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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
16/104

・シチリアを覆う闇(2)



 __パパ達があんなことしなければ……



 思いもよらないロザリアのその一言に、ユウキは耳を疑った。



 写真立てを手に微笑んでいたロゼッタは、突如生気を失ったような様相に変わり果て、蒼白とした顔のまま硬直する。



 そんな状況を察したロザリアは、場に合わない発言をしてしまったと後悔に駆られ、しばらく頭を掻き毟った後、手招きでユウキを誘い出す。




「ねぇユウキ、外に出て2人でお話しましょ? ロゼッタ、ごめんねぇ! そういう訳だから、もし何かあったら、いつでも私を呼んで!」


 

「あっ……! えぇっと…… わかった…… じゃあ私…… お茶の用意してるね……」




 我に返ったロゼッタは、慌てて台所から鍋を出そうとすると、ロザリアはユウキの腕を強引に引っ張り出し、「痛い痛い、お前慌てんな」と呟く声に構わず、玄関の外へと出て行った。



 彼女が家の扉を完全に締め終えたところで、ユウキは話の続きの口火を切る__




「なぁ、ロゼッタって、元はマフィアの令嬢だったんだよな?一体何があったんだよ……!」



 

「えぇ、話を続けるわ。アンタに聞いてほしいんだもの……」




 ロザリアは、一度話を進める前に、中に居るロゼッタに内容を聞かれたくないと、家の窓から遠い場所へユウキを誘導する。




「さて……あの写真が撮られてから2年経った頃、私のママが病気で亡くなった直後だったかしら……


 今まで大きな争いもなく、表向きは友好的な関係を築いていた三大ファミリーだったけど、お互いの意見や理念が合わないことから、その関係に少しずつ亀裂が生じてきた。


そんな中、悲劇の引き金になる事件が起きたの……」




「事件……?」



「パレルモの中心街に、ヴェルニーニとヴィットーリオの両ファミリーが経営するカジノがあったのよ。


 ある深夜、そこにヴェルニーニ頭領夫人が、お忍びで遊びに行ってたんだけど、突然男が殴り込んで銃を乱射して、夫人は殺された。


 犯人もその場で銃殺されたわ。


 けどね!


 ヴェルニーニはどういう訳か、最近、揉め事や小競り合いの絶えない〈ヴィヴァルディ=ファミリー〉の差し金だと決めつけたのよ!


 結局、犯人の身元は貧民層ってこと以外は詳細不明……


それをいい事に、シチリア中のファミリーに事件のある事無い事デマを流して、ヴィヴァルディの暗躍だと信じ込ませたの!


 さらには、私とロゼッタが親友同士で、親同士でも親密な関係だったパパまでもが……そんなのまともに信じ込んじゃって……!


 そして、〈ヴィヴァルディ=ファミリー〉の邸宅は焼き討ちに遭った。


 優しくて好きだったヴィヴァルディのおじさん達は…ロゼッタの大切な家族は…… 彼女の目の前で惨殺された……!


 そして彼女まで……連中の私欲のために一晩近く暴行されて……左足を切断する大怪我まで負ってしまった……!


 私は…… 止められなかった……! 大切な友達なのに……! 彼女を……傷つけた……!」




 彼女の顔は、溢れるばかりの涙で濡れていた__



 血が出る程に力強く手を握りしめ、まるで自分の無力さを責め続けるように__



 今までの彼女の人生は、その後悔をずっと抱えていたものだったのだろう。




「私ね…… 後から風の噂で聞いたのよ……


 あの時ヴェルニーニ夫人が殺されたのは…… 頭領マッツィーニの陰謀だろうって……


 自分の妻を殺してさ…… 私のパパを良いように操ってたのよ……


 全部…… 自分の都合の良いように……」

 



ロザリアが必死に手の甲で涙を拭っている中、ユウキの脳内には、ある疑惑が浮かび上がる。



 しかし同時に、こんなことを思い浮かべる自分は、まともな人間ではないのかと頭をよぎったが、もはや言葉が喉を詰まらせて、口に出さずにはいられなかった。



 この推測が思いつく自分は、まともな人間とは到底言えない……と、改めてユウキは確信する。




「ロザリア、それは悪かったな__!



 俺はアンタの家や身内事情を知らなさすぎた!


 もう最初から、己の身内に理解者はいない。薄汚ぇ暗躍者だらけの敵だらけだったとはな……!


 ではその上で、今から恐ろしいことを言うぜ。


 別に聞かなくても良いし、腹が立ったなら俺を殴ってもいい。

 

 でも言いたくて仕方ねぇから言うだけだ。


 そのヴィヴァルディ一家の襲撃、確かお前の父さんが、ヴェルニーニの言うことを信じて荷担した、そんなこと言ったよなァ!?


 もし本当にその家と親密な関係が築けていたなら、アンタの父親はヴェルニーニの言い分を疑わなかったのか?


 襲撃を起こす前に、徹底的な調べはしたのか? 殺さない方向へ持って行く努力は本当にしたのか……!?


 今までの一連話からして、俺はそうは思わないな……!


 アンタの父親はヴェルニーニの話を真に受けたんじゃない!


 その話を利用して、ヴィヴァルディ一家を思惑通りに切り捨てたんだろ!


 邪魔者を滅ぼす大義名分欲しさになァ!


 本当はもう、それを薄々感づいていたんじゃねえのか……?」




「…………そうね…… アンタは本当にいいところに気がつくわ…… そして……本当に嫌な性格してるわよね……」




 ロザリアは、涙を拭うのをぴたりと止めて、冷静な言葉を放った。ユウキは、正直なところ殴られるつもりで言ったのだが、彼女の反応は素直だった。


 その冷徹で残酷な言葉を、現実を、静かに受け入れたのだ。




「……パパはね、昔っからそうなのよ。合理的かつ冷酷な人間で、あまり人の話を親身に聞き入れたり、手を貸したりするような人じゃないの。


 人と何かを築き上げることは手段でしかない。そこに利益があるから、都合がいいからそうするだけ。


 だから、たとえ家族であっても、私や死んだママには心から接しようとはしなかった……!


 だから簡単に切り捨てることができるんだ! それが家族の大切なものであっても、家族のような人でも……!


 だから私は嫌いなのよ……! それはパパだけじゃないわ! このシチリア諸島を牛耳ってるマフィア全体がそうなのよ!



 上っ面だけ良くして自分の事しか考えない!! そんな連中ばっかりなんだ!!



 私は大っ嫌い!! 私があの娘を大切に思ってること……パパは知ってた筈なのに……!!



 嫌い嫌い嫌い……!!


 あんな連中なんて……!! この島ごと消えてしまえば……!!」




 我を忘れて、自らの胸の内を吐き出していた最中、ユウキは唐突に彼女の口を手で塞ぎ、家の物陰へと身を隠す。

 


「むっ……むぐっ……!」



「静かにしろっ……!」




 ユウキが睨む視線の先には、黒いスーツ姿を着たマフィア集団の姿があった__



 5、6人程で道幅の狭い道路を独占し、ゆっくりとロゼッタの家の門前にゆっくりと近づいていく__



 

「……ロザリア、この周辺って、ああいう連中が往来することって頻繁にあるのか?」




 ユウキは連中に見つからないよう、小さな小さな声でロザリアに問いかけた。


 ロザリアもまた、声を極限までに小さく掠めたような声で答える。




「……無いことは無いけれど、あの人数ではあり得ないわ…… 確かに私達の屋敷が近いけど…… こんなところ…… 月に1人2人通るか通らないかよ……」




「……っていうか、アイツらヴェルニーニの一味じゃねえだろうな? 目的は昨日の報復かよ……!」 



 

「分からないわよ……! 大抵は同じ服装してるから、どこの誰かなんて一目じゃ判別できないし……!」




 しばらくの間、気配を殺して物陰に身を潜めていると、男達はただロゼッタの家を通り過ぎただけだっだ。



どうやら、この貧民街の奥の場所に用があるようだ。




「……そうだ……ロゼッタは……? アイツ等がうろついてたら……あの()が……!」




 男達の気配がなくなると、ロザリアは慌てて家の玄関まで走り、ノックもせずに部屋へ飛び込んだ。



 

「ロゼッタ……!」




 彼女の脳裏によぎった嫌な予感は、見事に的中していた__



 真っ先に視界に入ったのは、壊れかけたテーブルの下にうずくまって、青ざめた顔で震えているロゼッタの姿だった。



 暴行を受けた夜の悪夢が、脳裏に蘇ったのだ__





「あっ…… ロザ…… っち……… 今…… 怖い…… 人…… 黒い…… スーツの…… うぅ………… い…… いゃぁ……!」




 ロザリアは、泣き崩れる彼女のもとに駆け寄り、抱きしめて慰める。それ以外にできる事はなかった。




「ロゼッタ…… もう大丈夫…… もう大丈夫だから…… ね?……」




 いくら優しく声をかけても、暫く彼女の震えが治まることはない。無論それは、ロザリア自身がよく理解していた。



 いや、むしろ彼女の痩せ細った身体に刻まれた無数の傷跡が、如実にそれを物語っている__




「ロザっち…… もう嫌だよ…… 怖いよ…… 今朝も…… 通ったの…… 男の人達が…… たくさん…… たくさん…… ロザっちが来るまで……… 私すごく怖かった……」




「何それ……どういう事?」




 屋敷が近いとはいえ、ここは普段マフィアが滅多に往復しない場所、それだけにロザリアの脳裏にはさらに悪い予感が走っていた。


 ロゼッタは、あの2つの強大な2つのファミリーからは、既に一家共々反逆の罪で始末されたと認識されている。


 終わらない苦痛、恐怖、非業の最中、彼女は瀕死の状態でロザリアに助けられた__


 今は頭領フランコの目を盗んで、この貧民街の一角で保護を受けているが、それが発覚してしまえば、たとえ身内でも裏切り者として、2人揃って命を狙われかねない__



 ロザリアにとっても、この場所に足を運ぶ行為は、死と隣合わせも同然である__




「どうしよう……? ヴェルニーニの事もあるし…… ここは危険なのかな……?」




「……よっしゃロザリア! 俺がちょっくら様子見て来るわ!」




 背後からは、玄関の扉にもたれ掛かったユウキが、悠然とした態度でそう言った。




「ちょっと……! アンタあの大男集団見たでしょ!? 見つかったらアンタは骨も残らないからね……!」




「へぇ? 俺のこと心配してくれんの? でも心外だぜ? パレルモの路地裏で、あの化け物ぶっ潰したの誰だと思ってんだ?


 とにかく、お前はロゼッタの傍にいて、安心させてやりなよ。連中がここを通る原因だけは、追求してやるからさ!」




 ユウキはそう言って、ロザリアの忠告を聞かずに、さっさと家を飛び出し、男達の歩いていった方向へ向かってしまった。




「……何よ……! 雇い主が心配してやってんのに……!」




ロザリアは震えるロゼッタを抱きながら、すねるように呟いた__

 



◇◇◇◇◇◇◇



 貧民街を通り抜けて、再び森の道を歩くこと約5分__




「ようやく追いついたぜ……! でっ? 奴等はあんなとこで何してんだ?」



ユウキの目の前には、別荘の建設予定地なのかと思う程の、広大な草村が広がっており、その中央では、自分が後をつけていた、6人の男達が集まっていた。




「ここだ……! 間違いはない……!」



「よし、人目についたらまずい! 素早く終わらせて離れるぞ!」




 1人の男が、手に持ったリモコンらしき小型機械を胸ポケットから取り出した刹那、聞き慣れない少年の声に驚かされる。




「やぁお兄さん、大人数でピクニック? 悪いけど俺はその先が見たいんだなぁ~♪」

 



 男が振り向くと、身を潜めていたユウキが、彼の真っ正面に立って不気味な笑みを浮かべており、周りには、自分以外の仲間達が、全員その場で倒れ込んでいた。



 男は慌てて、ユウキの眉間を目掛けて発砲を試みたが、時は既に遅かった__




「先を急いでんだよ。邪魔するなら死ね__」




 ユウキが囁いたは、銃を構えた男の真横だった__



 次の瞬間、その者の靴、足元からは大量の血の海が広げられ、その草花を真紅色に染め上げていく__



 一体何が起きたのか、その理解も出来ぬまま、苦しみ悶える断末魔を響かせながら、男とその仲間達は死に絶えた。




「俺の《手品》は国家機密だよ! ……目に触れた瞬間に殺すってな! さて……と!」




 ユウキは男が落としたリモコンらしき機械を拾い上げると、その広大な敷地の全体を見渡した。



 その地面をよく見ると、その土地には地割れが見られる__



 妙な事に、それは地震によって形成された荒々しいそれとは違い、まるで削岩機で筋を入れたかのように、綺麗な直線をそこになぞられていた。



 しかも、その直線の亀裂は敷地の端に沿うようにして一周しており、よく見ると正方形を象られている。



 それは、人工的に施工が成された痕跡__



 ユウキは己の手柄を確信して、左手のリモコンを作動させる。


 すると、凄まじいモーター音と共に、正方形の亀裂の内側が浮き彫りになり、草と土の裏から鉄の屋根と、地下に向かう道路が姿を現した。



 ユウキの思惑通りであった。ここは、大三次世界対戦時に開発された。巨大な地下シェルター__



 彼はすかさず、薄型のスマートフォンを取り出して、相手の電話にコールを鳴らす。





「よォ! キルト……! やっと見つけたぜ! 盗まれた宝物の在処がな……!!」





◇◇◇◇◇◇




 ユウキがロゼッタの家を飛び出してから、約30分が経過した。



 ロザリアはロゼッタのかわりに、竈の鍋でお茶を沸かし、持ってきたショコラケーキを切り分けて、テーブルに並べていた。

 



「ロゼッタ、あったかいお茶を飲んで、甘いケーキ食べよ? きっと心が落ち着くわよ♪」



  

ロザリアが優しく声をかけても、ロゼッタは長椅子の上でうずくまったまま動かない__



 すると彼女は、写真立てのあった本棚を探り出し、そこにあった数冊の絵本を取り出した。




「ロゼッタ~♪ ほら! ロゼッタの大好きな絵本! これらを読んで元気にならなかったことなかったじゃない!」




 ロザリアが、傍で上機嫌に絵本を並べていると、暫くうずくまっていたロゼッタは、自然と絵本に向けて手を伸ばしていた。



 それを見たロザリアは、待ってましたと言わんばかりに笑顔を見せて絵本を受け渡す。


 

 ロゼッタが所有する絵本は、『青の洞窟』『地中海の宝石』『船の舞う海』といった、『海』を題材としたものが多くあった__



「ロゼッタってさ、本当に海が好きよねぇ」




「うん、小さいときに、お母さんが話してくれた話、今でも覚えてるんだ。遠い昔は海がすごく綺麗で、このシチリア島は『楽園』って呼ばれいたんだって。


でも、大きな戦争があって、今の海は汚れちゃってるけど、もし、そんな綺麗な海があったら、いつか見てみたいなぁ……」




 そう語っているロゼッタの顔は、うずくまった暗い顔から、少しだけ笑顔に戻っていて、ロザリアは安堵した。




「そうねぇ、まぁ私も死んだママによく聞かされてたけどねぇ。


 もう今は嘘っぱちとしか思ってないし、話されても聞く耳すら持てないわ……


 だから私、ロゼッタの純粋な心が、ちょっと羨ましいかも……」




「たまに…… 大喧嘩したよね…… 私達って……」




「あぁ、懐かしいわよねぇ……♪お互いに意地張って聞かなくてさ。


 パパとママからはこってり搾られて、傍で見てたローツェからは呆れられて気がする」




 過去の記憶を肴に、絶え間なく会話が続いていた時、我が子を抱くかのように絵本に釘付けになっていたロゼッタを見つめて、ロザリアは自らの胸の内を語った。




「ロゼッタ、私はこの島が嫌い。自分が生まれて見てきたこの光景が嫌でたまらない。


 海は死んでるし、街には異臭が漂ってるし、島の人間は荒れ果てて、強い奴が弱い奴を虐げていて、誰1人として幸せに生きてる人間なんていない。


 だから私、ずっと思ってるの。今の私の世界なんて変わり果てて欲しい。変わらないのなら……いっそ何もかも無くなってしまえ……って……」




「………ロザっち……」




 ロゼッタは長らく夢中だった絵本を手放し、もう一度、写真立てを手にとり、向き合うように見つめながら言った。 



 

「私は…… もう街を歩けない。男の人が怖いから、黒いスーツをき着た人達に襲われるから…… もう…… 私はみんなのようには生きられない……


 でも私…… この島が好きなの…… 嫌いになれないの…… 可笑しいよね……


 あんなに怖い思いしたのに…… 怖いところなのに…… でも…… 好きなの……


 生まれ育った場所だから…… 幸せだった頃の…… 思い出がちゃんとあるから……」




「………やっぱりアンタって純粋ね。私と違って……心が綺麗だわ……」




 ロザリアは、ユウキに対し思わず漏らした本音を思い返すと、自身を恥ずかしく思った__



 どれだけ荒廃しても、ここは自分が生まれた故郷なのだ。



 辛い記憶のある場所だが、親友や家族との思い出に囲まれた、素敵な場所。愛想を尽かす理由などない。




 だが、いつしか自分は、シチリアを覆う闇に心を囚われ、心を蝕まれていた__


 その気持ちなど忘れてしまい、遠い日の思い出を忘れてしまっていた__



 なんて寂しい人間になり果てたのだろう……ロザリアはそれを心の奥底で感じていた。




◇◇◇◇◇◇



 しばらくすると、玄関のドアからノック音が3回聞こえてくる__



 ロゼッタは、衝動的な恐怖心で身体をぴくりと震わせたが、ロザリアはすぐに「大丈夫! アイツだから!」と言って、彼女を安心させる。



「遅かったじゃない! 雇い主に心配かけさすんじゃないわよ!」




 ロザリアが乱暴にドアを開け、荒々しい言葉で出迎えると、何やらしかめっ面で、不機嫌な感情を露わにしたユウキの姿があった。




「あん!? しばらく取り込んでたんだよ! で? そっちは? 何事もなかったのか?」




「お陰様でね。って…… エラく不機嫌よねぇアンタ、何かあったの?」




「いや、別に何もねぇよ!」




 何を怒っているのか、頭をボリボリ掻き毟って、乱壊れかけの椅子に勢いよく押しを落としたりと、人を寄せ付けない雰囲気を漂わせている。




「あぁ、とりあえずさっきの連中ならもう大丈夫だ! 後を付けてたら、やっぱりこの集落の奥に用があったみたいだからな。


 別にロザリアやロゼッタを狙ってる訳じゃねぇから、そこは安心していい。


まっ、不要な外出は控えた方がいいのは確かだな……」




「そう…… ですか…… あの…… ありがとうございます…… ご迷惑を……」




「まっ、原因が分かっただけでも良かったわ。さて、気分転換にお茶でも飲みましょ! 甘いもの食べたらすっきりするから!」




 ロザリアはそう言って、手をパチリと叩いて言うと、ロゼッタは、さっきまで怯えていたのが嘘のように、「ロザっち! ありがとう!」と、満面の笑みを浮かべてテーブルに向かった。



 そして、忘れていた時間はあっという間に流れ、いつしか夕日が落ちつつあったので、帰らなければならなくなった。




「ありがとう! ロザっち……! またいつでも来てね……!」



 

「ふふっ♪ お言葉に甘えて、そうさせて貰うわ♪」




 ロゼッタの健気な笑顔に見送られ、心地よい挨拶を交わしたロザリアは、ユウキと共に屋敷の帰り道を歩いていった。



しかし、ロゼッタの家で過ごしていた間、彼女はユウキに対して心底腹を立てていた__



 彼女の家に戻って以来、ユウキの機嫌は治らず、トランプの誘いにも乗らず、独り言を呟いていた。



 そんな彼の態度に、彼女は時間の経過と共に不安と苛立ちを募らせていた__




「あのさぁ……ユウキ!」




「あん?」




「アンタ……! 私に隠し事してるでしょ!?」




「はァ!? 何だよいきなり!」




白々しい態度を取るユウキに、ロザリアは貯め込んでいた怒りを露わにして食ってかかる__




「ふざけないでよ! さっき素通りしてった大男の集団! アイツら一体何をしてたの!?


 アンタ付け狙ってたんでしょ!? 全部知ってるんでしょうが!!」




「何だよお前さっきから! そんなの知ったこっちゃねぇよ! どうせタイムカプセルか温泉でも掘り出してたんじゃねぇのか!?」 




「はァ……!? ………へぇ~? アンタこの私にそんな態度取るんだ!?がっかりだわ!


 今日はロゼッタの家まで付き添ってもらったから、せっかく褒美とか考えていたのに!


 すっかりその気が失せたわね!!」




「あぁそうかよ……! じゃあ! その褒美の事なんだけどよォ……!」




「………はっ?」




 感情のままに言葉を投げつけていたロザリアだったが、次の瞬間に見せたユウキの形相は、彼女の背筋を凍らせた。



 それは、このシチリア島で彼女と出会ってから、一度も見せたことのない。まるで冷酷な殺し屋の如く冷たい睨みだった__




「……付き添ってやった御礼として、今から俺のやる事に一切口を出すな!!



 俺に干渉するな!!



 俺の事を知ろうと思うな!!



 約束してもらうぜ?



 その命、散らせたくなかったらな………!」




「ちょ……ちょっと!? 何を……!? 恐ろしい事……言って………?」




 ロザリアは、その高貴なプライドから、思わず強がって反論しようとしたが、ユウキの異常なまでの威圧と態度から、ついに彼女の本能は恐怖を覚えた。


言葉の呂律が回らなくなり、途端に両足まで震え始める。




「……まっ、報酬の代わりだからな。それだけは聞き入れてくれよ。


 物騒な事ってのは、巻き込まれる分には仕方がなねぇが、自ら首を突っ込むのは、愚行でしかねぇ……!」




 そう言ったユウキの顔は、彼女が出会ってから、既に見慣れていた、ユウキ=アラストルの普段の顔に、すっかり戻っていた。



 ついさっきまでの、恐ろしい殺し屋の眼光はどこへ消えたのだろうか__




「どうした? 足が痛いならおぶってやろうか?」




「いや…… いい……!」





 ユウキが気を利かせるも、ロザリアは衝動的に断ってしまった。



 ユウキは、ロザリアが出会ってからこれまで、己の素性と目的を一言たりとも話していない。



 このまま彼を屋敷に泊めてまで共に行動することは、果たして賢い選択なのだろうか__



 このまま彼を、少年ユウキを信用していいのだろうか__



 ロザリアは家路をゆっくりと歩きながら、彼女はずっと考え込んでいた。




◇◇◇◇◇




「………さ~てと~? ……邪魔者は帰ったとこだしぃ?作戦開始といっちまうかァ~?」




 すっかり夕日が落ちた暗闇の草道では、スーツを着崩した長髪の男が、密かに貧民の集落に向かい、その不気味な月影を揺らしながら歩いていった__


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