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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
21/103

・宵闇に舞う騎士〈上〉(2)



◇◇◇◇◇



「……チッ! 色んなトコから医療品かっぱらっても、この程度しかねぇのかよ……!


 おいロザリア! これくらいあればお前の手当ては……」



 

 近くに駆け寄ったビルの屋上で、ユウキは救急箱を片手に歩み寄る。



 全身から血を流したロザリアは、身体を横たえはしなかったが、その場で座り込んで、辛そうに蹲っていた。


 ぜぇぜぇと呼吸が荒々しく、かなり苦しんでいる__



 ロゼッタもそうだが、手当てを急ぐべきは彼女の方だ。



「……ってお前……何やってんだ……? ちょっと待て!? 下手なことやったら死ぬぞ!」




 座ってうずくまるロザリアの周辺には、血で汚れた硝子ガラスや瓦礫の破片が、床に血の水滴を残して幾つも散乱している。



 驚いたユウキは、一瞬目を疑ったが、間違いはない。



 彼女自身が、胸部や脇腹、両腕に深く食い込んだ破片を、自力で引っこ抜いているのだ。



 悶絶する程の苦痛を堪えながら……




「……はっ?……何って……自己治療に……決まってんじゃない……! 何……? 薬とか……持ってきて……くれ…たの……? じゃあ……ロゼッタに……使うから……置いといて……よ……!」




「いや……! 全身から血が出てんのはお前の方だろ! いいから身体を横にしろって!」




「うる……さい……!」




 ユウキが身を案じて差し伸べた手を、ロザリアは冷たく振り払う__




「別に……アンタに治療なんて……頼んで……ないし……!……むしろ……触ってほしくも……ないのよ……


 ただ……アンタにはさぁ……! 治療よりも……説明を……してほしいのよねぇ……?」




 ロザリアは、血を流し過ぎた身体に鞭を打ち、膝を震わせながらゆっくりと立ち上がると、黒いスーツの胸元にそっと手を入れた。



 そこから取り出したのは、金色に輝く44マグナム__



 そして彼女は、激昂と殺意に満ちたような表情で、その照準を静かにユウキの眉間へと当てた。




「何のつもりだそれは? 俺に何を説明しろってんだ!?」




「何をって……? すっとぼけんじゃないわよ!!


 もう誤魔化したり煙に撒いたら即殺すからね!! 黙って私の質問に答えなさい!!


《ギルソード》って…… 一体何!?


 あれって…… 人に取り憑いて兵器と化させる…… そういう《兵器》なんでしょ!?


 どうして……あんなモノがシチリアに流れ込んできたの!?


 アンタの口から全部説明しなさいよ……!!」





 怒りの涙で顔を濡らした少女は、銃を片手に訴えかける。



 そんなロザリアを前に、しばらくユウキは冷静かつ冷徹な眼差しで見つめると__


 わざと大きな溜息を着き、静かに事の全貌を打ち明けた。




「……ったく、しょうがねぇ! じゃあ洗いざらい吐いてやるよ! この際だしな__!



 《ギルソード》ってのはな、今から400年程前、第三・四次世界大戦終期に発明された『核を超えた神の願望器』と呼ばれた《兵器》だ。


 同時に、その《兵器》の導入によって、100年程続いた永き対戦を集結させた。


 今までの兵器ってのは、物によっては人間よりも数倍もデカい物体を、やれ収容施設やら格納庫やら造って管理しなければならなかったからな。


 それに引き換え、この《ギルソード》は違った。


 この科学兵器は、人類最後の一大発明品だろうよ!


 もう仕組みや原理の説明は省くぞ。


 お前だって、地下シェルターで何らかの資料は見てんだろうし、もう嫌っつう程に目の当たりにしただろうからな!」


 


「要約すると……何……? 《ナノマシン》っていう小さな機械が……人間の神経系に反応して……結合して……


 《ギルソード》って……1つの武器を創り出して……


 その《ギルソード》って兵器……全部に……変な能力が……宿ってるって……そういう話……?」




「あぁ大正解だよ! 理解早ぇな!


 補足すれば、形成される《武器》にっては、人体の形状を丸々変えるヤバいのもあるがな__!


 そうして、大戦の末期には、その《ギルソード》によって、各国の兵力、そして軍事力は増大し、やがて連合国等の武力と武力が互いに衝突。


 国家や経済、社会、人間の命、住む所__


 その80%がこの地球から焼き払われた。


 元々戦争を始めた人類に責任はあるだろうが、全てを滅ぼした元凶の1つが《ギルソード》ってワケよ__!」




  

「何で……? ……そんな……ものが……このシチリア島に……?」





「それは、俺達の国から数台が盗まれたからだ!


 さっきは世界崩壊の元凶とか言ったけど、どっかで文明の再興を試みて、そいつのより良き運営を目的に、ソイツを所持してる国が僅かに存在するんだが__!


 どうやら、それを妨害するテロリスト共が、秘密裏にか裏取引か、ネコババしやがって。


 しかもあろう事か、金儲けだか運営実験だか知らないがな、最悪にもシチリア島のマフィア共に闇営業しやがった!


勘弁しろっての! あぁいう権力や欲望に忠実な奴等に渡ったところで、ろくな事態にならねぇんだからよォ!!


 けど互いの思惑や野望の弊害になったんだろ? 喧嘩して結局殺し合って自滅パターンだよこれは!


 俺のここでの仕事は、当初は《ギルソード》の回収だ!


 尚且つ、こういう結末を阻止しろとも言われたけど?


 無茶いうなよ。あのブラック上司が!


 この時代のマフィア様の立場ってのは、自治国と化したシチリア諸島の……悪徳政治家の権力者集団だろ!?


 話を聞いて素直に渡す訳がないだろうし、相手にするだけ面倒だし、下手すりゃ殺られるし!


 どうせ国家機密を知られたから、結局はタダじゃ済まさねぇし、潰し合いは大歓迎だ!


 俺の目的は、あくまでこの島から《ギルソード》が使用された痕跡を消すだけだからなァ!


だから今のこの現状は、俺の本心では、幸運以外の何でもねぇって訳よ………!


 俺の立場から見れば………なっ__!?」





 最後にユウキが放った言葉に、ロザリアは脳味噌の血管が、どこかぷつりと切れる感覚に見舞われた。



 胸から湧き上がる途方もない激情を抑えられず、ついに44マグナムの銃弾が炸裂する__!




 __陶磁器が割れる音が、業火の中に木霊した。



 弾丸は、ユウキの額から大きく進路を反らし、彼の後ろに佇む花瓶を破砕したのだ。


 まだ殺すつもりではないのだと、ユウキは少女の魂胆を冷静に判断する。





「威嚇射撃のつもりか? 何でそれをやる? 殺意があんなら人の脳天をだなァ……!」



 

「黙れ! 黙れ! 黙れぇ!! ……アンタは……! 最初っから全部知ってて……予測がついて……


 それで……最後まで……


 人が殺されるのを黙って待っていたのかァ……!!


 自分にとって都合がいいからって……!?


 どうして……!? 荒くれ者のマフィアだったから……? この島の人間の命なんてどうでもよかったの……?


 そんな奴等の中にも……!


 私の大切な家族や仲間だっていたのにィ……!!


 …………そっか……私……


 そんな考えをした奴に……利用されてたんだ……


 ……マフィアなんて比じゃない……こんな……感性まで人間離れした奴に……私は騙されていたんだね……?」




「騙す? オイ待ちやがれ! そこはお互い様じゃねぇのか? なぁ高飛車狡猾なロザリアお嬢様よォ!?」



 

 突如として__


 流れ出る血と、怒りの皺でくしゃけていたロザリアの顔は、突然に焦りと戸惑いに急変する。



 縫いつけたように銃を堅く握っていた右手は、いつの間にか力を無くし、その銃先がぶらりと傾いて地面を向けた。




「わ……私……が……利用していた……? ユウキの命……どうでも……いい……みたいに……?」




「ったく、所詮は年相応のお嬢様かよ……! 俺が気づかないとでも思ったのか? パレルモ港でお前に呼び止められたときから、何となく察しはついていたんだがなァ__!!」




「ち……違っ……! 私は……そんな……」




「一緒だ。何も違ってねぇだろ!


本っ当に……こんな悲しい結末はねぇての。


 所詮は俺とお前、互いのことを『目的を達成するための道具』としか思ってなかったんだよ。


 そして、死刑宣告みたいな言葉だが__!


 今のお前に対する俺の認識は、『国家機密を知られた邪魔者』だ! もう分かるよな?」 



 ユウキの左手からは、怪しき闇のような紫色の《ナノマシン》が沸き上がってくる。


 それ等は即座に融合・合体して一体となり、1本の《剣》がその手に【造形】された。



 それは、世にも奇妙な形をした剣__



 刃先は1.3m程のクレイモア状の西洋剣を象るが、


 そのつばは奇妙な形状。崇高で精密な小型機械、白い『筒型のエンジン』らしき部品が組み込まれている。


 古い航空機の羽ような形だ。本当にそうとしか見えない。




 だが無論、それを目の当たりにしたロザリアは、そんなものに目をくれる余裕などない。


 感じ取れるのは、命の危機だけだった。




「ひっ……! ……まっ……待っ……!」




「何だよ? 怖くなったのかァ? だがもう俺とお前の関係はこれで終わりだ!


 自分の営利目的で人を利用するんなら、裏切られる想像と覚悟くらいしておけよ__!


 どうしたァ!? 銃の方が剣よりも強い筈だぜ?


 【過去の物理的な法則】に限った話だがなァ……!」




 ロザリアは恐怖と後悔に震えていた__


 シチリアを守りたい。この美しい島を魔の危機から救いたいと思った。そう思っていたのだ。



 何が間違っていたのか。


 手段だろうか。


 こんな男に合わなければよかったのか。出会った瞬間に、隙を見て始末すればよかったのか。



 そうすれば、誰がこの島の未来を救えただろうか。一体何をすれば、このような惨劇を避けられたのだろうか。


 

 だが、もう遅かった__


 今となっては分からずに、むしろ考えれば考える程、我が無力さを酷く呪うことしかできなかった。



 奇妙な《剣》の刃を振りかざし、ゆっくりとこちらへ向かうユウキに対し、ロザリアは素早く弾を込めて射撃することもままならない。



 ただひたすらに、一歩一歩と後退りをする他はなかった。




「チッ……!」




 刹那、ユウキが《剣》の刃先を正面に向けると、《剣》は弓矢の如く直線上を駆け抜け、ロザリアの顔から右へ数十cm右に反れ、高速で通過する__



 その瞬間、背後から男の呻き声がしたと思えば、すぐに地に落ちるように遠くなっていった。

 



 

「……え……何……? 何が……どうなっ……て……私……は……」





 ロザリアは、ついに体力の限界に達した。今の一撃は、恐らく背後からビルを登ってきた男を仕留めたのだろう。



 何となくそう感じたのだが、一体何故助けたのか。ユウキはもう自身を殺すつもりでは無かったのか。



 今起きている状況を整理することもままならぬまま、血を流しすぎた彼女の身体は、機能を停止したかのように、崩れ落ちるように倒れ、深い眠りについた。




「チッ……! 仕方ねぇな! だったらケジメはつけるとするか! もしお前が目覚めたら、ちったぁマシなシチリアの風景が写ってるといいよな!」





 ユウキはそう言って、倒れたロザリアとロゼッタに、たまたま無人の病院で拾った、医療セットと共に持ち出したシーツをかけてやった。




 しかし__



 

 どうやら騒ぎを気づかれてしまったらしく、ヴェルニーニ=ファミリー傘下のギャング共が、裏の非常階段を登り数十人で押し寄せてくる。





「オルァ!! 下で俺らの仲間潰したのテメェか?ぶっ殺ぉ……!……ぉぁ……!」




 リーダー格らしき大男が、先頭に立って荒声を上げた。



 だが次の瞬間、彼の胸元には、つい先程までユウキが握っていた奇妙な《剣》が突き刺さった。大男は息絶えて、ゆっくりと崩れるように倒れ込む__





「……オイ……今……何が起きた? よく見えないが……アイツの武器エモノ……飛ばなかったか……?」




「ば……馬鹿言ってんじゃねぇぞ……!? 投げナイフやダーツじゃねぇんだ……ぉぐっ……!!」




 何が起きたのか理解できず、困惑していたギャング達だったが、また知らぬ間に、彼等のうち1人の胸にも、またもや同じ《剣》が突き刺さっていた。



 一瞬のうちに2人もが刺殺され、混乱と恐怖に震えるギャング達に構うことなく、ユウキはその目に魂を移さぬ処刑人のような眼差しで、ゆっくりとギャング達に近づいていく__




「殺ったから? 何だって? この途方もなく中身まで人間離れした、この人体兵器《ギルソード使い》様に何の用だ? あぁん?」




「ふ……ふざけんじゃねぇ! こちとら何十人いやがると思ってんだ! お前に勝ち目はねぇ……! 分かったら降参して……その……《ギルソード》とやらか……? その能力を教え……」




取り乱し慌てる男の至近距離には、何時からか、既に殺意を込めた眼孔を見せた彼が立っている。



処刑人の如き目の色を変えことなく、ユウキは3人目となる男に向かってこう言った。




「この場から生き延びたら教えてやる。死刑囚共よォ!!」




 刹那__


 男達数人の首が宙を舞い、彼等の絶叫と共に、非常階段からは赤い血飛沫が噴水の如く飛び交った。


 誰一人として、少年の俊敏な動きを捕捉できず__


 5分も立たない間に、階段は赤一色に染まり果てる。


 無数の切り刻まれた無惨な死体で埋め尽くされ、周囲は血の臭いと死臭が酷く充満していた。




「フンッ! 雑魚中の雑魚集団が__!


 結局全員死にやがったから、教える奴はいねぇな?


 この連中相手に、俺の《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》を使うには、酷過ぎたようだな……!」




 血飛沫を浴び、返り血塗れのユウキの左手は、血と血肉に汚れた5本の《剣》を、片手1つで握っていた。



 刃渡りは1.3m程、


 まるでクレイモアの長剣を細く小型化したような形状。


 それらの柄と握りの狭間をまとめて掴み上げ、【投げナイフ、ダーツ、鉤爪】を扱うような軽快さで__


 彼は豪快に、それを振り下ろす__




「さて、あらかじめキルトの奴から情報は貰ってんだよ! この代償……きっちりと払って貰うからなァ!


 アクバル=シャンデリゼとかいうクソ野郎がよ__!」


 



《おまけの会話コーナー》


ユウキ:お前…次の話でマフィアの話が終わるとか前回言ってなかったか?見事に話が違うじゃねぇかよ…


筆者僕:それはだな…圧倒的に計画不足だった…

あの…次!次で終わるからァ!!


ユウキ:あっそ、とにかく無計画にズルズル引きずんなよ?いいな?


ロザリア:次で私の出番終わりなの…?グスン


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