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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
23/103

・宵闇に舞う騎士〈下〉(2)



 アクバルは、その衝撃的な光景に唖然とした。



 テラスの中央には、紫髪の少年ユウキ=アラストルの姿。


 肩章が飾られた黄色のブレザーコートを優雅にたなびかせ、赤紫の柄が目立つつるぎ高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》を肩に担いで仁王立ちしている。



 その場に立っていたのは、ただ彼1人だけ__



たった今まで、親子2人を取り囲んで暴行し、苦しむ様をただ傍観していた連中は、すでに全員が屍と化して横たわり、床を血の赤一色に染め上げて朽ち果てていた。



 ユウキが肩に担ぎ上げた《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》の刃先は、当然の如く彼等の血がべっとりと塗りだくられている。




「お楽しみの実験は満足したか? テロ首謀者、アクバル=シャンデリゼさんよォ! 奪った国家機密の《それ》返して貰うぜ?そしてそれに関わったからには……な!!」



「チッ……! テメェいつからそこで暴れてやがったんだ!?」



「アンタが楽しそ~にケタケタ笑って暴行してる最中にだよ! 超短時間で掃除させてもらったぜ♪」




「……オイオイ、そりゃねぇだろ! そこに居た奴等は、全員が至高の兵器、《ギルソード》を身に宿した連中だったぞ……!?」




「あァ!? じゃあ率直に言ってやるよ! 弱すぎて話にならなかった__!!


 たかが《強力な武器》1つを手に入れただけで、人類最強になったと勘違いしやがって!!


いざ闘ってみれば、瞬発力も運動神経も鈍すぎるぜ!!


 既存の兵器を遥かに凌駕する《ギルソード》の力、その10%も引き出せちゃいねぇ!


 昨日の昼とさっき討ち取った雑魚2人が、まさにそうだった!!


 使用方法は『記憶の刷り込み』である程度分かるだろうが、使いこなすには相当の鍛錬と経験が必要なんだよ!

 

 所詮は素人__!


 鍛錬と経験を積み上げた人間に、勝てる訳ねえだろうが!!」




 そう言ったユウキの目は、ロザリアを怯ませた時と同じそれをしていた。



 冷徹で冷酷な狩人の如きそれで、自らの覇気をアクバルに与える__



 しかし、当のアクバルはそれに臆さぬどころか、それに対抗し得る程の、非道なる策士の如き冷たい目をユウキに投げ返した。





「………成る程ねぇ!? どうやら貴方は……()()()で特殊な鍛錬を積み上げた、若き精鋭の騎士と見ましたよ……!



 ですが? なにも本人の鍛錬や実力だけで《ギルソード使い》の優劣が決まるものではない……!



 重要なのは……《ギルソード》の情報ですよ……!!」 




アクバルは狂気の微笑と共に、いつの間に取り出したのか、右手に握った《拳銃》を突きつけるが、何故だか標準をユウキの足元に合わせ《弾丸》を放つ。



 ユウキは、永年の鍛錬と経験を積み重ねており、さらには反射神経まで研ぎ澄まされているため、足元に突き刺さる弾丸など、目で追うことなく回避する。




「どこ狙ってんだ!?」




「んん? どこ見てますか~?」




「何っ……!?」




 ユウキが弾の直撃箇所を見下ろすと、そこにあったのは埋もれた弾丸ではなく、ディムールと戦った際に見られた《壁の銃口》その物だった。



 それを見た刹那、地面から突き出した《銃口》が、瞬発的に彼の顎を目掛けて弾丸を放つ。



 間一髪、ユウキは無傷で回避したが、赤紫の前髪を4、5本ほど掠めとられる。




「テメェ! その《ギルソード》……!」




「クククッ……!《増殖の(インクリーズ)小型拳銃(・ハンドガン)typeFINAL(タイプファイナル)》!


 奪った同型の2台を元に独自開発した新型の性能!

 

 お前を被験体に試させて貰うぜぇ!!」




 アクバルは、標的であるユウキを目掛け、闇雲に《銃》を乱射させる。



 極められた瞬発力と反射神経を持ったユウキは機敏にそれらを回避し、時には《弾丸》を剣で斬り裂いた。



 しかし、そこら中に埋め込まれた《弾丸》からは、まるで『植えられた種から発芽する花』の如く、新たなる《壁の銃口》を次々と形成されていく。



 回避するどころか、これでは敵の要塞造りを手伝っているようなものだ。



 次第に自身を目掛けて飛び交う《弾丸》の数が増大し、命中こそしていないものの、ユウキの纏うブレザーやズボンには損傷が目立っていく__




「へっ! そんな乱雑に《自動拳銃オートガン》なんざ設置しやがって、下手してテメェに当たったらどうなるんだろうなぁ!!」




 無数の《弾丸》から身を守りながら、ユウキは一瞬のタイミングを見計らい、飛び交うそれらのうち5発を、剣一振りでアクバルの方角へ跳ね返す。



 見事、思惑通りに5発の《弾丸》は、アクバルの身体に直撃し、顔面に3発、胸部に2発と被弾させた。しかし…




「……何!?」




「フフ……甘い♪」




 アクバルの身体から血が流れることはなかった。



 なんと、それらの箇所には、あのイダルゴに見られたものと同じ《身体の銃口》が顔を出していたのだ。




「死ね……!」




 ここぞとばかりに、アクバルは無情にも《身体の銃口》から弾丸を炸裂させた。



 さすがに近距離では、回避の運動など間に合わない。



 ユウキは咄嗟に《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》を1本取り出し、器用に指先のみで《剣》を高速で回転させ、回転するシールドのように《弾丸》を弾き返す。



 しかし、アクバルは肝を抜かれることなく、背後の《壁の銃口(オートガン)》に追撃を続行させる。




 __流石にきりがないと判断したユウキは、テラスの塀を目掛けて石畳の床をスライディングで滑り込む。



 その塀の先は何も無い__



 地上30mからの急降下が待ち受けるにも関わらず、ユウキは迷い無くそれを飛び超える。




「飛び降りやがったよ♪ ハハッ!! 《弾丸》でミンチになるよりは飛び降り自殺の方がマシってか? そりゃ賢明な判断だぜ♪」

 



 追い詰められたユウキが、自ら死を選んだ__



 そう思い込んだアクバルは、汗が滲むほど握った右手の《増殖の(インクリーズ)小型拳銃(・ハンドガン)typeFINAL(タイプファイナル)》を放り投げ、盛大に腹と頭を抱えて笑い出す。




 __その時、彼は不幸にも、本来違和感を覚えるべき異変に、一切気がつくことはなかった。




 己が確信した勝利に酔いしれ、警戒心など既に持ち合わせることなく、危機感という言葉を忘れるかのように、その高ぶる精神を快感で満たしていくだけ__




 __しばらく時間が経過した後、彼はその異変をようやく感じ取った。




 自らの命運を左右させる分水嶺にしては、あまりにも遅すぎる察知である__




「ん~? 可笑しいねぇ~? 確かに飛び降りたはずだったが、どうして肉や骨が砕けるような音が一切しないのやら……?」





 狂ったような笑いを止め、流石にどこか不審に感じたアクバルは、ユウキが飛び降りたテラスの塀に歩み、人の腰程に高い塀から顔を覗かせる。



 不穏な予想は的中した。テラスの真下には死体がない。



 よく見ると、下階の4階と5階の間に位置する窓の外斑には、紫色の《剣》が、煉瓦壁に大胆な亀裂をつけて突き刺さっている。





「嘘……だろ……? ………マジ……か……!」




 この現状を知ったとき、彼の余裕な表情は、一瞬にして焦りのそれへと変貌した。




◇◇◇◇◇




「けっ! なーにが新型の《ギルソード》だよ! めんどくせぇパチモンを開発しやがって!」




 ユウキは愚痴を零しながら、ヴェルニーニ邸の真っ暗な階段の踊場に寝転がっていた。



 容赦のない《増殖の(インクリーズ)小型拳銃(・ハンドガン) typeFINAL(タイプファイナル)》の被弾を避けるべく、勢い余って飛び降りてしまったが__


 何とか近くの窓斑に《高速射撃の剣(ダーツブレード)》を突き立て、両足蹴りで硝子を粉砕して、中の踊場に避難することができた。



 煉瓦壁にそれを突き立てたところで、宙ぶらな状態では、向かいの建物に《壁の銃口(オートガン)》を設置されて狙い撃ちされる可能性も十分にあったのだから。




「あ〜あ! 困ったもんだ! またノコノコとテラスに上がったところで、要塞っつーか射殺ステージが一層レベル上げされてんだろーし……!」



ユウキは、身の露出を避けるため、一度粉砕された窓から身を離してながら、腕組みして考える。



とはいえ、ユウキは考えることに時間を必要としない。

 


 並外れた身体能力、反射神経は勿論のこと、頭の回転も彼の長所の1つである。



 高い知力と思考力もそうだが、彼は難しく考える事を常に嫌い、簡単に効率よく事を片付ける。


 それが彼の主義である。



 今から起こすべき行動も、すでに決定されている__





「さて、《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》! 俺はお前の分身だ! 俺に力を貸せ__!」





鮮やかに光輝く赤紫の《ナノマシン》が、ユウキの体に集い、そして一体となる。



すると、エネルギーを蓄え、熱を帯びた《ナノマシン》が、彼の指先と指先の間に挟まって集中する。



そして、それらが個体武器ギルソードとなって実体化すると、彼の両手には、《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》が、左右合わせて計8本、まるで巨大な鉤爪の如く握られていた。





「ぶっ壊すか__! このクソみてぇな要塞__!


高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》!! 夢魔の裂く鉤爪(ナイトメア・ファング)!!!」





◇◇◇◇◇





「クソが!! 俺は何を焦ってやがんだ! 屋敷に逃げ込んでんだから、狭い場所に誘って穴だらけに……!!」




 1人焦燥感に駆られたアクバルは、飛び降りた少年の死体がないことを確認すると、急ぎ足で屋敷の階段に赴こうとする。



しかし、テラスからダイニングの屋内へ踏み入る寸前で、彼の足元に、いや建物に異変が起きてあることに気づく。





「亀裂……? いや違う……これは……!」




彼の頭に過った悪い予感は、見事に的中した。



 そして彼には、それから逃れる時間さえも与えられない__


 


 足元に広がる亀裂は、瞬く間に建物全体へ広がってく。数秒とたたぬ間に瓦礫へと分裂し、彼の足場から全てが崩壊する__




アクバルは知る由もなかったが、これはユウキが放った《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》による斬撃だ。



 竜の爪の如く、剣を片手に4本、合計8本を両手に炸裂させる技、《悪夢魔の裂く鉤爪(ナイトメア・ファング)》を前には、あらゆる物体を引き裂かれる。




「馬鹿な……!《壁の銃口(オートガン)》が……! 俺の要塞があぁあァァ!!」





 アクバルは、無念の叫びを上げながら、瓦礫と共に地面へと崩れ落ちていった。




 __ヴェルニーニ邸の崩壊により、周囲は壮大な砂埃と灰煙に覆われ、全ての物の視界を一時遮断した。



 遠くからの叫び声やサイレンの音が聞こえるだけで、景色は周りも上空も灰の霧が覆うばかりで、長く見渡していれば眼球も痛み出して、眼を閉じざるを得ない。





「……ぁ…ぐ……! ……グゾ……! あ″の……紫の″…ガ…ギ…ぶっ殺……し……て…!」





 約30mの高さから落下したアクバルは、全身が焼かれるほどの激痛から込み出す嗚咽を堪えながら、瓦礫や埃にまみれた地面を這いずり回っていた。




ユウキとは違い、鍛錬によって高い身体能力を持たなかった彼は、崩壊による落下に対処することなど、到底できない。


 全身を強く打ちつけたので、肉は裂けて骨は砕かれ、大量の血を吹き出して苦しんでいた__




 視界は灰色、それに加え意識が眩んでいるので、目の前の状況など把握できたものではない。



 __最早、足掻くのに必死な彼の目には、前方の黒い何かが近距離で見えた。



 闇雲に近づき、血塗れの両腕でしがみつく。



 ブロンズ色の靴に黒いズボンのように見えた。全身黒ずくめのシチリアマフィアではないが、目の前に誰かが居るなら、助けを乞わない手はない__





「……ぉい…! 私を……助けたまえ……褒美は……〈革新の激戦地(ベオグラード)〉の名において……望む限りの……!」





 息を切らしながら台詞を言い掛けたとき、ちょうど灰の霧が薄くなり、視界は回復された。



 直後、上から聞こえてきたのは、実に聞き覚えのある、恐れていた声だった。




「よォ! アクバルの兄さん! 今アンタに求めるのは褒美じゃねぇ! 天からの公平な制裁だ!」




「ヒィ……!?」




 恐怖に震えながら見上げると、冷淡な目で彼を見下ろす少年、ユウキ=アラストルの姿があった。



 左手には4本の《剣》を鉤爪のように握り、そして右肩には怪我をして動けないでいたローツェ・ドゥ=ヴェルニーニを抱き抱えている。



 巨大な屋敷を切り裂いたのだろう鉤爪のような《剣》は、妙なことに、刃こぼれやヒビなど1つもなく、鋭い輝きを劣らせていない__





「……どんな気分だよ? 何って? 散々人を実験道具みてぇに利用して使い潰した癖に、挙げ句の果てに追い詰められてた気分のことだよ!!」




 憐れみなど微塵も感じられぬ冷たい瞳と声で、ユウキは恐怖で震えるアクバルを見下ろして問う。



 その姿は、さながら敵を断罪する暗黒の騎士のような__





「助けて……くれ……! 命……だけは…! まだ私は……死にたく……ない……!」





「……ったく! 命捨てる覚悟のねぇ奴が《ギルソード》なんざに手を出してんじゃねぇ! 人を使った実験なんて尚更…… 


 って……あん? なんだこの音?」




 耳をすませると、遠くの空からモーターとプロペラの騒音が聞こえてくる。





「……おぉ……来や……がったか……!」




 心身共に弱々しく横たわっていたアクバルだが、その音を聞くなり唐突に声の調子を戻して上機嫌になる。



 北西の空に目をやると、青白い光がちかちかと点滅し、こちらに接近していた__



 恐らくは彼の仲間が登場した大型ヘリコプターで、モーター等の騒音から、旧西暦2000頃に製造された機体だろう__





 アクバルは、音の近づく方角に這いずり、空高く叫び上げる。



 

「……キヒヒッ……!助かったぜ……! ……偉大なる『幹部様』が……私なんぞのために……! 手配して下さったようだ……!


覚悟しろよ……? 今からテメェを……機銃掃射で粉々にしてやる……! どんな気分だ……? 俺を追いつめたと思ったら……お前が……!!!」





 アクバルが希望を見いだしたと思うや否や__



 背後から轟音が鳴り響くと共に、赤紫に輝きを帯びた《高熱源体の閃光》が、上空へ迸る__!



 直線上に存在したヘリと思わしき青白い光は、瞬く間にして爆裂の花火と変わり果てた。


 後は静かに、シチリアの夜空に散って消えていく。

 




「…馬……鹿……な……!」





 救助という希望を砕かれたアクバルが、恐る恐る背後を振り返ると、高熱源体の余剰エネルギーらしき稲妻に囲まれたユウキが、再び冷徹な目で彼を見下ろしていた。



 よく見ると、鉤爪のように握っていた左手の4本の《剣》が、いつの間にか本に数が減っている__




「な……何が……起き……た……?」




 混乱するアクバルに、ユウキは冷静な顔で答えた__




「何って? これが俺の武器《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》! 俺の《剣》は飛ばせるんだよ! ジェット機みたいにな! つばの形がそれっぽいだろ?」




 ユウキの《ギルソード》である《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》は、つばの形状が通常の剣とは異なり、『ジェット機の羽部』のそれを模している。



 クレイモア状の剣の鍔には、『超小型ジェットエンジン』が組み込まれており、動力源は高出力の《ナノマシンエネルギー》である。


 それを放出させ、攻撃目標に向けて射出する事ができる__



 形状は『剣』でありながら、命中率や精度はミサイルや大砲よりも格段に高く、『斬撃可能な長距離弾頭』と言い換えた方が、寧ろ的確であろう。




「さて……アクバルさんよォ!!」




 ユウキは身動きの取れないアクバルにゆっくりと歩を進め、残った3本の《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》を振り翳す。





「……待っ……! 待って……くれ……頼む……話だけでも……!」





「国家機密の兵器を奪取した挙げ句、無許可で生産しテロ行為に使用した罪__!


 裁判にかけりゃ極刑でも足りないくらいだ__!


ほら、逝ったら何千人と謝っておけよ__!?


お前に利用されて死んでいった犠牲者達は、地獄の底でお前を待ち構えてるからなァ__!!」






 ユウキの叫びと共に《剣の爪》は振り下ろされ、赤黒い血飛沫が宙を舞う。




 乱戦と混迷を極めた夜空の騒動は終わりを告げ、シチリア島は眠るように、一面の闇と夜風に包まれて静粛となった。






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