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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
20/105

第9章 宵闇に舞う騎士〈上〉(1)


◇◇◇◇◇◇◇◇




「ハッ! 流石は俺の新武装《追跡する(サーチライト・)高威力砲弾(ギガランチャー)》だ! 分厚い壁の向こうでも標的ターゲットを正確に狙えんだぜ!? コイツァ!」




「ロケットの先に《体温解析装置サーモグラフィーナノマシン》を搭載したランチャータイプの《ギルソード》か……けっ! 上等なモン貰いやがって!」




 瓦礫と排煙に覆われたヴィットーリオ邸の書斎に、2人のヴェルニーニ=ファミリー所属の若いマフィア達が、不躾に 足を踏み入れる。 


 

 共に男性であり、1人は長髪イタリア人の男で、もう1人は長身短髪のアラブ人だ。



 各々纏う黒いスーツの周囲には、鮮やかな赤と緑の光粒子《G(ギルソード)ナノマシン》が、それぞれ飛び交っている。



 本来ならば、ここは気組みの書棚とアンティーク品で彩られた優雅な書斎であった。



 だが爆破の後は__


 焼け焦げた瓦礫、劫火と硝煙、血まみれで身体の一部が損壊した男達の姿、広大なる血の海__


 この世の地獄と呼ぶべき光景だけが、ただ広がっている。

 



「しっかしお前、《ギルソード》っつう割には、破壊力は並みの重てぇロケランと大差ねぇじゃねぇか! やれ《神の兵器》だのと話盛っといて、これは期待外れだ!」




「あぁ? コイツはなァ! 暗殺を主として造られた《ギルソード》だとよ! 奇襲で使うよかぁ重要人物を遠距離からねらうんだよ! ほら、見てみな!」




 短髪イタリア人の男が、そう言って足蹴にする先には、横たえる彼等の中で、1人だけスーツの色が異なる者、頭領フランコの姿があった。



 身体中の至る血肉は抉られ、周囲の煤けた地面は、これでもかという程の広大な血溜まりがそれを覆っていた。



 自慢のスーツも血と灰で赤黒く染まり、純白さを失って破損も激しい。




「あーあ、こりゃ生きてんのか死んでんのかわっかんねぇな? まぁ脈も微かで虫の息だし、放っておいたらいずれ死ぬな」




「おい! こっちには奇跡的に息してる奴がいるぜ?」




 もう一方の男の足元には、爆発の衝撃で淵の壁に叩きつけられロザリアが、意識を朦朧とさせて倒れていた。



 爆風と打撲による裂傷に加え、硝子がらすや瓦礫の破片が胴や四肢の数ヶ所に突き刺さり、全身の傷から赤い血の濁流が流れ出ている。




「…ぐっ………げほっ…………! ハァ……ハァ…………痛……い………」




 視界が歪み、気が狂いそうな激痛に苦しんでいるのだろう。ふらついて、吐血の混じった咳を込みながらも、ロザリアは必死になって上半身を起こそうとする。




「よぉお嬢ちゃん! お前意識が残ってて幸運だなぁ? えぇ? 俺達も嬉しいぜぇ? オイ……!!」




 それを傍で見ていたアラブ人の男は、にたりと薄ら笑いを浮かべ、ロザリアのサラサラな髪を思いっきり引っ張り上げる。




「うっ……嫌っ……!」




「ウッハハハハ! コイツってヴィットーリオの令嬢じゃねぇの? ここで死なすには惜しい! ローツェの若頭の元へ持って帰ってよぉ! あの方に楽しんで貰おうぜぇ!?」




 不気味に笑うアラブ人の男は、ロザリアが動けないのをいいことに、無理矢理に担いで、彼女の拉致を試みる。




「テメェの勝手にしろよ! 他の連中はくたばってるし、後の仲間に任せておけば、この屋敷は鎮圧できる! さっさと行くぞ!」




 イタリア人の男が、直ぐ様この書斎を出ようとした途端、傷を負って顔から血を滴らせた、1人のヴィットーリオの組員に出口を塞がれる。




「……この……畜生ォ……! 薄汚ぇヴェルニーニのクソ共がァ……! お嬢様に触るんじゃねぇェェ……!!」




 怒り狂ったヴィットーリオの組員は、身体から黄金色の《ナノマシン》を放出させ、それらの光を右手に集中させたかと思うと、電流の稲妻を纏った刃渡り80cm程の巨大な《鉤爪》が姿を現す。



 

「けっ! 《ギルソード使い》か! めんどくせぇ!」




 アラブ人の男は、ロザリアを抱えたまま、鉤爪の男から正面に立つと、左手からエメラルド色に輝く《ナノマシン》が具現化され、《矛を取り付けたキャノン砲》という見たことのない形状に象られる。




「まずは刺し殺せ! 《残滅する(デストロイ・)槍狙撃砲ランスキャノン》!!」




「がァ………! ァ………!!」




 無惨にも一瞬であった__

 


 《キャノン砲の先端》に付いた《巨大な矛》は、ヴィットーリオ組員の胸部を貫き、もがき苦んでいる隙に、刺した《槍》ごと、粉砕した窓ガラスの外に身を放り出す。




「ほら……じゃあな!」




 男が無情に放った砲弾によって、その肉体は原型を留めない程に破砕され、塵々に燃えて暗闇に消えた。




「……ったくよォ! 本拠地の鎮圧ってのは、こんなに温すぎる仕事じゃねぇだろうがよ!?」




「そりゃ《ギルソード使い》の戦力が足りなかったんだろ!

 

 ソイツの大部分は俺達がすでに攫った訳だし、


 身体に馴染んでいねぇ素人の《ギルソード使い》なんざ、相手にならねぇ!


 要領を得た俺達からすりゃ、目に見えた結果だぜ!」




2人のマフィアが笑いながら書斎を出ると、上階から降りてきたモナコ人の男が喚起の声を上げている。




「おい! オメェ達コイツを見ろよ! とんでもねぇ土産だぜ!」




「あぁん!?」




 3階の階段から降りてきた彼が担いでいたのは、高熱で弱り果てた義足の少女だった。




 顔は真っ青に青ざめて、呼吸がひゅうひゅうとか細い。

 今にも命が事切れそうだ。




「すげぇぞコイツ! 昔俺達が滅ぼした〈ヴィヴァルディ=ファミリー〉のご令嬢ってヤツだろ?


 まさかコイツが生きてるなんて思わなかったぜ!


 ローツェの若頭だってコイツを血眼になって探してたらしいからよぉ! 絶対喜んでくれるぜぇ?」




「若頭じゃねえだろ!? シチリアの『新たなる王』だ!


 とりあえず、ソイツ生きてるんなら、さっさと車に積んで連れて帰るぞ!」




 短髪イタリア人の男の催促によって、彼らは駆け足で屋敷の外まで歩を進めていく__




 時折妨害に現れる使用人達を次々に殺しながら、彼らは燃え盛る屋敷の廊下や、未だに銃撃音が絶えず、死屍累々が横たわった玄関口を越える。


 乗用車が停車する裏庭に、5分と経たぬ間に辿り着いた。




 そこには、念のため強襲及び脱出用にと、2015年製のレトロなハイブリッドカーが用意されている。



 絶えない銃撃戦でガラスはヒビがつけられ、ボディには幾つもの弾痕が残されていたが、ガソリン漏れはしていないので、走行する分には何も支障はない。





「おい!ガキ2人を後ろの席に放り込め! 動けねぇだろうが、念のためシートベルトで固定しておけ!」




「屋敷の連中はどうすんだ? くたばった奴等の中にウチらの仲間だって混じってるぜ?」



「あぁ? 勝手にくたばった間抜け共なんざ放っておけ!」



 運転席で吼えていたイタリア人は、荒々しくエンジンを唸らせると同時に車を急発進させ、中心街までの真っ暗な山道を時速80kmで駆け抜けていく。




「………ハァ………ハァ………うっ……!」



 加速する車内の中で、ロザリアは成す術もなく呆然と暗い森の車窓を眺めることしかできなかった。



 全身からの流血のせいで、意識と視界は霞み、身体の激痛に蝕まれるばかりで、思考の回転や冷静な判断さえもままならない。




「オイオイ? ローツェのかしらん所に戻る前に、このガキ共は死ぬんじゃねぇのか?」



「別に生かして捕らえろとも言われてねぇだろ!? どうせ殺すつもりだった奴と、もうとっくに死んだと思ってた奴だからなァ!」




「そうだぜ? まぁどうせ死ぬんだったら、息がある前に一発楽しませて貰うのもありじゃねぇかぁ!? んん!?」




 屋敷を襲った連中の下劣な会話が聞こえて腹が立ったが、彼女を最も不安と焦燥に陥れるのは、すぐ隣から感じるロゼッタの様子だった。


 脈拍が弱くなっているのか、息が無いと思える程に、呼吸音が全く聞こえない。




 自分の命よりも彼女の命が脅かされること、それこそが今のロザリアにとっての最大の恐怖だった。


 だが、怪我による自身の身動きもままならない以上、誰かの助けは絶対的な生命線だ。


 

 車でこの森を抜けて中心街に出るまで5分と掛からない。


 街へ出れば、助けを求められる。



 その期待に全てを賭けて、ロザリアはじっと暗闇の車窓に食いつくように目を凝らしていた。





 ようやく中心街の風景が現れた瞬間、ロザリアは絶望のあまり呆然とした。




「……え……? ……街が……燃えて……?」




 目に飛び込んだのは、彼女が今日まで過ごしてきた、泥臭くとも馴染み深いパレルモの街とは程遠い、この世の終焉のような光景だった。




 好きだったネイルやスイーツの店が、物騒でも歩きなれた路地路が、賑わいの絶えなかった商店街が、破壊され、焼かれ、無数の屍で溢れ、汚され、変わり果てた姿。




「……違う! ……こんなの……! ……違う……!」




 我が故郷の悲劇を目の当たりにしたロザリアの脳裏には、確かに自分が発した言葉が、焼き付いて離れなかった。



 ロゼッタの前で、自身の胸の内を明かした時の、本心だった言葉が__




『今の私の世界なんて変わり果てて欲しい。変わらないのなら……いっそ何もかも無くなってしまえ……って……』




「違う……! 私……! こんなの……! 望んでいない……!! 望んでいない…!!」




 もはや助けを呼ぶどころの心境ではない。彼女の胸の内に溢れる後悔と悲痛が、叫びとなって喉からこみ上げてくる。




「返してぇ……!! 私の大切なシチリアを返してぇ……!!」




「おいテメェ!! 狭い車内で騒いでんじゃねぇ……!!」



 隣でロザリアを押さえつけていた男が、怒って彼女の頭につかみかかる。




「違う違う違う……!! ……こんなの……! ……誰がこんなの望んで……!!」




 ロザリアは掴まれた手をふりほどき、とっさに男の胸元に飛びかかってYシャツの胸ぐらをつかみ上げる。



 彼女は、我を失っていた。


 口から血を吐きながらも、生まれ育った故郷の惨状を前に、この向けようのない怒りを抱えられずにいた。



 一体誰に矛先を向けたらよいのか。この状況の元凶を作り出した父親か、己が私欲のままに争う男達か、心のどこかでシチリアの滅びを願った自分自身か。



 その矛先は震えたまま、少女の胸の傷を抉るだけだった。




「ぐっ……苦し……! ………畜生ぉぉ!! 死に損ないがつけあがりやがってぇぇ……!」




「あっ……!ぐっ………!」




 ついに激昂したモナコ人の男が、傷ついたロザリアの身体をドアに殴りつける。


 そして、右手に握る拳銃を突きつけた。


 

 刹那___




「…………………ォ?……」




 男は脳天から血飛沫を散らせ、動きを止めた。車のソファーとロゼッタの白いワンピースが彼の血に染まるまで、5秒とかからなかった。

 


 見ると、男の頭上から、西洋の剣の刃が真上から突き刺さり、それは車の屋根を見事に貫通している。真上から誰かが刺したのだろうか。




「車を止めろ……!! 上に誰か居やがる……!!」




「クソったれ……!!」




 男達が前席のバックミラーから惨状を目撃すると、悲鳴を上げるかのようなブレーキ音を立て速度を落とし、やや車体を斜めにスリップさせて急停止する。




「誰だ!! 邪魔する奴はァ……!!」




 激怒したアラブ人の男が、《ナノマシン》を左手に纏わせ、助手席から飛び出した瞬時__




 すぱっりと、首が胴体から分離して宙を舞い、血飛沫の噴水と共に、胴体だけがその場に倒れ込んだ。




 左手に握られた《残滅する(デストロイ・)槍狙撃砲ランスキャノン》は、哀愁を漂わせながら、再び《粒子ナノマシン》と化して、蒸発するように消えていく。




「どうなってんだ……! こりぁ…! こんな所で死にたくは……!!」




 最後に残ったイタリア人の男は、怯えながら運転席から脱出しようとした直後。




「よぉ愉快な誘拐犯♪ ヤベェ顔色して具合でも悪いのか?」




「ひぃ…………………!!」




 ドアの窓を見れば、赤紫色の少年ユウキ=アラストルが、車の屋根から、頭を逆さにしてドアの窓を覗いていた。



 その顔に打ちつける狂気に満ちた笑顔は、最後に残った男の恐怖を駆り立てる。



「おい……何だお前ぇ……! やるか畜生ォなめん……なよ……」




 男は、最後の希望なのだろう。身体から《ナノマシン》を発動させ、《追跡する(サーチライト・)高威力砲弾(ギガランチャー)》を召喚させる。




「お……俺だってなぁ……!《ギルソード使っ………!!」




 すでに遅かった。その男が、唯一の対抗策である《ギルソード》の使用など、許されなかった。



 実体化した《追跡する(サーチライト・)高威力砲弾(ギガランチャー)》を握った男は、既に車のドア諸共、頭から胴体が縦真っ二つになって死亡していた。




 冷徹な眼差しで、汚染廃棄物を見下ろす眼光で、ユウキは3人のマフィアの遺体を、車の屋根から直視していた__

 

 左手に握る《剣》は、大量の血の赤が彩られている。



  

「あ……! っぐ……! ユウ……キ……アン……タ……どうし……て……わかっ…!」




 後部座席から、重傷を負ってふらついたロザリアが、開けたドアにもたれながら、よたよたと車を降りる。



 足元の石畳には彼女の血が滴り落ち、今にも命共々崩れて落ちてしまいそうだ。




「あぁ? 偶然この辺でマフィアを狩ってたんだよ。俺だって抗争に巻き込まれたっつーの!


 まぁ偶然襲った車にお前が乗ってたから、命が助かって何よりだぜ……って思ったが……!


 マジかよ……何だその大怪我は……クソッ!!


 とにかくだ! 一旦ここを離れるぞ! なるべく地上をうろつく連中から目を眩ませないとなァ……ロゼッタも一緒に担いでいくぜ?」




 ユウキは車の屋根から助手席側に飛び降りると、そのまま足をふらつかせるロザリアの支えについた。



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