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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
2. 少女リリーナと戦乱の女兵士 編
29/105

・暴力と陰謀と《ギルソード》(2)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「オイ何だァ? この気味の悪いガキは?」 




 宵闇と街の電灯に包まれたダマスカス中心街の路地裏では、1人の少女が、武装した大柄な男兵士3人に取り囲まれていた。



 身を包む漆黒の旅人用マントの隙間からは、彼女の浅黒い褐色肌が覗くが、電灯に照らされたその異様な姿は、その者達を釘付けにさせた。



 少女の手足や頬、首筋には、藍色のトライバル模様をした刺青が掘られ、マントに隠れた肌の奥にまで続いているため、間違いなく全身にそれは張り巡らされている__

 



「まぁよ! どうせこの街の治安を考えりゃ、あれはそういった趣味のある富裕層に売られた性奴隷か何かだろう!?」




 この都市の人々の目からは、彼女の姿は、そう映って見えるのが自然だ。



 この周囲に住まう者の大半は、〈旧政府軍〉によって守られた富裕層及び、それに属する軍人や聖職者が過半数を占める。


 そして残りの極少数は、その者々に使われ弄ばれる下人や性奴隷、もしくは道端で痩せ細った物乞いもしくは都会のギャングだけだ。


 

 故に、彼女の容姿は、酷く異常な光景ではあれど、特別に驚いたり騒いだりする程の光景ではなかったのである。





「……にしても、ほんっとに変わった趣味してんなぁ? コイツの持ち主はよォ? こんな貧相な身体したメスガキにタトゥー掘って遊ぶのが楽しいのか?」




「拾ったモンにケチつけてんじゃねぇよ! よく見たらカワイイ顔してやがるぜ? まず俺が楽しむから、お前ら邪魔すんじゃねぇぞぉ……!?」





 男兵士の1人が、下衆な笑いを上げて少女に掴みかかった。その瞬間__





「……なんだ? 身体の模様が……光ってねぇか?」




 もう、すでに手遅れであった。


 男が異変に気づいた刹那、逆に少女が彼の顔面に掴み掛かる__





「クソ……! テメェ……あ″あ″あ″あ″あ″……! 熱い″……熱い″……あ″あ″あ″……!」




 少女を除いて、その場にいた全ての者が、目の前で起きた現象に、全身が凍りついた__



 少女の手に掴まれた男の顔が、一瞬のうちに焼け爛れる__


 小さな手から発したのか、やがて高熱のあまり溶けかけた男の顔面は炎に包まれ、やがて全身を覆い火達磨となった。




 __その時、少女の身体に刻まれたトライバルの刺青は、炎のそれか血のそれか、鮮やかな真紅色に輝いて発光し、硝子の窯にも劣らぬ高熱を帯びていた。




「こ……殺される……」




「マジ……かよ……このガキ……普通の人間じゃね……ぇ……兵器か……何かか……?」





 残り2人が恐怖のあまり、背を向けて逃げようとした刹那、男達の後頭部は彼女の手に捉えられ、そして広大な市街地に大して響かない絶叫を上げて、火達磨となって焼け焦げた__





「女子供だから弱いと思ったの? 馬鹿? よく今まで兵士として生き延びられたわね! まっ! 私ったら、世にもイレギュラーだから? 仕方ないか〜♪」




 燃料と化した男兵士達の炎を横目に去りながら、小柄な少女は独りでに呟いた。



 

 __やがて、路地裏から繁華街へと赴いた少女の目には、広大な宮殿が飛び込んでくる。



 『新アゼム宮殿』、ダマスカス中心街に構えるアラベスク様式の宮殿である。



 元は旧西暦1700年代半ばに後期オスマンの地方総督よって建造され、その後は民族博物館として管理されていたが、


現在は第三・四次対戦によって破壊された大統領宮殿に代わり、かつての政府軍の残党である〈旧政府軍〉の拠点として、その役割を担っている。



 故に、宮殿の周辺の警備は特に厳重であり、昼夜を問わず、数十台の重装甲車・戦車が往来し、数百人の兵士達が将校の警護に従事する。



 少女は、徐にマントの中の胸元を左手で探ると、カードのように薄い超薄型のスマートフォンを取り出した。



 目の前に現れた『空間型ディスプレイ』を2つ3つと操作した後、またもや独り言を呟く。





「……へぇ~? あそこに仕掛けておいた《罠》が破壊されちゃったのね~?


 もしかしてぇ? あのロエスレルが言ってた〈戴冠の女王軍(マリー・ルイーズ)〉の《ギルソード使い》の仕業かしらぁ?


 キヒヒッ……! だとしたらぁ? 今夜は部下のアイツに面白い事が教えられそうだわ~♪」





 その甘くて無邪気な声に似合わない、酷く歪で気味の悪い微笑を浮かべながら、少女はゆっくりと兵士の巡回する宮殿へ近づいていった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「全く嘆かわしい……!! 本当は今日で一掃するはずだったんだ!!


 あと一息で殲滅できるゴキブリ同然の反乱軍共をなァ……!! 


 それが何だあの醜態は……!?


 突如として重装甲車15台程が原因不明の事故により指揮が混乱……!? やむを得ず撤退だと…!?


こんな現実離れした結果など……一体どうやって受け入れろと言うんだ……!?」





 新アゼム宮殿の特殊秘書室では、将校の輝かしい軍服に身を包んだ60歳前後の男が__


 皺を眉間に寄せて不機嫌な形相で、手書きの報告書類を片手にブラック珈琲を口に入れながら、向かいのソファーに腰掛けた男性に語りかけていた。




 光沢を帯びた重厚な木製のテーブルには、古びた書類と万年筆がばら撒かれている。




「お気持ちはお察しできますよ? グスタフ=アッディーン少将殿ぉ?


 不測の事態というものは、世の中生きている限り幾度も行く手を阻むのが世の常です。


 だからこそ、備えに備えを重ねて、万全なる矛を備えておくのですよ! 如何なる脅威も討ち滅ぼすためのねぇ……?」





 迎えの席では、黒スーツに身を包んだ大柄な男が、怒る老人を前に悠長なで腰を据えていた。



 年齢は30歳前後で、痩せ型で顎の輪郭は細長く、背丈と足は非常に永い。背丈は恐らく190cmは下らないだろう___




「確かヴィザロと言ったな……! 我が盟友よ! 人の心境を簡単に理解しきったように言うもんじゃない。


 だからこそ、諸君をここに迎え入れたんじゃないか!?


 その神の贈り物のような《それ》が欲しくてしょうがないんだよ!!」





 気高き老兵こと〈旧政府軍〉最高指導者グスタフ=アッディーン少将はそう言って、手に持った珈琲のマグカップを机上に置くと__


 向かって秘書室の左側の奥に置かれた、まるで映画の『コールドスリープ』のようなカプセル装置に目を向けた。





「《超兵器の聖母体(ギルソード・マザー)》ですか? 勿論です! そのために我々はこの場に参上させて頂いたのですから……!」





 少将グスタフに招かれた男、ヴィザロ=ディオロールは、スーツの胸ポケットから厚さ3mm程のスマートフォンを取り出して、その先端をグスタフの方へ向けた。



 すると、彼の目線の前には、空間型3次元モニターが現れた。


 そこに表示された内容は、《例の兵器》の説明文書であった__

 




「《ギルソード》か……話には聞いていたが、実物をまだ見ていないうちは想像もつかんな……!


聞けば、先日に同じ品をシチリア島の連中にも売っていたそうじゃないか!? こんな神々しい代物をよくもあんなロクデナシの畜生共に売ったもんだ……!」





「その件に関しては、完全に我々の失敗ではありましたよ……!


 現地に取引へ赴いた者の部様な失態もありますが、やはり連中は《ギルソード》に選ばれ、使いこなす者共の器ではなかったようです……!


 神秘かつ神聖な軍事科学を、醜く下らない小競り合いに使い潰したとあってはねぇ!


 まぁ我々にとっては、連中は実験動物モルモット風情に過ぎなかったのですよ!」




「フンッ! 仕方なかろう! この時代において、まともに国家権力が機能する領土など、世界でも手の指で数えられる程度か否かであろうよ!


 だが我々は違う! 我々は由緒正しき〈御国〉の盾ととなり忠誠を誓った〈政府軍〉だぞ!?


 祖国の剣である我々が、神聖なる《ギルソード》を手にした暁には__!


 〈自由軍〉を名乗る愚かしき反乱軍を断罪し、真の国民統制と宗教・思想の統一を掲げよう!


 敬愛すべき先代の大統領や閣僚様方の偉業に恥じぬ、理想の国家をここに形成させる!!



 その宿命故に! 私は《ギルソード》を使うのだ!

 

 それを努々(ゆめゆめ)忘れるな!?」





 グスタフは興奮のあまり、右腕で机上を何度も叩きながら、ヴィザロに怒鳴るように訴えかけた。



 その衝撃で、マグカップが倒れ、珈琲が床に零れて汚れてしまう__

 



「……貴方様の祖国への御忠誠、しかとこの胸に刻まれました!


 では、敬意を持って、こちらに『誓約書』をお送りして差し上げましょう……!


 ご精読の上、サインをお願い申し上げます!」





 ヴィザロがそう言うと、グスタフの目の前にある空間型モニターには、新たな『メッセージアイコン』が画面上に表示される。





「……あぁ、そうさせて頂こう!《神聖なる兵器》の威力、楽しみにしているぞ!!」






 グスタフは満ち足りたような表情で、モニター『メッセージアイコン』をタップすると、ヴィザロは静かに席を立ち、「では、私はこれで……」と一礼をして、特殊秘書室の出入口へと赴いた。





◇◇◇◇◇◇◇





 宮殿の特殊秘書室を後にしたヴィザロは、宮殿内の地下施設へと赴いていた。



『新アゼム宮殿地下軍事要塞』第三次対戦時に破壊された大統領宮殿に代わる国の軍事拠点として、今日までその役割を果たしている〈旧政府軍〉の戦力かつ生命線である。



 仄暗く灯りも見当たらない広大な空間の中には、旧式の戦車や戦闘機から21世紀末に開発されてた無人殺戮兵器まで、

 

 旧西暦時代末期の戦争史を物語るような、核を除いた様々な既存兵器が格納されている。





「ククッ……! 懐古趣味でもあるまいし……! よくもこんな400年前の骨董品などを、今の今まで実用できたものだ……!」





 ヴィザロは、滑稽な眼差しで鼻笑いを繰り返しながら、それらを独りで眺めていた。すると……





「どう? 誓約の進捗は? まっ人間なんて考える事は一緒なんだから、うまいことアンタの口車に乗った感じかしら?」





 左側がら、どこか無邪気で甘い声が聞こえる。



 ヴィザロがそちらを振り向くと、目の前には、なんと見窄らしい黒マントを纏った少女の姿があった。




 先刻に路地裏で男兵士達に襲われ、非道の所業で返り討ちにした、恐ろしい少女と同一のそれ__




 マントのフードを拭い、褐色の肌と頬に彫られたトライバル模様を向け出しにしたまま、彼女はニヤニヤと口を緩め微笑んでいた。





「いつから宮殿内におられたのですか? 警備や監視も厳重なこの回廊、その御格好では怪しまれて射殺されますよ?」





 ヴィザロは何一つ取り乱すことなく、冷静な眼差しで少女に接する。





「分かってるわよ! そんなこと……!


 ったく! アンタは立派にスーツ決め込んで、宮殿の連中に良い顔してれば、無駄に相手からチヤホヤされるだろうけどさぁ?


 私は身体の模様のせいで、どんな服を着ても異形の視線が飛ぶんだから、貧民の格好したスパイ工作ぐらいしか、やりようがないんだからね!

 

 ……まぁそれは置いといて~?


 奇妙な報告が1つあるのよね〜♪ これよ!」





「これ………とは?」





 ヴィザロが問いかけると、少女は手に持った薄型スマートフォンのディスプレイを差し向ける。


 

 ディスプレイにはダマスカス近郊の電子地図が映し出されているが__


 その中で、画面上の最も手前側に『信号探知エラー』という赤字の警告文が、チカチカとをこれ見よがしに光らせて警告していた。





「おや? ここには確か私の……」





「そうそう、アンタが丹精込めて造った《殺人トラップ》が、どうやら破壊されちゃったみたいでさぁ?


 おっかしいのよね~?


 《ナノマシン》は発動時の『起動発光』でもしない限り、人間の目で見て破壊されるなんて、絶対にありえないんだけどな~?」





 刺青の少女はそう言って、スマートフォンを胸にしまうと、呑気に両手を後ろに組んで口笛を吹く。




「成る程? そういうことですか。まぁ所詮はネズミ取り1つ壊された程度、こんなもの……私の《ギルソード能力》で、いくらでも生産が可能ですよ……!」




「そう? なら計画に支障は無し! ……で? あの少将殿に譲渡する《ギルソード》の数は?」




「500基程です。シチリア島で売り払った数よりは少ないですが__!


 不足分は《ギルソード特殊能力》を省略オミットした《簡易型ギルソード》でまかなえば、万全な戦力として__


 顧客もご満足頂けましょう__!」




「あら♪ それは完璧♪ でも今回は超兵器の《ギルソード》を売り捌くのが目的じゃなくて、アンタの所有する《ギルソード》の性能実演デモンストレーションが目的だから♪


期待してるわよ……? ヴィザロ=ディオロール……!


全ては我等が〈革新の激戦地(ヴェオグラード)〉の理想のためにね……!」





「心得ております……! 偉大なる()()()()、グレーネス=ディズレーリ様……!」




「……ここでその名は言っちゃダメよ! でも、アンタのその忠義は本当に最っ高っ~♪」




 少女ディズレーリは、不気味な笑顔をニヤリと浮かべた__



 見た目とその年齢に相応しない、怪物の如く目と口が歪んだ顔。狂気に満ちた悪魔のそれ__






「じゃあ、後は任せたわよ? あっ! あと1つ、《あの失敗作》どうするの……?


 私達にとってはゴミ同然だけどさぁ?


あのカモ共にとっては、玩具おもちゃは多い方がいいじゃない?


 ……売って金にしちゃう? どうする……?」





「そこは、貴女様のご判断にお任せいたします。如何様にでもご命令を下されば……?」




「ククッ! 言っちゃった~♪ 私に権限握らせたら〜♪ どんな結末になっても知~らな~いよ~♪」




 彼女は笑いながらそうを言うと、機嫌よく鼻歌を歌いながら、そのまま仄暗い地下施設の奥へと姿を眩ませた。 




「さてと、少し実験開発でもしますか……!」




 ヴィザロが呟いた直後、彼の身体からは真っ赤に光る《ナノマシン》が一斉に湧き出し、やがてオーラのように身体を包むそれは、その波動エネルギーを彼の両手に注ぎ込む。





「私の所有する《融合造形の施工具コンバインモールド・トールズ》は、攻撃力の高い《ギルソード》ではない……!


しかし破壊力だけが、《ギルソード》というものではないのですよ……♪」





 薄気味悪く笑うヴィザロの両腕には、長さ1.5m程の《巨大レンチ》と、ドリルの刃が1.2m程と長い《巨大電動ドライバー》が、左手と右手に握られていた。




「……では? ……改造開始!!」




 それ等の双方には、共に血のような赤い《ナノマシン》が現れ、覆うように包み込まれていた__



 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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