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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
24/105

・宵闇に舞う騎士〈下〉(3)



◇◇◇◇◇◇◇





「お嬢様……? ロザリアお嬢様……!?」





 朝の日差しと疳高い女性の叫び声に、ロザリアは重い意識と瞼を起こして目を覚ます。





「……あれ……?……わ……私……けほっ! ……ぐっ……! ……痛ぁ…………!」





「いけません……! そんな怪我でお身体を動かしては……! ご不憫をおかけしますが、せめて救助が到着するまで、ここで必ず安静にしていて下さい!」



 

 そう言って、気が気でならぬような顔色でロザリアを見つめていたのは、ヴットーリオ邸に勤める使用人の女性だった。名はミランダという。



 ここにいるという事は、彼女は屋敷を火の海にした襲撃を逃げ延びた、数少ない生存者を意味する。




「ミランダ……どうして……ここに………! げほっ……ぁぐ……!」




 状況が全く把握できずに混乱するが、一言二言口にする度に、襲撃で負った身体の傷が、全身を噛みつかれるように酷く痛む。



 気がつくと、傷だらけで血が吹き出していた身体は、全身に渡って包帯が巻かれており、見事な応急処置が成されている。


 女中のミランダが駆けつけて、それを施してくれたのだろうか。





「お嬢様? もう話すのはおやめ下さい……!


 お嬢様をお見つけした際は、すでに瀕死の状態だったんですのよ?


 お2人とも血を流しすぎていて……もう手遅れになってしまったかと私はァ……!!」




 女中のミランダは溢れる涙を必死に拭っていると、ロザリアは大切なことを思い出して、衝動的に傷ついた身体を起こしそうになってしまう。





「ミランダ……!ロゼッタはどこ……? お願い……私の……親友が……傷ついて……死にかけて……!」





 ロザリアは必死にミランダの手を掴んで問いだすと、ミランダははっと我に返るように、冷静かつ優しい声で答えた。





「ご安心下さい……! ロゼッタ様はお隣で眠っていらっしゃいます……!」




 ミランダに言われて、ふと右に目をやれば、同じく傷口を丁寧に包帯で処置されたロゼッタが、すやすやと眠っていた。




 誘拐された車内では、ぜぇぜぇと息を荒げて、いつ死んでしまうかと胸が引き締まる思いだったが__


 現在は容態が安定しているようで、ロザリアは肩をなで下ろし、安堵の涙が目に滲んだ。




 しかし、何故この場で自分達が助かったのだろうか。ここは中心街の一角、木組みのビルの屋上だ。




 この傷で倒れて放置されていたのなら、2人とも命を落としてもおかしくはなかったというのに。



 一体どうやって気づいてもらえたのだろうか__




「ねぇ……ミランダ……?」




「お嬢様……? お身体に響くのでお話ししてはなりませんと……」




「疑問に……思った……のよ……! どうして……私達が……ここだと……分かったの……?」




「それは……」




 ミランダがふと目つめた屋上のテラスを、ロザリアも確認する。



 そこには、青白いLEDの照明がロープで縛り付けられ、光信号のように点灯と消灯を繰り返している。



 それを見たとき、ロザリアは一瞬で理解ができた。



 全部、あの男の計算通りだったのだ__



 自分が意識を失う寸前では、傷ついた自身に刃まで差し向けていた癖に__



 結局、最後までユウキ=アラストルの手の中で、自分は踊らされていたのだと思うと、腹の中から煮えたぎる思いがこみ上げてきた。





「あら……? 自動車の音! お嬢様、ようやく救助が来たみたいです! 私は下に降りて迎えに参りますので、お嬢様は今しばらくここでお待ち下さい!」




「お願い……ミランダ……できれば……私よりも……ロゼッタを……優先に……してくれると……嬉しいわ……」




「お嬢様……かしこまりました! 私はいつでもお嬢様のご期待にお応えいたします!」




 ミランダは気を引き締めるように返事をすると、さっそうと螺旋階段を駆け下りていった。



 なんて静かな朝だろう。昨夜のマフィア達の抗争が嘘のようだ。


 目が覚めてから、男達の罵声や銃撃の音など一切聞こえない。



 あの男が、全てに決着をつけたというのか__



 様々な疑問が、ロザリアの脳内を駆け巡って、安静に眠ることなどできないでいた。





「あの馬鹿……ご主人様に……何の挨拶も……無し……? 冗談じゃ……ないわ……!」





 ロザリアは、昨夜ユウキが置いていった救急箱を頭上に見つけ、包帯まみれの重い右腕を差し出して中身を漁る。

 



 

「お嬢様!! お待たせ致しました! ようやく救助の方々が駆けつけて下さって…………お嬢……様……?」

 




 しばらくして、ようやくミランダが救急隊員を引き連れ、螺旋階段って来ると__


 

 つい先程までシーツに巻かれ休んでいたロザリアの姿が、


 忽然と消えていた。




 抜け出された形跡を残したシーツの傍には、慌てて口に含んだのだろうか、鎮静剤と抗生物質のパッケージが、幾つも散乱していた__

 




◇◇◇◇◇◇




 普段は爽やかな潮風が吹き抜けるパレルモ港の桟橋だが、この時は、不気味な程に静粛としていた。


 遠くに澄んだ地中海の風の香りは、血と硝煙の臭いにかき消されている。



 救助を待つ病床を抜け出し、1人ユウキを探し求めていたロザリアは、気がつけば、港の桟橋を目指して、歩が勝手に進んでいた。


  

 額から手足、黒いスーツやスカートの中まで、ガーゼや包帯で覆われてるにも関わらず、ふらついた足元を杖代わりの鉄パイプで必死に支え、


 息苦しさを我慢してでも、彼女の本能が、今にも崩れそうな足を動かしている__





「静かよね……生きてる人間……いないのかしら……1人か2人くらい……歩いていて貰わないと……困るんだけど……」



 

 あまりの静けさを不気味に思い、思わずロザリアの口から本音が零れる。



 この港を真っ先に訪れたのは理由は、ユウキがここからシチリア島に上陸したことを知っているからだ。



 中心街の路地裏で助けられ、気絶から目覚めた場所が、どこかの大型船の救命ボートだった。



そのボートがこの港に停泊しているという事は、まだユウキはシチリアを出ていないことになる。



 しかし__




「…ぇ…? ボートがない……? ……嘘でしょ……?」




 ロザリアは、血眼になって港を隈無く見渡した。



 しかし、海に浮かんでいたのは、乱闘で燃えたヨットやクルーザーの残骸ばかりで、肝心な救命ボートが全く視界に写らない。




「そんなはずは……! だって一昨日はここに……!」




 ロザリアは、思わず杖代わりに持っていた鉄パイプを投げ捨てて、弾丸で肉と骨が削れた足を無理に動かして桟橋へ駆け出した。



 自身でも理解できなかったが、身体が勝手に動き出していた。


 

 全く、我ながら何を考えているのか__



 相手は自分を騙して利用して、我が故郷をここまで傷つけた共犯者に等しい存在だというのに。



 桟橋の先端に駆け寄ると、すでにボートが停泊していた形跡はなかったが、桟橋の端に差し込まれた太い鉄杭に目をやると、縦横7cm程度に折り畳まれた紙切れが、石ころの重石と共に置かれていた。



 まさか置き手紙などではなかろうか。そう思いつつも、ロザリアは即座にそれを手にとって、ばさりと紙を広げた。

 



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 親愛なるシチリアの友


 ロザリア=ヴィットーリオに捧ぐ。



 この度、我が目的を果たした為、俺は帰るべき場所へ帰ることとする。



 もう俺は、この島から去るべき悪党だ。これ以上ここに留まっても、互いの存在が害になりかねない。

 


 先に言っておくが、俺がこのシチリアでやった事は、お前にとって絶対に忘れられないだろうし、一生許されようなど微塵も思わない。



 俺もお前も環境からか、そんなやり方を当たり前だと思っていて、疑問すら持たなかった。



 昨夜は傷を負ったお前に冷酷な言葉を投げつけたが、実際は互いを責める資格など無かった。



 だが、お前は俺とは違う。


 お前には気高き勇気と優しさがある。



 俺を利用した理由は、あの《兵器》の売買がもたらすシチリア島の混沌から守る為だと、最初から気づいていたよ。



 自らの身を危険に晒してでも、友や家族、故郷を守る勇敢なお前ならば__


 マフィアとしてではなく、偉大なるシチリア諸島の頭領として、自分が思い描く理想の島、誰もが穏やかで豊かに暮らしていける島に、変えられるだろう。



 焦る必要は何もない。お前なりのペースで、確実に状況を変えていけばいい!



 自分の誇りを、強さを、信念を信じろ!


その力を好きに振るってみな! どれだけやれるか楽しみにしてるぜ! シチリアの若きお姫様!



 お嬢様の元〘護衛騎士(ボディーガード)


 ユウキ=アラストルより


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 いつの間にか、目の前の手紙の文字はいくつもの雫で滲んでいた。



 それ読み終えたロザリアの手は震え、目は涙が溢れんばかりに零れ落ちて止まらなかった。





「……アイツ……! 馬鹿じゃないの……!? ……気がついてたんなら……最初っから言いなさいよ……!



 ユウキの馬鹿ぁ!! 私に断りもなく居なくなってぇ……!!



 もう少しぐらいこの島に居なさいよぉ……!!



 アンタには言い足りないことだってあるのに…!! こんなマフィアの島でも…いいところや……素敵なところ……!



アンタに見せられるところくらい……! 少しはあったんだから……!」





ロザリアは、水平線の彼方へと大声を響かせた。



たとえ、彼女の声が誰にも届かずとも、その響きが地中海の海風にさらわれようとも、彼女は叫び続ける。





「上等じゃないの!! この私を誰だと思ってるのよ!!



 受けて立つわ!私の手で変えてやるわ!!



 シチリア島の有力者である、ヴィットーリオ家の跡継ぎとして!



 パパやローツェとは違う考え方で!やり方で!



 誰もが利用したりされたりしない! 《ギルソード》なんて兵器に惑わされたりなんかしない!



 自分たちの力で! 皆が穏やかで安心して暮らせる島を、必ず創り上げてみせる!



 アンタがこの島に現れた時まで、楽しみに待っていなさいよぉ!!」





 彼女は、声を枯らす程に叫び続けた。



 そして、永年にわたって自身が抱えていた不満や息苦しさから、ようやく解放された、そんな清々しさが、彼女の胸の中にはあった。





「……ったく! アンタのこと……別に嫌いじゃ……なかったんだからね……」





 ただ静粛で、心地よい波音だけを奏でるシチリアの海を見つめて、ロザリアは最後に一言呟いた。





◇◇◇◇◇◇◇





『……どうしたユウキ? 珍しくお前が黙り込むとは……! あの島に心残りでもあるのか?』





 シチリア沖沿岸の『透ける蒼海オーシャンブルー』を駆け抜けるモーターボートに揺られながら、ユウキはシチリア島の方角を見つめて黄昏ていた。




「……別に? なんもねえよ……!」




 スマートフォンタブレットの通信相手を無視しては気が悪いので、適当な相槌をうつ。





「結局、あのお嬢様から逃げるようにシチリアを出ちまったなァ……



あの時は最後まで面倒見てやれる場合じゃなかったし、救難信号を出してやるしかできなかったが……



 まっ……俺の所業を考えれば、下手して顔を見せちまえばさぁ?


 アイツは顔を真っ赤にして俺を撃ち殺しに掛かるだろうぜ!?


 だって、実際クズ野郎だしな……!


 俺がすべき事は、黙って島とおさらばする以外ねぇな……って、思ったワケよ!」





 ユウキは、少し憂鬱そうな表情で呟いた。





『……そうか。それで話を戻しすが、手はず通りの仕事はしてくれたんだろうなァ?』




「あァ!? お前が話振っておいて……! ったくよォ……!


 あぁそうだ! 破壊した《ギルソード》はデータベースで保管してあるし、あの島にはもう《ギルソード》が存在した形跡は排除しておいた……!


 って思いたいんだがなぁ……無理か……?」

 



『あぁ、それは間違いないな! 今回、シチリアマフィアに《ギルソード》を渡した連中は、間違いなくそれに関する暗躍のプロ集団だ!


 徹底的に巧みな知識や情報を徹底的に調べ上げて、俺達の動きを掴むだろう……! それか、もうすでに裏で動いて、この行動は筒抜けかもな……!』




「だろうな……! ところでキルト……! 


 リリーナからは、何か連絡はあったか……?


 最愛の親友が異境の地で独り戦っていることを思うと、正直その……気が気じゃなくってな……!」





『お前……アイツを思う度に、一流の心配性になるな。


 安心しろ! お前と互角の実力を持つ最優秀のエリートだぞ!


 ……とはいえ、アイツはお人好しすぎな上に、焦って我を見失う癖があるからな……! 俺も心配だ……!』





「それ、俺が1番知ってるよ……! アイツ今、どこに居るんだっけ……?」





『中東地方だよ、パレスチナやレバノンを超えてダマスカスに向かってる!』




「オイ冗談よせよ……! そこは数百年越しの危険地域じゃねぇかよ! 俺が助けに行くべきじゃねぇのか……?」




『いや、まずはアイツからの情報待ちだ! ひとまずお前は例の合流地点を目指せ! 迎えは手配してある!』





「了解だよ! ……ったく! まぁリリーナの事だし、大丈夫かだとは思いたいが、無茶をやるアイツの性分を思うと、不安になってきたな……!」





 ユウキはスマートフォンの電源を切ると、海を滑走するモーターボートの水飛沫を眺めながら、一静独りかに、しばらくの間は寝転がって風を感じていた。





◇◇◇◇◇





「……オイ!〈革新の激戦地(ヴェオグラード)〉本部! 聞こえるか? ヤベェ事になってんぜ? これ、頭領おかしらにバレたら殺されんなァ! ヒャハハ♪」




 シチリア島の古びた灯台の屋上で、1人の男がスマートフォンタブレットを片手に冗談をかましていた。



 マフィアのように黒いスーツを纏ってはいるが__


 スーツの下は青紫の悪趣味な柄物シャツを纏い、銅茶髪(ブロンズヘアー)の上部は整髪材によって針山の如く逆立ち、黄金色のサングラスという豪快な装飾まで好んで身に付けている。



 外見を一言で言い表せば、シチリアマフィアよりもアメリカマフィアに近い__





『何を笑っているんだい? 部下の責任は管理者である君の責任だよ? その態度は仮にも最高幹部のものとは思えないねぇ?』



 

「うっせぇなァ! 大体マフィアやギャングなんざ闇社会のゴキブリ風情に、神の兵器と詠われし《ギルソード》を渡しちまうのがそもそもの間違いなんだよ!


 あんなクズ共相手の取引によォ! 難儀したアクバルが不憫で仕方ねぇぜ? 全く♪」





 男の足元には、血と泥にまみれた頭陀袋が転がっている。膨れ具合からして、確実に人1人が収容されている。



 労いの言葉を口にする割には、お粗末にも男が足蹴にしているが。





『それで? 君がどうするのかが問題だろう? グラッザの頭領ボスがお冠になるだろうねぇ……? フランツ=ロエスレル君……?』




「はっ! 知れたことを……! 俺の行動は決まってんぜ……!


 ひとまず、アクバル=シャンデリゼの遺体回収とクローン兵士の派遣はやってくれよ?


 それと、中東地方へ行ってるグレーネス=ディズレーリには、俺の方から伝えるぜ!! しばらく拠点を留守にして、


 生意気な紫髪のクソガキを潰しに行くとなァ!!



 全ては、我等が武装集団〈革新の激戦地(ヴェオグラード)〉が掲げる理想の世界のために!!」






 『承知した……!』と、相手が応えるや否や、ロエスレルと呼ばれた男は、即座にスマートフォンの電源を切り、灯台から海へと投げ捨てた。



 



「あの世から見てやがれ! 旧世紀の軍事科学者〔アルスダート=ギルソード〕さんよォ__!?


 アンタが創り上げ、その名までが刻まれた《ギルソード》ってヤツの、真の使い方をなァ__!


 開発者が望もうが望むまいが、『兵器』は生み出しっちまえば、行き着く先は殺し合いと武力弾圧の志向常備品だ__!


 俺様がそれを()()()証明してやる……!」





 __独りでに呟き、ニヤニヤと笑った後、彼はゆっくりとその場を立ち去った。


 


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