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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
2. 少女リリーナと戦乱の女兵士 編
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第11章 戦火に咲く可憐な花(1)

《人物紹介(追加分)》


リリーナ=フェルメール(16歳)…《ギルソード使い》の少女。親友のユウキと別行動で別れて、国家機密兵器である《ギルソード》の回収のため中東地方に降り立った。情が深く心優しい性格だが、慈悲のあまり自身を省みない難がある。

ユウキとは一味違った《ギルソード》を所有している。


ラティファ=イスファハーン(18歳)…中東の民間軍(自由軍)の少女兵士。内戦で家族を亡くし、同じ悲しみを増やしたくない願いと、戦火で生きる者を守りたい思いで、兵士に志願した。

常に見張り役と、孤児の世話役を自ら引き受けている。


アフメド(50歳)…自由軍の司令官。拠点であるダマスカス地下豪から指揮を執っている。


イザール(28歳)…自由軍の若き兵士。気性が荒く皆からは恐れられている。



 砂埃と乾いた空気に満ちた中東地方の砂利道を、少女リリーナ=フェルメールは1人寂しく歩いていた。



 麻布の粗末な旅人用マントで頭と身体を覆い、その下から覗かせる小枝のような細い脚。


 砂利道とは場違いな女学生用の革靴と、黄色と橙色の生地で描かれた花柄模様の長靴下によって、可憐に包み隠されている。



 彼女の小さな右手には、スマートフォンタブレットが握られ、そのディスプレイには、とある通信相手との連絡が繋がっていた。




『……といった状況だ! ユウキはすでに回収した《ギルソード》のデータを持ってシチリアを離れて合流ポイントに向かい、後はリズボンでお前と落ち合う……という予定ではある!


 お前の任務はユウキと同じだ! やる事は分かっているな? リリーナ!』




「……そっか、ユウキは無事に目的を果たしたんだね。マフィアの巣窟って聞いてたから、心配で気が気じゃなかったよ……」




『今からお前が向かう場所よりは、まだマシだと俺は思うがな……

その台詞、そのままユウキに伝えたらどうだ? 心配で気が気じゃねぇのは、アイツの方だと思うぜ?』




「そう……私は大丈夫だよ。ユウキが頑張ってやり遂げたんだから、私だって見習わなきゃいけないなぁ…! だからきっと………


 ………っ? ……これは…………!?」




 リリーナは不意に立ち尽つくして、顔から首を覆っていたマントの麻布をぬぐい取ると、その素顔が露わになる。



 緋色スカーレットに輝くミディアムヘアの髪と瞳、やけに華奢で細長い手脚と腰回り、恐ろしく可憐に整えられた顔つきとその美貌。



 もしも男性がすれ違ったのなら、間違いなくその者の目を釘付けにするだろう。



 そして、彼女を最も特徴づけるのは、ツーブロックの前髪の分かれ目と左目の上の間に見られる、迷彩色と黒のクローバー模様が目立つヘアバンドだ。



 大抵は前髪の上から巻かれるものだが、彼女のそれは前髪に隠れて、額に直接巻かれている。



 意図的に額の何かを隠すように__





『あァ? 一体どうしたんだ? 目の前に何かあるのか?』




「これが……戦争の爪跡……?」




 少女は、目の前に広がる凄惨な光景に唖然とした。



 緑の1つもない砂と砂利の道に現れたのは、無数の瓦礫の山、大戦で駆使された重装甲車の残骸、木と鉄の棒を縄でつなぎ合わせた幾つもの十字架、埋葬が間に合わなかったらしき人骨。



 ここ一帯、繁栄都市ダマスカス周辺をはじめとする中東の地域は、約400年前の『第三・四次世界大戦』が勃発するよりも以前から、劣悪な経済、宗教の対立、独裁体制への蜂起による人々の殺し合いは、絶える事などなかった。



 内戦地域と指定されたこの一帯の紛争は、やがて世界を巻き込んで、

多くの街や人命の奪い合いが永き時代を超えて繰り返され続けた、凄惨な歴史の地__



 彼女はその中で、20歩ほど離れた場所に、縦横3m程の建物の壁らしき大きな瓦礫が、意図的に地面に突き刺さっているのを発見する。



 近づいてみると、風化で掠れて読めはしないが、確かに文字が刻まれていた。



[戦争……我らの友……安らかに眠れ……神の御元へ……]



 微かに見える文字を拾い上げると、戦死者達の慰霊碑であると分かる。



 その真下には、無数の枯れた花束と、風化で泥で色あせて見えないが、両親と娘の家族写真が挟まった額縁までがあった。





『……そこがどういった場所かは……俺達は教育課程で知っていたつもりではあったがな……! いざ目の前にしてみれば……』





「ひどいよ……悲しすぎるよ……こんなの……!」





 情の深いリリーナは、目から溢れんばかりの涙を零しながら、手持ちのナップサックから食料のパンと飲み水の缶をそれに差し出すと、両手を重ねて静かに祈りを捧げた。



 この一帯で繰り返された、凄惨な過去を思い、胸に噛み締めながら__





『リリーナ、気持ちは分かるが、俺達が成すべき事は重大だぞ……!?


 放っておけば、このダマスカス周辺は、より恐ろしい地獄の光景が広がるだろうよ……!


 《アレ》を早急に回収、もしくは破壊しろ! 誰かの手に渡る前にな……!』





「うん……《ギルソード》だね……急がなきゃ……《アレ》は絶対にダメ……!あんなので殺し合いなんて……絶対にさせない……!」





『いいか!? 焦りは禁物だぞ! 《ギルソード》は重要国家機密だ! あくまで隠密に遂行しろ……!


 中でも最重要機密とされるのは……!


 お前自身が持つ《脳量信号操作型(ブレイン)=ギルソード》の能力だよ!


 【強化手術】されたお前の「大脳」は、その身体(からだ)に宿した《ギルソード》と不離一体、未知数の性能を引き出す《制御装置》だ!


 お前の身体こそ、我が国の【隠し切り札】……!


 隠せよ! ()()()()()()()()もな……!』





「うん、分かってる。ありがとう、キルト……!」





 リリーナは静かに腰を上げ、差し出した水とパンを置いたまま、慰霊碑を後にした。




◇◇◇◇◇◇




「ラティファ! 伏せろ! 旧政府軍の爆撃だァ!!」





 男性の怒声と共に、少女兵ラティファ=イスファハーンは慌てて煉瓦壁の残骸に身を伏せる。



 ダマスカス市街地は硝煙と火薬の匂いに包まれ、爆音と銃声が絶え間なく耳を打つ__



 目の前は砲弾、爆弾、銃弾、さらには爆風による瓦礫の破片までもが飛び交い、逃げ惑う市民だろうと、勇敢に立ち向かう兵士だろうと、生身の身体を晒された者は次々に殺され、血を流し朽ちてゆく。



 嵐のような爆撃に身体を震わせながらも、ラティファは必死に周囲の状況把握を試みる。




 大通りには、乳飲み子を抱える母を守る子供、おぼつかない足腰に鞭を打って老夫婦などの姿が多く確認される。




 無情にも戦闘の流れ弾は、容赦の欠片もなく、懸命に生きる命を貪り奪う__




 目を離した隙に、確かに生きていた人間は、惨殺死体に変わり果てる__




 

「生きる……! 絶対に生き延びてやる……! ……自由軍の兵士として……! 生きてみんなを守らなきゃ……!」




 震える腕で機関銃を抱えながら、彼女は誓う__



 道を埋め尽くす瓦礫、血の海、人々の遺体、肉塊を前に__





「ラティファ……! これ以上はまずい……! 奴等は増援を呼び寄せやがった……! このままじゃ俺達は蜂の巣だ……!!」





「でも……!」





 ラティファは、震える身体を無理矢理に動かして立ち上がるが、ある光景が視界に入った瞬間、彼女の脳に衝撃が走る。




「ママぁ……! ひぐっ……! 起きてよぉ……! ママぁ……!」




 幼い少女が涙を流し、一帯の土砂を血に染めて横たわる女性を、必死に揺すっていたのだ。


 女性は血だまりの中で、すでに息絶えて冷たくなっていた。



 ラティファは即座に銃を投げ捨て、少女の傍へと疾走する__





「馬鹿……! ラティファ! 死にたいのか……!」





 男性の大声に耳を貸さず、ラティファは、母の遺体にすがって泣く少女を抱きしめる。




「大丈夫だよ………私が絶対に守るからね………ママの分まで……私が守るからね……だから……」




 目から零れそうな涙を堪えて、ついに泣き叫んだ少女を抱えて走り出そうとした。しかし……




「……旧政府軍の戦車だァ! 離れろォ! できるだけ遠くへ……!」




「えっ……!?」




 背後に目をやると、凄まじい砲撃音と爆撃音と共に、大型の重装甲車が隊列を組んで差し迫ってくる。



 逃れなければと、慌てて駆けだそうとすると、やはりもう片方からも、重装甲車と旧型ヘリ、機関銃を担いだ兵士達が、またも集団で攻撃に掛かる。



 彼女が逃げる道など、一瞬の内に塞がれてしまっていた。





「大丈夫……! 大丈夫だから……!」




 恐怖で震える幼い少女を抱きながら、ラティファは彼女を宥めようと背中をなでる。


 その身体さえも、戦慄で震えているというのに。



 どうやら、旧型の強襲用ヘリ上空が敵の兵士であるラティファを捕捉したようで、機体から身を乗り出した乗員が、彼女の背中を目掛け、ランチャーを構える。 




「……っ!?」

 



 逃げ切れない。自分は死ぬのか………




 ラティファがそう覚悟した刹那、目の前に人影が覆い被さり、共々伏せるように倒れ込む。





「目を瞑って……!」




 年の近い少女なのか。



 透き通った大声が耳元で響くと同時に、ラティファは指示通りに目を瞑った瞬間__



 次は絶大なる轟音が彼女の耳を打った__


 

 恐る恐る目を開けると、ヘリは唐突に空中爆発を起こし、劫火と灰煙が昇を撒き散らしながら、重装甲車の隊列に落下した。



 すると、どういうわけか__


 次は周囲の重装甲車が戦火の轟音と共に、時限爆弾でも誤作動を起こしたかの如く、次々に破壊されていく。



 2台、3台と次々に重装甲車は爆散し、凄まじい爆音と兵士達の悲鳴が、辺り一帯に絶え間なくどよめき渡る。



 事態の収集もつかぬまま、彼等は混乱を極めたのか、その数を半数に減らした重装甲車は、鈍い起動音を激しく轟かせて後退し、ついにその姿を遠くへ眩ませた。





「生き……てた……アンタは一体……」





 ラティファは、ようやく自分達に覆い被さった人間に目をやったが、放浪者用マントから覗いた意外な容姿に、彼女は驚愕した。



 自身を庇ったのは、美しい少女だった__



 年齢は恐らく16歳前後か、18歳の自分よりは明らかに年下だろう。



 驚くほど整った美貌、年相応のどこか無垢な表情、まるで燃ゆる太陽を連想させる緋色の髪と瞳、異様に細い下半身は黄色い靴下と革靴を纏い、その服装は……



 赤色のミニスカートと大きなリボン、白のワイシャツに灰色グレーの上質なブレザーを着こなした姿は、まるで遠い昔の先進国で着用されたという女子用学生服と酷似していた。





「あの……すみません……! お怪我はありませんか……? 立ち上がれますか……?」





 彼女は心配そうにこちらを眺め、優しくこちらに手を差し伸べる。



 ラティファは、こんな偏狭な地域では見られることのない場違いな光景だったため、暫く起きあがるのを忘れて彼女に見とれていた。



 彼女の目には、その少女が女神に見えた__


 

『リリーナ! お前は人の話聞いてたか!? まさか人前で……《アレ》を使ったんじゃないだろうなァ……!?』




「……ごめん……! でも……こうするしか方法がなかったの……! 見過ごせなかった……」




 足元には、黒い薄型スマートフォンが落ちていて、通話の声が聞こえる。誰かと連絡を取っていた途中だったのだろう。




 

「貴女、何処から来たの……? この周辺の人種じゃないし……! それに、その服装……」 




 思わず、ラティファの口からは、感謝の言葉よりも先に疑問の言葉が飛び出してしまった。



 身を挺して命を救ってくれた相手には、裏切りに等しい程の不躾な行為だと思いながら__




 

「わ……私ですか……? わ………私は……!」




 唐突な質問に、緋色の少女は慌てふためく。



 だが、そんな事情など、言葉で問うまでもないのだ。



 常に民族紛争が繰り返されるこの当たりを放浪しているのだから、村や町から戦火を逃れて生き延びた、そう考えるのが自然だろうに__





「この服装は……身を守りやすくて、体調を崩さないからって……領主の人から頂いて……その、

信じてください!私は敵じゃないです……!」





「そんなの分かってるわよ。そうだったら、危険を犯してまで、助けてくれないじゃない!


 先に礼を言をいわなくて、ごめんなさい……! 貴女のおかげで、本当に命拾いしたわ……」





「とんでもない……私は、人として当たり前の事をしたに過ぎませんし、でも……そちらの……」





 彼女の視線の先を追うと、ラティファが抱えていた幼い少女の姿に辿り着いた。


 顔色が悪く虚ろな瞳で、すすり泣いている。



 4、5歳程の幼さだ。


 その年で、目の前の肉親が殺されるのを目の当たりにしたのだから、数年程度の期間では、早々に立ち直りはしない。


 心の奥底に刻まれた傷は、一層深い___




 

「……逃げよう、お姉ちゃんと生きよう。

きみを大切に思っていた……お母さんの分まで……ね?」





 小さく優しい声をかけ、ラティファは幼い少女をそっと抱き上げた。



 だがその間に、暫く治まっていた砲撃音が、遠くからかすかに聞こえる。





「ここは危険だから、とにかく地下豪へ行くわよ! アンタ名前は!?」




 ラティファは、焦るように緋色の少女へ目線をやった。





「えっと……リリーナ=フェルメールです!」




「分かった! ついて来てリリーナ! ほら急いで!」




 彼女の名前だけ即座に知りたかったラティファは、確認次第、素早く疾走の方向を定めて、そこへ駆け出した。



 リリーナは「はい!」と大声で返事をしたが、

 

 ラティファに続こうとする前に、すぐ後ろで大破した、多数の重装甲車の残骸に目をやった。


 

 立ち昇る、鉄と化学物質を焼いた有毒な煙の中に、微かにだが、紅色に煌めく幾つかの《光粒子》が浮遊している。





「……おかげで助かったよ。《脳量信号操作型ブレイン=ナノマシン》……!


でも、私の《瞳》……見られてないよね……?」





 誰にも聞こえない程の小声で、リリーナは一言そう呟いた。



 気がせいて、地下豪へと急いていたラティファは、そんな彼女の独り言など、当然気がつくはずもなかった。

 



◇◇◇◇◇

《おまけの会話コーナー》


リリーナ「こ…この度は…!よろしくお願いします!」

ロザリア「あんだよメインヒロインってコイツかよ…!まぁ私が先に登場したんだから私が先輩よ!だからアンタはパシリね?」

リリーナ「えっ!?そんなのあんまりだよぅ…グスン」

ラティファ「…まぁまぁ…あくまで『おまけコーナー』だし?仲良くしようよ!だって…


この絡みって本編に全く影響しないんでしょ…?」


ロザリア「それ言ったらアカン……」


作者「…というわけで、第1主人公であるユウキの活躍は間をおいて、第2主人公とも言うべきヒロイン、リリーナの活躍を描かせて頂きます。何卒お付き合い頂きますよう、宜しくお願い申し上げます…!」




※注:すみませんが、男主人公ユウキの次回登場は、しばらく先の【第18章 平和の遠い世界で】です。

ヒロインの活躍ばかりになってしまいますが、どうか大目に見て頂けると幸いです。。

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