第10章 宵闇に舞う騎士〈下〉(1)
単語紹介(追加分)
〈革新の激戦地〉…超兵器、《ギルソード》を乱用し、世界への武力統制を目論む国際テロ組織。その拠点やの規模等の情報は全て不明。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「て……てめぇら……これは……どういう……つもり……だ!」
ヴェルニーニ邸の屋上テラスでは、頭領マッツィーニ・ドゥ=ヴェルニーニが、全身から血を流し、震えながら地面を張っていた。
彼の周りには、今まで傘下にいたファミリーの者達が、ライフルやマシンガンを持ち、悪意と殺意に満ちた目で、彼を取り囲んでいる。
「がはっ……! ……ハァ……ハァ……へっ……俺を……誰だと思ってやがる…! 俺を殺るってことが……どういうことか……分かっちゃいねぇ程……馬鹿じゃねぇ……だろうが……」
身体中を銃創で穴だらけにされ、息をひゅうひゅうと苦しげに漏らしても、誰1人として彼の姿を哀れむ者はいない。
それどころか、悪意のある笑みを浮かべて、その不幸を嘲笑っている。
「分かっちゃいねぇ? 分かっちゃいねぇって言ってますよ~? 馬鹿はどっちのことでしょうかねぇ~? 偉大なる元頭領ぉぅ?」
悪人達の集いを横切り、マッツィーニの前に堂々と現れたのは、彼と裏で手を結んでいたはずの男、アクバル=シャンデリゼであった。
彼も周りの連中と同様、血を流し苦しむ本人が視界に入っても、ふざけた口調は変わりなく、歪な笑みをやめようとしない。
「……てめぇ……アクバル……! 裏切りやがったか……!
ローツェは……どうした……息子……呼んでこい……!」
「ローツェ……? 貴方の息子さんですかぁ?
心配なさらずともローツェ様は健在ですよぉ? ほら、ローツェ様はここに……♪」
アクバルの背後から、1人の若者が堂々と歩み寄る。
その姿は紛れもなく、マッツィーニが息子として、次期として己が席を譲ろうとした、ローツェ・ドゥ=ヴェルニーニのそれだった。
しかし、その様子や表情には、家族として永年見ていた息子の面影など、何一つとして無かった。
少なくとも、肉親の危機を救おうとする意向など、微塵も感じられない、冷酷な独裁者のような眼差し__
「ローツェ……! 俺を……助けろ……! こい……つら……を……殺……せ……!」
肉親が来たのだから、もう安心だ。自分を助けてくれる。
そう信じて疑わなかったマッツィーニに映るローツェの瞳は、冷徹な眼差しを変えることはない。
しかし、ニッタリと目つきと口元を歪め、予想だにしなかった絶望の言葉をマッツィーニに浴びせる。
「お父上、聞いてくださいよ。今日、僕の夢が叶うんです。永年追い求めていた夢が、今この時をもって……ね……?」
「……おい……お前……何を……言って………!」
「ですからお父上? 俺がずっと望んでいたのは…………
こういうことだよ!!」
その直後、ローツェは懐から小型ナイフを取り出し、横たわるマッツィーニの左手を目掛け勢いよく突き刺した。
「___っォ"ォア"!!?」
しばらくの間、マッツィーニの絶大なる断末魔が、闇と炎に包まれたシチリアに響き渡る。ローツェはそれを賛美するかの如く、笑わずにはいられなかった。
「ッハハハハハ!……痛いですか?痛いでしょうねぇ!
僕はねぇ? 生まれてからずっと! 暴虐な父上と母上に殴られて縛られて操られて、惨めな思いで生きてきた……!
いつか復讐して、全てを奪ってやろうと誓いながら……!
でも嬉しいよ!
ここまで俺の計画通りに、事が進んでくれたのは……!」
「ぐあぁ……! ぐっ…! ……てめっ……! 今までずっと……俺は……お前を……立派な……息子だ…と……!」
「立派な? ハッ! 見せしめの体罰やら拷問やらで、人を恐怖で縛り付けながらよく言ったものだ! 呆れますよ……!
あっ、そうだお父上? いいことをお教えしましょう。
母上が殺されたとき、お父上はヴィヴァルディ=ファミリーによる暗躍だと判断し、その一家を全滅させたでしょう?
惨いことをなさいましたよねぇ?」
「……はっ……? それが……どうした……って……いうんだ……!」
「あれ、違います。僕の差し金です」
「……………………はっ………?…………」
瞬時、彼の思考回路は、演算エラーの如く停止する。
マッツィーニは身体を血溜まりの床に伏せたまま、ただ呆然として息子のローツェを見上げることしかできなかった。
もはや彼の脳内は、ローツェの発する言葉など、何1つ理解し受け入れることは叶わない。
「確か、容疑者はその場で射殺したの破落戸と報じられていましたよねぇ?
確かに彼は、スラム街出身の麻薬中毒者でしたが、実は薬の受領を条件に殺しの仕事を請け負っていてねぇ、頻繁にヴィヴァルディの屋敷に出入りしてたんですよ。
幼い頃から、ロザリアとロゼッタの世話を任されていた僕は、屋敷内で彼をよく見かけたし、それをよく知っていた。
寧ろ、利用できる人脈を形成するために、コンタクトまで取っていた。
仕事を依頼した夜は、既に彼の頭は壊れていた。
人の言葉さえ理解不能な程にねぇ……!
しかし、やり方は無茶苦茶ながらも、彼はしっかりと仕事をこなしてくれた!
しかも自分の身を挺してまで……!
どうせ三大ファミリーの頭領の仲は、すでに破局状態にあったし、僕も内心、あの我儘な2人娘にはうんざりしていた!
僕を虐めていた母、将来の敵ファミリーの頭領とその一家、目障りなものを一石二鳥、いや三鳥で潰してくれたあの時は最高に気分が晴れていたよ!!
貴方とヴィットーリオが揃って滅ぶ!! 今日の日のようにねぇ!!
ッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
シチリアの悪魔と呼ばれた頭領マッツィーニは、身体中の血を失い、身動きの1つもできないまま、心の底の深い絶望を噛み締めていた。
跡取りと決めていた息子に裏切られ、破滅に追いやられた、惨めな最期を。
「さよならお父上……!見るだけで恐怖した貴方のその、悪魔のようなお顔、生涯嫌でも忘れられませんよ……!」
そう言ったローツェが右手を夜空に上げた瞬間、無数の銃による絶叫と共に、大量の血飛沫が宙を舞い、マッツィーニはただの肉塊と化した。
暫くして、ローツェは深い溜息をこぼした。
恨んでいたとはいえ、物を言わぬ血肉となった父親を見つめていると、全く哀愁を感じない訳にはいかなかったのだ。
「……おめでとうございます♪ これで貴方様の望みは達成されました!これで貴方様は名実共に……」
「シチリアの王……かっ。ありがとう。屈辱と苦難が続いた道のりは永かったけど、君達が導いてくれたおかげで……僕はようやくこの時を………っ!!?」
ローツェが言葉の続きを言いかけた刹那__
突如として1つの銃声が轟いた。
何事かと彼は瞬時に戸惑ったが、何やら自身の左足に焼けるような痛みと生温かさを感じて、それを目視したとき、全てが理解できた。
「……ぐっ……!! ……あがあぁぁぁぁぁぁ!! あっ足がぁ……!!僕の足がぁ………!!」
ローツェは、自身の左足の凄惨さのあまり、嗚咽の断末魔を夜のシチリアに轟かせた。
その左足の脹ら脛は、銃弾によって見事に貫通され、穴の開いた水道管の如く、どくどくと血が溢れ出していく。
「…え?何ですか? やっぱりここにきて「シチリアの王です」……なんて言葉を期待してましたか?
フッ! おめでとうございます♪ 改めて貴方は名実共に……
最も優秀な《ギルソード》の、実験体でしたとさぁァァ♪」
アクバルは悪意に満ちた笑顔で、もがき苦しむローツェを見下し嘲る。
ローツェが父マッツィーニに向けた顔と、酷似したそれ。
「……ぁぐ……!ハァ……はぁ……!? テメェ……!その冗談も……大概にしろよ……? 俺はお前に……! どれだけの……! 大金と信頼を注ぎ込んだと思って……!!」
「大金と信頼ィ? マフィアなんて血と泥に汚れまくったゴミ人間共がよォ!
何をトチ狂って、金やら信頼やらで人を抱き込めるとか思ってんですかァ?
脳味噌ん中はヴェルサイユの庭園ですかァ?
良いですよ? 可哀想なお坊ちゃまに現実を突きつけてあげましょう♪ 俺達はねぇ?
最初からお前等なんざ、顧客とすら思ってねぇんだよ~?
そこら辺に転がってる理科の実験動物も同然なのよね~?
それをさぁァ………!?」
怒る悪鬼の如く形相を豹変させたアクバルは、足を撃たれ地を這うローツェにゆっくりと近づき、彼の肋骨を容赦なく踏みつける。
「ぐぁあ″あ″あ″!! ……あ″! ……あっ…! がぼっ! ……ごぼっ!!」
粉砕した肋骨が臓器に刺さったのか、ローツェは断末魔と共に、赤黒い血を吐き出した。
それほどに威力のある蹴りを入れる力など、一般的な科学者並みの体つきをしたアクバルに可能なのだろうか。
「ムカつくんだよ……! ただの普通人間……! 劣等種風情がァ……! ちぃと下手に出て愛想良く接待してりゃあ! まるで自分の手下に物言うみてぇにつけあがりやがってぇよぉ……!!」
吐血し苦しむローツェを踏みつける足は、その場で力強く足踏みし、彼の身体に苦痛を与え続ける。
「がはっ……! ぐふっ……! ぐっ……! ……ふざ……けんなっ……
ふざけんじゃねぇぞぉ……!! 俺は……今日の日のために……俺の人生に降りかかってきた……あらゆる苦難を耐え忍んできたんだ……!!
俺を虐げてきた連中の報復のため……! 俺の新しい人生の祝福のため…! 俺の手で創り変えるシチリアへの乾杯のため……!!
これまでの全てを…俺は擲った……!
理想と引き換えるには……あまりにも高すぎる代償を支払った……!
それを……! ただの実験動物として……利用していただと!? 人の人生を侮辱するのも大概にしろォォ……!!」
ローツェは、口血で汚れた顔を怒り憎悪の皺で歪ませ、激痛に震える腕、でスーツの胸元に隠し持っていた拳銃『レベッタ』を取り出し、狙いをアクバルの眉間へと照準を定めようとした。
しかし……
「けっ!無駄な事を……!」
アクバルは、自身に向けられた銃口を恐れることなく、ローツェが握る拳銃を反対側から握り返し、手元に力が入っていなかったのか、ローツェから軽々とそれを奪い取る。
すると、その細腕のどこに怪力などあるのか、鋼鉄製のレベッタを雑巾のように握り潰し、一瞬にして鉄屑に姿を変えしまう。
「うっ……!うぁあ……!お……俺……俺の……拳銃が……!」
「あぁ? そういや説明を忘れてたか? この《ナノマシン》ってのは、人間の筋力を強化補正する機能があんだよ!
ちょっと腕や手の表面に絡めれば、後はそいつの《運動神経連動機能》で、筋力を通常の50倍程に力に変えちまうのさ!
まっ!基本的に《ギルソード》は既存兵器を破壊すんだよ!これは絶対的な法則だ!
だったら、そいつを構成する《ナノマシン》だって、こんな鉄の兵器くらい破壊するのが容易いことだ!」
怯え竦むローツェの足下に、砕かれスクラップと化した無残な鉄の塊が放り投げられる。
「何……だ……これ? ……嘘……だ…ろ……?」
無残な形状を目にしたローツェの脳内には、『予知される未来の自身』が投影され、その精神を死の恐怖に支配させた。
「しっかしまぁ~このシチリアをしばらく見せて貰ったがよぉ!本っ当に貴方達の愚者っぷりと下衆っぷりには笑いが止まんなかったぜ♪
どーせ酒や女遊びなんて下民レベルの生きる楽しみしか無い癖に、偶然島の貧困を救ったからって、いい気になって国家なんて大それたもんを唱いやがってよぉ~!
所詮は己が欲望しか考えずに国の同族を蹴落として死に追いるチンピラ集団!結局そのクソみてぇな風習が徐々に国の体制や秩序の崩壊を助長させやがって……!」
アクバルは、弱り果てて地を這うローツェを愉快に見下し、白衣の胸元から、予備として持っていた一般の拳銃を取り出し、彼を嘲笑いながら両腕、右足の付け根に弾丸をお見舞いし痛めつける。
「ぐっ……! がっ……!! あ″あ″あ″……あ″……!!」
もはやローツェは、何も考えたり感じることなく、絶望し心身の激痛のままに泣き叫び、ひたすら苦痛を味わい続ける他無かった。
「……やってることが低俗なんだよ!! そういう国は旧西暦……いや紀元前の時代から壊滅の道を自ら選んだ!
永劫に受け継がれた名誉な歴史を俺は一切知らねぇ!
どっかでアホみてぇな真似をやったが最後、自らの手で国を世界を滅ぼすんだァ!
第三次・四次対戦で世界が滅んだ『西暦の終焉』がいい例じゃねぇかァ!
まぁ結果論だが……!?
崩壊の原因になった《ギルソード》は、良い鎮静剤にでもなったんじゃねぇのかァ!?
結局は素質のねぇ低脳な偽りの王族や政治家がのさばって、どっかで私欲を出して保身に走ったが最後、国家や社会を潰しちまったんだ!
だが我々は違う__!
この神より賜りし神器を最大かつ神聖なる方法で利用し! 人類の革新を基に! 真の思想国家と世界を創世してやる……!
選ばれし我々__
武装革命組織〈革新の激戦地〉の名においてなァ__!!
さらばだ!! 偽りの王よ!! 私欲のために身内まで貶める愚者に鉄槌をォ!!」
アクバルが狂気に捕らわれたような叫びを上げ、右手の拳銃の照準をローツェの額に向けた。
その刹那__
「……愚者ァ? やってることが低俗ぅ? いい響きだぜ! まるでお前みたいじゃん♪」
聞き慣れない少年の声が、2人の耳に飛び込んでくる。
「テメェ……! 人が高揚して聖なる制裁を下そうってのに、とんだ邪魔を…………
てっ!? …………馬鹿な………??」
不意に苛立ったアクバルが、声のする方向へ目をやった瞬間、その衝撃的な光景に唖然とした。
マフィアの話は以上です!元々この世界の説明のために書いたもので、かなり時間がかかってしまいました!
さて、これから物語の重要要素を盛り込んでいきたいと思います!
よかったら、おつきあい頂けると幸いです!
今後ともよろしくお願い致します!




