともなれば、日々お忙しくてお疲れでしょうに、どうぞこの部屋でおくつろぎになって♪


今日は年に2・3度くらいの交流会なのだから、貴方様もきっとお楽しみになれるわ♪」




「ありがとうございます……そうさせて頂きますわ……」




 

 ロザリアは適当に淑女らを振り切って、ホールの奥にある屋外テラスに一人立つと、腹の底から溜め込んだ苛立ちと鬱憤を思わず吐き捨てた。

 




「チッ……! 何がマフィアはシチリアの権力者よ……! 所詮は犯罪行為で国の一部分を(むし)り取ったゴロツキ共の分際で……!」





 右手の拳を握り締めながら、彼女はしばらく奥歯をかみ締めた。



 彼女はマフィアを酷く嫌っていた__




己の利益のために人を踏み台にし、実質は犯罪行為を延々と繰り返し相反する者は抹消する、権力と財力に捉われた魔物の群__



それが彼女にとっての、マフィアに対する絶対的な固定観念であった。皮肉にも、自身がマフィアの娘かつ跡取りであるにも関わらずである。


 

 かつて、このシチリア諸島をはじめ、日向の世界から目の敵にされていたマフィア等の闇の社会が、諸島の権力者として持て囃されるようになったのは、今から400年前、第三・四次世界大戦《西暦の終焉》直後の時代であった。



 戦争の爪痕をひどく残した旧イタリア共和国は、深刻な財政難に苦しんでいた__



 地方都市には経済的救済など行き届くはずはなく、シチリア諸島全体には経済的打撃による貧困が広がっていた。



当時、諸島一帯に蔓延っていたシチリアマフィアの勢力は、自分たちの生計のためも理由の一つとして、自らの縄張りとするシチリア地方一帯の救済に一役買って出たのである。



 武器の密輸や麻薬取引といった悪質な方法ではあったが、その利益は僅か数年のうちにシチリア諸島の経済を見事に立て直し、活性化に導いた__



 そうして、彼等はシチリア諸島の救世主として称えられ、ついには諸島一帯の自治権まで与えられたのだ。



 しかし、諸島に豊かさが取り戻されたとはいえ、人々の幸福や安らぎが約束されるわけではなかった。


 

民衆の支持を獲得し【シチリア自治国】を建国した彼らは、互いの権力や地位に激しく執着し、各土地の支配権や高地位の役職などを巡っては対立を深めていった。



 その結果、マフィア同士の戦争が絶えず行われ、約400年に渡って【シチリア自治国】全体が一つに結束することは無かった。



 今こそは、有力なファミリーの手によって大規模な争いは抑止されてはいるが、やはり頭領達の間においては、権力や名声の拡大といった野望を抱くが故に、互いが殺し殺される立場にいる関係は、今日まで変われなかったのだ。



実際に、ロザリア自身の家柄である〈ヴィットーリオ=ファミリー〉もまた、そんな汚れた秩序と歴史の中を生き残り、現在ではシチリア諸島随一の勢力と権力を築き上げたのである。



 無論、敵対勢力や反発するマフィアは壊滅に追いやられ、また意図的に追いやられるような画策されたりもした。



 恐らく今後も、それは依然として続けられるのだろう。



 先ほどマフィアの夫妻である淑女達は、ロザリアをああだのこうだのと持ち上げて可愛がろうとしたが、そんなことをする理由など、ロザリアには用意に想像ができた。



 家の権力にすがりたいのだ。跡取りである自身を褒め殺し、気に入られて安泰な地位を授かれば、ファミリーの将来も安泰だ。そう考えているのは間違いない__



 もしくは、あれ程まで持て(はや)しておいて隙を狙い、暗殺してしまおうと画策されている可能性も十分に在り得るだろう。


 

 そんな事を考えるうちに、次第に精神が疲弊してくる。全てのマフィアを軽蔑する気持ちになる。



 とはいえ、そのような家系に生まれた以上は、出世を賭けた醜い殺し合いの中に身を投じることは覚悟のうえだ。あれこれ悩むだけ無駄であろう。



幼少の頃から、そう腹を決めて今日まで育ったことを、ロザリアは改めて認識した。


 

 展望テラスから、パレルモの港街を眺めること一時間が経過していた。



 時間を潰すようにそこで黄昏ていると、背後から優男のような低い声に呼び掛けられた。


 



「あん? お前ロザリアじゃねぇの! ヴィットーリオ家の箱入りお嬢様が、何だってこんな大人の会合に顔出してんだか!」





一瞬、小物に見られるような言い様に腹が立ったが、聞き覚えのある声だったので挨拶に応じた。案の定、顔見知りだった。





「あら、あんたローツェじゃない! こんな所でお会いするなんて、あんたも随分と偉くなったのかしら!?」





 マフィアの青年、ローツェ・ドゥ=ヴェルニーニはその言葉に対し、「フンッ!」と見下したような鼻笑いをしてあしらう。



 彼は、このシチリア諸島を代表するファミリーの一角、〈ヴェルニーニ=ファミリー〉現頭領の一人息子であり、当然のこと次期頭領の座を受け継ぐ男でもある。

 



 マフィアのトレードマークとも言えるような黒いスーツを、身体にフィットさせるよう着こなし、その立ち振舞いと姿勢には、常に周囲の者がひれ伏すと噂されているプライドの高さとカリスマ性がはっきりと表れている。



 上下関係の厳格なマフィア社会を担うものとしては、これ以上に無い人材であるだろうし、実際に身内や連合を組んだファミリーの頭領からは高い評価を賜っているそうだ。





「偉くなったもの……か、まぁ確かに? 俺はもう18歳だしなァ!その間に色々先立って社会を学んできたし、将来のために下済みしたもんだ。長年の努力が形になってきてんだよ。お前はどうだか知らねぇがなぁ!」

 




「あら、それは名誉なことよねぇ、褒め称えられるべきことだわ。私なんて、周りの頭領からは未だ箱入り娘の扱いよ。挙げ句、お前はまだ幼いから会合は早いなんて、ホントに期待されてないみたいねぇ私……」





 ロザリアは愚痴を溢しながら、何気なくスカートに隠した金色のマグナム銃を取り出し、レボルバーをいじり始めた。それ以外、特に何もすることがなかったのだ。





「なぁ箱入りのロザリアお嬢様よぉ、どうせお前のことだから、会合の内容聞かされてないんだろう?」





「そうね! それがどうしたのよ……!」





 レボルバーに厚さ10mmの弾薬を差し込みながら、ロザリアは無愛想に返事をする。





「ちょうど、お前がチャカをいじってたから思い出したんだよ。まぁ権力のデカいファミリーの頭領や幹部しか知らねぇ機密事項だから、まだ年端もいかない嬢ちゃんは絶対聞かされていねぇ話だ……!」





「あら、教えてくれるの? プライドと地位を重んじるヴェルニーニの後継者様は、女性にはそこはかとなく甘いのかしら?」




「ふんっ、言ってろ。俺からすりゃお前は所詮は将来の敵なんだからなぁ。だが、お前が頭領になる立場として、お互いに対等な情報と勢力で張り合いてぇなんて思うとこもあるんだよ!」





 ローツェはそう言って、再び鼻笑いをする仕草を見せた。


 彼の言葉の表現やセンスには、相変わらず人を嘲け笑っているようなものが感じられるが、何故か今回は、やけに楽しげな雰囲気が彼から伺えた。





「なぁお前……! この世に《人体兵器》ってヤツが実在したら、

信じるか……!?」




「……………はァ?」




 ローツェの突拍子もない発言に、ロザリアは耳を疑った。





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