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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
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第6章 暗躍と≪ギルソード≫<下>(1)



◆◆◆◆◇◇◇◇




「はぁ……ようやく旧大聖堂カッテドラーレに戻ってきたけど、日が暮れるのも早いわねぇ……」




 マフィアが会合を開催している会場『旧大聖堂カッテドラーレ』を目前に、ロザリアとユウキは、煉瓦造りの建物の物陰に身を寄せていた。




「そりゃ奇襲を懸念して、裏道から慎重に行きゃ時間もかかるだろ。それにしても何だよ! あのおびただしいゴロツキ共の大群は、この聖堂はこんな奴等に占拠されてんのか?」




「ゴロツキ共で悪かったわね! 私もその一人なんですけど!?


 まぁ確かに、見慣れない人達からすれば、間違いなく誰もがそう言うわ。


 でも地元の警官さえ、私達マフィアの横行を承認しちゃってるし、何しろ逆らえないのよね~」




「マジかよ!? 警官の力が無いとか、俺の住んでるトコとは正反対だなオイ!


 つーか、これどっから入るんだ? 連中が入り口で彷徨(うろつ)いてっから近づくに近づけねぇぞ!」




 旧大聖堂カッテドラーレ周辺では、右手に拳銃や機関銃を持った、取り分け図体の大きな男達が、剣幕な顔つきでうろついている。



 下手に彼らを刺激すれば、集団で滅多打ちにされそうだ。




「おかしいわね? 会合が始まったのはお昼過ぎくらいで、流石にこの時間までには終わっている筈なのに……!

どうして迎えの用意もしないで、あんな警戒体制に入ってるのかしら……? もしかして……中で何かあったのかしら……」




 表情を曇らせたロザリアは、何かの衝動に刈られたように、すくりと立ち上がった。




「おい……! まだ危ねぇって……! ヴェルニーニとかいう連中に見つかったらどうするんだ!」




「大丈夫よ。私はこれでもシチリア随一のファミリーの令嬢だから、この中なら味方も多いわ。

 

 だから連中もこんな業界人の目につくところで襲撃なんて絶対にしない。


 そんなことしたら、余程身分の高い頭領ボスじゃない限り、余計な敵を作った挙げ句、自分等が肉塊にされて終わりだもの。


でも、アンタが着いてくると、不審者と思われて蜂の巣待ったなしだから、ここで待機しなさいよね!」




「はっ? オイふざけんなよ!? 俺をここまで連れてきた挙げ句、こんな狭い所で放置プレイってことか!?」




「うるっさいわねぇ……! いいから言うこと聞きなさいよ……!


身体の通気口を増やしたいのかしら……?」




「……仰せの通りに……マドモアゼル……」




 ロザリアは、鋭い睨みでユウキを黙らせた後、黒い煤で汚れた煉瓦壁の片隅に彼を一人残し、さっさとマフィアの大群の中に紛れ込んでしまった。




「おいマジかよ。ここ狭いし周囲敵ばっかだし、何も俺やることねぇし……キツいぞこれ……」




 ユウキは孤独感と心細さに、思わずため息をついた。




◇◇◇◇◇




 旧大聖堂カッテドラーレのエントランスホールへと足を踏み入れた瞬間、ロザリアは自分が抱いた違和感に確信を持った。



 中央ロビーでは、マフィアの下位メンバー達による乱闘と口論で混乱状態に陥り、2階へ繋がる階段の上方を覗けば、昼間からのパーティーを着てを楽しんでいた婦人達が、それにより取り乱して往生している様子が伺える。



 一体全体何が起きているのか、彼女は理解が追いつかずきょとんとしたが、即座に冷静さを取り戻すことができた。



 今ここで、マフィア同士の対立と暴動が起きている理由。そして自分が狙われた件が、それに大きく関連していることは、とうに察しがついている。



 この場での目的は決定している。父親に会うのは勿論のことだが、あの若頭の男を探し出して、この状況に至った経緯を全て聞き出すことだ。




「ちょっとそこのお二人さん! 格闘技で盛り上がっているとこ悪いけど、話を聞いてくれるかしら!」




 中央ロビーのカウンター付近で、互いに殴り合って鼻を真っ赤に染めた巨漢の男達を呼び止める。




「何だだァテメェ殺すぞ……! ってアンタ! ……ヴィットーリオのお嬢じゃねぇか! 今はここに居ねぇ方がいい……! 下手すりゃ命を……!」




「もう遅いわよ! こっそり抜け出して街に出たら追っかけ回されて、足だって撃たれて充血してんだから……!


 それより、ローツェ・ドゥ=ヴェルニーニ次期頭領をお見かけしなかったかしら? 私は彼とお話がしたくてたまらないのよ!」


「えぇと……あのお坊ちゃんなら……さっき3階のパーティーホールで自分は見かけたんだが……」




 片方の男は、ヴィットーリオと友好の関係があるのか、低姿勢でロザリアに接していたが、もう片方の男は、敵対関係の真っ最中なのだろう、彼女に対し食って掛かるような態度を示す。




「オイ! ふざけるのも大概にしろ! そもそもアンタ等ヴィットーリオ一家が『血の掟』を破って俺達のシマを荒らしたんだろうが! このまま事が平穏に済むなんざ思うなよ!」




「それが全く身に覚えがないし、状況さえもさっぱり分からないから聞いてんのよ! で!? アイツは一体どこ! 状況はどうなってんの!?」




「このガキィ!! あくまでしらばっくれるのか畜生!!」




 横暴な態度の男は、取り押さえる味方の腕を振り払い、ロザリアに向かって拳を振るい上げた瞬間、階段の上方から、聞き覚えのある怒声が轟く。




「静まらねぇか恥晒し共ォ!! 何を勝手に混乱して馬鹿騒ぎしてやがる!! みっともねぇ!!」




 上階に目をやると、スーツのポケットに手を突っ込み、剣幕な形相でゆっくりと階段を降りるローツェの姿があった。



 その顔は、つい先程までロザリアをからかっていた際のそれではなかった。



 シワで埋めつくした眉間、獣のように鋭くかつ氷った視線、まるで父親から譲り受けたかのような鬼神の形相にうって代わり、下で暴れ回っていた荒くれ者共を一瞬にして静止させる。



 すると彼は、ふと目の前に立っているロザリアに目を止めた。




「……チッ……! 何だよ……! お前帰ってきたのか……!?」




軽く舌打ちをかまし、彼女を邪険にするような口振りでそう言った。



 その時に表した態度に、ロザリアは静かに憤慨する。



 無事にこの場へ戻って来たことを、期待外れだとでも思っているかのようだ__




「……で? こちとら非常時で混乱してる間の優雅な散歩は楽しかったか……?」




「アンタねぇ……! 優雅な散歩ですって!? 私が外でどんな目に遭ってきたか、一部始終聞かせてあげるわよ!!


 もう手足だって撃たれて血が出てるし……! 一体、この会合で何が起きているのか、顛末を説明しなさいよ!!


 アンタが状況を一番よく知ってんでしょうが!!」




「残念ながら現在調査中だ! 俺も他事で取り込んでいたから、その渦中にはいなかった。


 俺等んトコで飼ってる奴が何か危害を加えたのなら、ソイツが勝手なことをして申し訳ないと謝罪しておこう……!


 だが非常時で混乱しているのは、こちらも同じことだ!

そこは考慮してもらいたいがな……!


 頭領ファーザーの後継ぎなら、それくらいは理解できて当然だろうがよ……!」




ローツェの鋭き目とその言葉は、冷静かつ冷淡だった。


  理不尽な事態で大怪我を追わされ、怒って訴えていたロザリアであったが、彼のその態度に、思わず諦めをつけて、黙り込んでしまった。



 冷淡な態度もそうだが、彼に何を話しても通じないと見えた、失望感もあった。




「……そう……! ならそういうことにしておくわ……! で? お父様はどこに居るの? アンタよりもお父様とお話する方が分かりやすいかも!」




「お父様かぁ~? あぁ、フランコ頭領なら今はやめておけ。泣いて抱きつくお前を慰める余裕なんざ、間違いなくありゃしねぇ!」




「はぁ……? どういうことよ!? ……まさか……騒動の渦中でお父様に何を……!!」




「早合点すんな馬鹿女! いくらマフィアの権力者なんざといえど、序列と規則はあんだよ! お前の家に手ェ出したら何人を敵に回すかくらいわかってる!


フランコ頭領はご無事だよ!屋上のテラスで佇んでおられる。


 ただ、お声を掛けるのはやめておきな?


 どうやら会合は尋常じゃない程の揉め事だったらしくてなぁ。誰の話も受け付けない程、精神的に弱っておられるようだ……!」




「……そんな……一体何が……?」




 衝撃的な告知のあまり、ロザリアは目を見開いて硬直してしまったが、すぐに正気に戻り、ローツェを視界から消すように目をそらして、父フランコのいるテラスへと階段を駆け登った。



「……ったく!苛つくガキだぜ……!


けどなァ? ……計画は余裕で順調なんだよ……覚悟してろクソがッ!」




 ロザリアの姿が見えなくなった後、ローツェは独り言を呟き、歪な笑みを浮かべた。




◇◇◇◇◇




「パパ……!!」



 手足の傷を忘れて階段を駆け上がり、息を切らしながらも展望テラスへ辿り着くと、皺の一つ目立たない純白のビジネススーツを纏った父フランコの後ろ姿が、真っ先に視界へ飛び込んできた。




 この時、公共の場で呼ぶ『お父様』ではなく、素の親子の関係を確かめるように、ロザリアは父を『パパ』と呼んだ。




「パパ……! 無事で良かった……! 会合で騒動が起きたって聞いて……一体何が起きたの…?」




「………………………」




「………パパ?」




 ロザリアは、その姿に違和感と不安感を覚えた。



 間違いなく、これまで見続けてきた父の背中ではなかった。



 マフィアの頭領として、そして小さな国の長としての威厳と誇りに満ち溢れた背中、彼女が最もよく知る父親のそれであったのに。



 それが今では、まるで牢獄の囚人のように、脱力して情けなくうなだれている。




「……あぁ……ロザリアか……」




 約1分程の沈黙が続いた後、フランコはようやく娘の方へ振り返った。



 しかし、振り返った彼の表情は、彼女を愕然とさせた。



 会合前に陽気な声を掛けていた際の顔とはまるで別人の、執行間際の死刑囚に似た、生きる気力を削がれたような表情をしていた。



 彼は一瞬、ロザリアの右腕に空いたスーツの穴と、赤黒く充血した左足の包帯に目を向けた。



 しかし、それさえも気に掛ける余裕すら無かったのか、または、彼女の身に起きたことの想像がついた故の罪悪感からか、即座に目を背けてしまった。



 そして、小さな声で彼女に呟いた。




「ロザリア……聞いてくれ……どうやらパパは……取り返しのつかない失態を犯したらしい……」





◇◇◇◇◆◆◆◆





「ヴィットーリオを殺せ!! 俺達の新しい《力の象徴》で、裏切り者を処刑しろ!!」




 眉間に突きつけられる銃口、マッツィーニ=ドゥ=ヴェルニーニからの怒声、ホール全体から降りかかる疑心や侮蔑の視線、その全てにフランコの胸を恐怖と混乱に陥れた。




「なぁマッツィーニ……弁解の余地をくれ……!俺は本当に知らないんだ…お前みたいな古き友の信頼だけは絶対に……!」




 悪魔の形相をした頭領マッツィーニに対し、フランコは声を荒げて必死に説得する。



 しかし、等の本人は、もはや彼の必死の言葉も、全く聞き入れようとしなかった。




「フランコ……『血の掟』を作ったときのことを覚えてるか? お前が提唱し、島の繁栄と平穏を願って、俺達が三日三晩徹夜で条文をまとめた、この島の規律の礎だ!


 掟の基盤は、互いの絶対的な信頼関係だ!いかなる問題がファミリーで生じても、常に相互の信頼を死守したからこそ! この島の平穏が守られてた!


 逆にそれを疎かにする奴には容赦なく報復した! 己の利益のみに囚われた馬鹿共を葬ってきた!


 この会合こそ! その信頼の尊重が試される時だった! 時間厳守や慎んだ発言、一つでも間違ったら、そいつは秩序の基盤を破った者として、お前自身が見せしめに処刑してきたはずだ!!


 俺は心底がっかりしてるぜ……! お前の不始末と怠惰のせいで、俺との長年の信用と信頼が損なっちまった!! あの『()()()()』の時と同じようにだ……! あぁ残念だよ……!!」





 落胆したマッツィーニがふと右手を挙げ、それを合図に、イダルゴが人指し指を《銃型ギルソード》の引金にかけようとする。




「やめろ……やめてくれ……」




 半ば己が命諦めつつも、震えた声をフランコが漏らした直後、一人の男の大声が、ホール内に響き渡った。





「………ちょいと待ってください!! そういうの、止めてもらえますか?」




 以外にも声の持ち主は、《ギルソード》をこの島に持ち込んだ『研究者』兼『営業者』のアクバルだった。


 彼の発言により、このシビアな状況に動揺していた頭領達は、思わず静粛になる。


 逆にマッツィーニやイダルゴ達ヴェルニーニ=ファミリーの一員達は、反発や下手な干渉許すまいと、その男に睨みを効かせる。





「はっ? ……てめぇアクバル! 何も知らねぇ兵器商人風情が、マフィア様の内情に首突っ込んで、無事で済むとでも思ってんのか!?」





 イダルゴは、フランコの額に銃口を突き付けたまま、声を荒げて怒鳴った。


 しかしアクバルは、それに耳をを傾けることなく、コツコツ歩いて彼の傍に寄ると、鋭い目付きで睨みつけ、右手に持った銃型の≪ギルソード≫を指を差す。





「例えば貴方、この使用方法はもうご存知のことでしょう……?」




「あぁ知ってるぜ! このカプセルみてぇなのに横たわったら、何故かコイツの仕組みや使い方とか、まるで記憶が改竄でもされたみてぇに全て理解できた!


それがどうした!! これがそういうモンだと説明したのはお前だろうが!!」




「そうですよ? でもこれは知らないでしょう……貴方の手に持っている≪ギルソード≫、使い方を間違ったら……




……………………国が1つ滅びますよ?」







《後書き》誇ってはいけませんが、なろう小説でもっとも遅い小説こそ、コイツです!(土下座)

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