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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
14/104

・暗躍と≪ギルソード≫<下>(2)


「……貴方の手に持っている≪ギルソード≫、使い方を間違ったら………国が1つ滅びますよ?」





「何っ…………!!?」




 国が1つ滅びる。そんなアクバルの冷たく衝撃的な言葉に、イダルゴは《銃》を構えた右手を思わず脱力させた__




「貴方が認識しているのは、あくまでも使用方法だけ! 脳に与えた情報は、『取り扱い説明書』の最低限の必要事項に過ぎないのです。


 勘違いしないで下さい?


《ギルソード》という兵器は、身体に植え付けてしまえば、『赤ん坊』でも使えてしまう。


 しかし、それを使いこなすには、永い時を経て鍛練とノイハウを1から構築するしかない。


 もし貴方が今ここで、無知のまま≪ギルソード≫を使ったら、ほんの些細な操作ミスでこの場の人間全員が死亡することだって十分にあり得る事……!


 国を平穏にするも焦土にするも、全ては使い手次第、よーく肝に命じてくださいね……!?」




 アクバルが冷徹な口ぶりでそう言い放った時、命令とはいえ、フランコを躊躇ぜずに撃ち殺す意志など、イダルゴはとうに失っていた。




「……すいません頭領ファーザー……! 今の俺には……まだキツいみたいっす……」




 イダルゴは正直にそう言って、右手の力を潔く抜いた。



 すると、型の《ギルソード》は、たちまち《ナノマシン》と化して、真紅色の煌めきと共に消えていく。



 マッツィーニは、命令に従わなかったイダルゴを攻め立てる事はせずに、ただ冷静にアクバルの忠告を素直に受け入れ、舌打ち1つで堪えることとした。




「父上、その問題は後で解決しましょう。ところでアクバル……!」




 しばしの沈黙の後、ローツェが静かに口を開いた。




「貴方が持ち込んだ《ギルソード》はいくつですか?今イダルゴに与えた1つで終わりなのですか?」




「いやぁ、10台程持ってますよ? うちのディムールという部下に持たせた分のと、あとは量産された《簡易型ギルソード》と呼ばれる安物の量産品ですが、その蓄えがございます。もともと取り分を分散させるつもりでしたから………ん? 騒がしいですねぇ?」




アクバルが自慢の営業話術を展開させようとした途端、旧大聖堂カッテドラーレのどこからか、大勢の人間が叫び合い、暴れ回るような騒音が、ホールのあちこちから響き出した。




「ちっ……!! 馬鹿共が! 大方、船の事件を聞きつけて勝手に混乱して乱闘してんだろうよ……! 怒る飼い犬共を慰めてやらねぇとなぁ……」




マッツィーニが気だるそうに腰を上げると、アクバルに向けて、これ以上にない程に喉を震わせて怒声を放った。




「会合は終わりだ!! おいアクバル! その《ギルソード》とやらを、一度全部俺に寄こせ!!


人の信用を裏切ったクソ野郎なんぞには絶対にくれてやるな!


もし、勢力の均衡を図りたいのなら、個数を分け合ったとしても8対2にしておけ!とにかく俺が預かる!!


この一件が片付かん限りは、俺はいつでもお前を疑っていて、そして《ギルソード》で殺すつもりでいる!! よく覚えとけよ!? フランコ=ヴットーリオォ!!」




ヴェルニーニ=ファミリーの頭領マッツィーニは、喉を潰すように叫び散らし、息子のローツェと共に、まるで会合を投げ出すように会議ホールから立ち去った。




「クソッ! やべぇ事態になってんじゃねぇか!!」



「この裏切り野郎が!! 今までの平穏と安泰を簡単に潰しやがって!!」



「ンなことは後にしろ! とにかく一刻も早く聖堂ココを出るぞ!!」




 周りの頭領達は、我が身と各々のファミリーの一員達の安否を案じたのか、イダルゴもそれに従い、皆総出で退出していった。




 誰一人として席につく者がいなくなったとき、その場に置き去りにされたフランコは、迷い子のように情けなく泣き崩れながら、凍てついた床に膝をついた。



 島の領主とも呼ばれる輝かしき存在から、瞬く間に島の悪党となり果てたという現実など、一体どう受け入れられるというのか。



 ただ彼は、暗く閉ざされたホールの天井を見上げ、一人涙することしかできなかった。




「クククッ……! 面白い……! 実に面白い所ですよねぇ…! このシチリア島は……!」




 その後ろで、最後まで残っていたアクバルは、一人泣き崩れる大フランコを嘲笑いながら、2階中央会議ホールを後にした__





◆◆◆◆◇◇◇◇





 辺り一面の闇と妖しく霞んだ星々が、シチリア島の夜空を彩っていた。




 小さな丘にそびえ立つ屋敷『ヴィットーリオ邸』へと帰っていたロザリアは、そのまま自室に引きこもり、明かりの1つも灯さない暗闇のベッドに、生気を吸われたかのように倒れ込んでいた。




 今日一日の間に見て感じて知った衝撃的な事件と、痛み止めで誤魔化していた傷の激痛が今頃になって襲ってきたことが相重なって、夕食など一口も喉を通りはしなかった。




 普段なら父フランコと共にテーブルを囲んで、料理を食べている筈であるが、生憎フランコは生気を殺されたような顔のまま書斎に引き籠もっている。


 その上、かつ自分も対して変わらない状態に陥っているので、普段食事を用意する屋敷の使用人達は、さぞ困惑していることだろう。




 しばらく何も考えないままベッドに横たわっていたら、暗く閉ざされたドアから、ノック音と共に少年の声が聞こえてきた。




「お~嬢~様~? 生きておられますか~? 一日ボディーガードが入りますよ~?」




 ボディーガード……そういえば忘れていた。




 港で知り合った年上の少年、ユウキ=アラストルのことだ。




「屋敷の人が心配してるぜ? ついでに頼まれて、食事と薬持ってきたから、中に入れてくれないか?」




 正直、放っておいて欲しい。という欲求が、彼女にはあったのだが、いつの時代でもマフィアの世界は義理高い。




 見ず知らずの自分の身を守ってくれた上、屋敷内での奉仕までさせてしまっては面目ない。


 彼女は気力を絞って上半身を起こし、ベッドの真横にある電気スタンドを灯して、ドアに向こうの呼びかけに応じた。




「悪かったわねぇ、帰って早々ほったらかしにした上に、従者みたいなことさせちゃって、好きに入って?」




「どうも~♪」




 気の抜けた返事と共に、自室のドアが開くと、使用人に着せられたのか、黒いスーツを纏ったユウキが、ブドウやりんごなどの入ったバケットと飲み薬を乗せたカートを押して、彼女のベッドまで寄ってくる。




「何か腹の中には入れてくれって、女中さんが言ってたぜ?


 あっ、俺の事は気にすんなよ? 元々宿無しだったのに、わざわざこんな豪勢な屋敷に泊めてもらってんだから、手伝いくらいはするさ」




「ありがと……まぁこちとら命を助けられたワケだし……本当はアンタには手厚い礼をしなきゃだけど……」




 こそばゆさを感じながらも、ロザリアは感謝の一言をユウキに述べる。


 その途端、今頃になって空腹を感じたか、果物の甘い香りに惹かれたか、彼女は食欲のままにバケットのブドウを3粒もぎ取って、一気に口の中へ放り込んだ。




 ブドウの柔らかな舌触りとしっとりとした甘味が疲弊した精神に栄養を与えたのか、少しずつ気分が楽になってくる。




 気が楽になれば頭も働き出して、彼女は少しユウキと会話をしたいと思った。




「どう? この島に来てのアンタの目的は、無事に果たせそうかしら?」




 ロザリアは、まだ彼がどこから来てなにを目的としてこの島へやってきたのか、未だにユウキ本人の口から明確に聞かされていない。




 彼女は彼とのコミュニケーションを通じて、できることなら彼の情報を掌握したいと考えていた。




 結局のところ、目的は腹の探りなのだ__




 それによって、この一連の騒動が解決できるのなら、尚更の事__




「俺の目的? そうだな、今は少し様子見ってとこさ」




「様子見?」




「まぁな、この島は俺が思ったよりも厄介な所でねえ。目的の前には弊害が多すぎるっつぅか、だから不用意に動けやしねーんだよ」




 当然のことだ。何せここはマフィアの統治国なのだから。




 商売をするにも土地を買うにも、何かしらマフィアの干渉が付き纏ってくる。




 無論、それによって、何かしらの粗相を犯して彼らを敵に回せば、もう命はない。




 パレルモ港での会話で察しはついているが、ユウキがやっている事は、十中八九、彼等の逆鱗に触れる危険な橋渡りだ。




「可哀想よねぇアンタは、こんな異常めいた異国の地で、怖い人たちの陰謀を嗅ぎ回らなきゃいけないなんて、この島にはアンタの心強い味方はいないのかしら?」




 とはいえ、ロザリアは、自分から力を貸そうとは言い出さない。




 未だこの男の素性を手中に収めてはいない、下手な親切によって、自分にも相手にも害が及ぶ可能性だって有り得るからだ。




「いやいやぁ、こう見えて実はバックにはたーくさんの……っといけねぇ! アイツに連絡するの忘れてたわ……!」




 ユウキはそう言いながら、ズボンのポケットから、バイブで震えている超薄型のスマートフォンを取り出した。




「ちょっと失礼するぜ。もしもーし、悪いなキルトぉ。すっかり連絡を………」






 電話の着信に応じながら、ユウキはそのまま彼女の部屋を出て行ってしまった。






「ったく! ホントにわっかんない男!」






 ロザリアは、何か吹っ切れたようにベッドに倒れ込んだ。




「……なんか……すっかり余裕がなくなっちゃったな……本当は……あの子にあげるケーキ……買い直したかったのに……」






 暗闇の寝室で独りでに呟くと、本日の披露がよほど蓄積されていたのだろうか、そのままぐっすりと眠ってしまった。








◇◇◇◇◇







 宵闇のパレルモ港では、大柄で剛腕な男が、膝を付いて涙し、子犬のように怯えていた。




 銃弾でえぐられたのか、左手で押さえつけている右肩と両足からは、大量の血が流れ出ている。




 男の傍らには、無数の死体が血の海洋をつくり、無残な姿で横たわっていた。




 銃弾で破砕されたそれは、蜂の巣と呼べる損傷の度を超え、もはや人体の原型を留めていない。






「すっげぇ……すっげぇっすよ!! この《ギルソード》ってのはァ!ただの俺の身体に寄生しただけの(チャカ)なんかじゃねぇ……! まるで神から与えられた神器じゃねぇですかァ!!」 






 男の前には、超薄型スマートフォンを片手に話し、無数の死体を未定はしゃぐ若者の姿があった。






 金髪ロングヘアーに、ヴィジュアルメイクと幾多のアクセサリー、だらしなく着崩した黒いスーツという容姿は、まさに本日の会合で実験台にされた男、ミハエル=イダルゴのそれである。






『フッ……! えらく上機嫌で安心したよイダルゴ。


では予定通りに事を進めろ! 目的地の位置情報は送信しておいた、そこに迎え。


ひとまず偵察だけで構いやしないが、《ギルソード》のデータ収集として、邪魔する奴はすべて()っておけよ!?』






「Yes,Boss!」




 忠義を示したイダルゴの返事と共に通話が途絶えると、厚さ2mm程の薄く平たいそれから、会合で使われていたものを小型化した『空間型液晶モニター』が現存され、アイコンには、一件のメッセージが表示されている。




「へぇ? ヴィットーリオ=ファミリーの隠し倉庫とは……!


 ククッ……! あの野郎共、《例の宝物》をネコババしやがったのかよ! 死にてぇらしいな……!?


まぁいいや、全部俺様が持って帰ってやるぜ………!

 

 って……何だっ?」





 スマートフォンを眺めていると、もう一通のメッセージが届く。差出人はローツェのようだ。





「何ぃ?『ちょっとした興味本位だが、昔に親父達が壊滅させた三大勢力ファミリーの生き残りが、まだ近くの貧民街で生きているかどうか、ついでに確認してくれ』……か。



 あぁ……4年前に皆殺しにしたあのファミリーだろ? さすがに死んでるとは思うが…… 



 …………とりあえず、邪魔する奴は出現次第、無差別に皆殺しだな……!」





 


 イダルゴが、己の感を確信して振り返ると、さっきまで震えていた男が、匍匐前進で這いつくばり、傍に横たわる者の拳銃を取ろうとしている。




 傷の激痛や恐怖でいっぱいだったのだろう。男は銃にばかり気を取られ、イダルゴが気づいていないものと思い込んでしまっていた。




「……ぐっ……! ……頭領様……お嬢様……!!」




 やっとの思いで、銃を手にした刹那、彼に訪れたのは死だった。




 イダルゴが、背後から男の後頭部を鷲掴みにする。





「オイお前よォ……! もう諦めて死んどけ……なっ?」





 死神の迎えが男に告げられたら瞬間、頭部を掴んだイダルゴの右手が、凄まじい轟音と共に火柱を立てる。




 掴んでいた彼の頭は既に消滅し、首から溢れる血飛沫と共に、ゆったりと、胴体のみがその場に倒れこんだ。




「ケッ……! こんな楽な使い方があったのかよ! さっきは何で銃をわざわざ『実体化』させたんだろうねぇ!? あの科学者様は……!?」






 イダルゴは愚痴を吐きながら、血液の滴る己の右手をまじまじと眺めながら、暗闇のパレルモ港を後にした。




 よく見れば、ショットガンの銃口を模した無数の風穴が、まるで蓮の穴の如く、彼の右手を覆い尽くしていた__







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