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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
12/104

・暗躍と≪ギルソード≫<中>(2)



 アクバルは、浮足立って心待ちにしていた。



 捧げられた生贄が、至高の生体兵器に生まれ変わるその時を__




「それで? アクバル……! お前は待っている間にやるべきことがあるだろ!! 俺達に1から10まで説明してもらおうか!


この装置は一体何なんだ? この空中画面ディスプレイに表示されている《超兵器の聖母体(ギルソードマザー)》ってのは一体何なんだ!?」




 演説台の横から、フランコは剣幕の表情で激を飛ばした。一人勝手に事を進めて、自分等には何も説明しないアクバルに、強い苛立ちを覚えていたのである。




「……いいえ? もう僕の方から説明することは、何もありませんよ?」




アクバルは、気だるげな表情で傍聴席へ目をやると、威厳の欠片もない声でさらりと言い放った。




「はぁ……? じゃあお前は一体何の為にここに居るんだよ!? えぇ……!?」




「ダメだ……! 俺はもう『兵器』がどうとか以前に、コイツが何を考えてるのかさっぱり分からねぇ……ついていけねぇぞ?」





 もはや呆れを通り越して怒りが湧いたと言わんばかりに、各席からのため息、舌打ち、悪態などが次第に目立っていく。





「いやいや! 何故ならね? 僕のそれでは説得力が少々欠けるんですよ。


 そんな前代未聞の科学技術の結晶を目の当たりにして、ああだこうだと申しましてもですよ?


 貴殿方は「何が何だか理解不能だ」としか思われんでしょう?

 

 私は正直、この兵器のことを御身を以って、知って頂きたいのですよ!



 ……ほら、直にあの当事者が生まれ変わった身体でお目覚めだ……


 彼の方から……たっぷりとお話を伺うといい……!」





 アクバルがそう言うと、タイミングを見計らっていたかのように、《超兵器の聖母体(ギルソードマザー)》の上部の蓋が静かに開かれ、中からは、その実験体となっていたイダルゴが、ゆっくりとその身体を起こす。



 装置から出てきた彼の姿は、実験前と比べても至って変化は見られない。強いて言うならば、先程まであれほどパニックに陥っていたのが、今では妙に落ち着いた様子でいることだった。



 しかし、どうも不自然に思えてならない事柄は、本人が発する言動から伺えた。





「ったくテメェ……! 人を無理やり実験に付き合わせておいて、さらには仕事まで押し付けんのか? それで説明がめんどくせぇからなんて理由だったら……お前マジで殺すからな!」





「めっそうもない! 貴方からの方がより説得力が増すんですよ。



 何しろ……全て頭に入ってる筈ですよね?



 その兵器の《特殊能力》とか……操作方法とか……!」





 男達は再び唖然とした。



 再三再四と、彼の口からは理解不能で衝撃的な発言が発せられているが、この場に同席する者達は、誰一人として彼を信用できなくなっていた。





「……どういう意味だよ! それは一種の記憶改竄でも施したっつーことかよ!?」




「知るか……! もはやコイツの言ってることには、全て妄想にしか聞こえねぇ……!」





 傍聴席からどよめきが響く中、ただ一人の男がアクバルの言葉を肯定する台詞を発した。




 それは、彼に実験体として扱われた成年、イダルゴ本人であった。





「……いいや、残念だがコイツの言ってることは全て本当だ。


 実際に被験者となった俺が、もう納得せざるを得なくなったんだ。嘘だと思うんなら、その証拠を見せてやる……!


俺の体内に宿った《ギルソード》をなァ……!!」





 イダルゴが台詞を吐き終えた刹那、彼の身体の周囲から、真紅色に輝く光の粒子が沸き出した。



 暗く閉ざされた《超兵器の聖母体(ギルソードマザー)》の装置の中で、彼の目と心を虜にした神秘の光。



 それら、まるで彼の身体という苗床に寄り添うように、鮮やかかつ慎ましやかに光を灯し、その身体に集っている。



 言うまでもなく、館内の者は、その異様かつ幻想的な現象を目の前に、言葉を発することも唖然とすることもなく、ただ呆然と言葉を失っていた。





「何だ……? アイツの身体が……光ってるだと……? 一体何が起きているんだ……! なぁマッツィーニ……!」




「さぁな……俺は息子から『究極の超兵器』なんて信憑性もクソもねえ言葉しか聞かされてなかったからな……!


 この光景には衝撃だ! 何かのバクテリアなのか……!? それとも俺は幻影でも見てんのか……!?」





 暫くの間、寡黙に状況を観察していたフランコとマッツィーニだが、目の前に繰り広げられる現象には、流石の二人も思わず感嘆の言葉を溢す。





「ほほ~う? やはり予想通りですねぇ皆さんのご反応は!


 しかし、まだこれは『超兵器の正体』なんかではありませんよ。


 実はこの光る浮遊物体、『超兵器』である《ギルソード》の構成素材に過ぎないのです!



 その通称を《ギルソード・ナノマシン》!



 まぁこの状態でも、鋼鉄製の既存兵器を軽く破壊する性質を持っていますが……これは『部品』と言うよりか『原料』と言った方が妥当でしょう。


 ではイダルゴさん? 一体それが何なのか! その『正体』を見せてあげてください。今の貴方なら……できる筈です♪」




「ウルセェ! お前は黙ってろ!」




 アクバルの軽口に文句を言った次の瞬間、イダルゴの周囲を漂流していた《Gギルソードナノマシン》は、妖しくも穏やかな輝きを帯びながら、雷鳴のようなおぞましき光とエネルギー放出させ、嵐の如くその一体を駆け巡る。




「どうやら、この《ナノマシン》ってヤツは、使う人間の運動神経に反応して、こうやって姿を現すらしいな!


 だったら後は簡単だ!


コイツを起動させる『感覚』は……! もう超兵器テメェに教えられてんだよ!!」




 実験前の恐怖と緊張など過去のように忘れ、己が身体に宿る未知の能力に酔いしれた彼は、徐に右手を身体の正面にやり、親指を手前に人差し指を奥に向けて、まるで銃の引き金を握る仕草を、自らの手に象る。




 __次の瞬間、荒々しく輝いていた《ナノマシン》が、その右手に吸い寄せられるように集中する。



 刹那の現象だった。いつの間にか真紅の光の灯しは消えていた。




 それと引き換えに、彼の右手にあったのは、眩しい光沢に包まれた一丁の散弾銃らしき《銃》であった。



 形状は、旧アメリカ陸軍や民警の間で広く愛用された『モスバーグM500』に酷似しているが、あの幻想的であった《ナノマシン》の印象が一瞬にして壊される程に、その外観は何の変哲もない既存のそれ。





「まぁ分かってはいたが……! 《ギルソード》の正体ってのはコイツなんだな……!?」





イダルゴは、少し興醒めしたような目つきで、右手の銃を見つめる。




「こりゃ……! 散々勿体振りやがって! 結局俺達に見せたかったのは、何の手品芸マジックショーだったんだ!? えぇ!!?」




「馬鹿にしやがって! つまらねぇ! 俺達がそいつと同じようなチャカを長年どれだけ扱ってきたと思ってやがる! その怪しい光もただの小細工か何かか!? ソイツを拷問ついでに半殺しにしろ!!」




「ちょっと待て! お前らここまで見て疑うのか!? 今更否定するこたァねぇだろ!! せめて試し撃ちくらいはさせたらどうだ!?」




「そ……そうだ! こんな微粒子から武器を生み出せるってなら、暗殺なんざ簡単だぞ! まだ可能性はある……!」





会議ホール内には、意見を違えた男達の、騒然とした罵声怒声が闊歩する。



 マフィアの商売だけあって、生業の源である武器や薬物には、相当の専門知識と経験、そして慎重さを彼らは有している。




 故に、彼を子供騙しの玩具を売りつける詐欺師だと憤慨する者、前代未聞の現象と《ギルソード》の特質に魅せられ、それがもたらす改革に期待する者。


 彼らの思考は互いが互いに異を唱え、やがて反発はエスカレートしていく。





「ヴットーリオ、いい加減会合が進みやしねぇ! この猿共を黙らせろ!!」




 鬼の形相で訴えるマッツィーニに対し、同感の意思を抱いていたフランコは、胸元に仕込んでおいたレベッタを引抜き、脅しとして傍聴席へと発泡しようとした。



 しかし、瞬時にホール入り口の軋んだ扉が、バタリと勢いよく開かれる。その衝動に興奮を静めたマフィアの男達は、一斉にその扉へと目をやった。




「お前は……ローツェじゃないか!」




 そこに立っていたは、シチリアマフィア第2の勢力を誇る組織、ヴェルニーニ=ファミリーの頭領の子息にして後継者、ローツェ・ドゥ=ヴェルニーニであった。




「ローツェ! 時間をわきまえろ! 今は大事な会合やってるだろうが!」




「もう仕訳ございませんお父上、緊急の事態故に……至急お伝えしたいことがございます!」




 父であるマッツィーニの怒声に物怖じすることなく、どこか重々しい雰囲気で、ローツェはゆっくりと、演説台へと続く通路の階段を降りながら言った。




「と言うより……これはこのシチリアの秩序と安全に関わる事柄でので、この場にお集まりの皆様にお伝えしたい……!


 我等ヴェルニーニの運営する豪華クルーズ客船『マリア・プレヴェザ号が何者かの武装襲撃によって沈没…!乗組員は全員死亡!


そして、襲撃犯と思われる者達の遺体の中には、〈ヴィットーリオ=ファミリー〉に属する者と思われる男達のそれも確認されている…!


一体どういうことですか……! フランコ頭領!!」





 ローツェの放った言葉によって、会議ホール内には戦慄という嵐が駆け巡った。




 幾度と訪れた沈黙など比ではない。この時、全席に据える男達の脳裏に過ったのは、己が身の危機と、動乱の予感。




「ちょっと待てローツェ……! そいつは確かな情報なのか……? 私は知らないし命令もした覚えはないぞ……!?」





「セニョール・フランコ……? 子供の頃からお前に恩恵を受けている私としても、出来ることなら貴方を疑いたくはない……!


 しかし、あの船は我らがヴェルニーニの所有物……! それに乗り込んでいた者の身元を調べた結果、確かにヴィットーリオの人間も判明しています……!


 よりによって、関係者以外にすることの許されなかった武装をしてね……!!」





「……何だそれは……! 知らない……! 私はそんな命令など下した覚えはない……!!」




 額を汗で浸し、必死に弁解を試みるフランコを他所に、傍観する男達はひたすらに彼から目を背け、口を開くことはない。




 傍聴席の最前列に腰を据える、マッツィーニ・ドゥ=ヴェルニーニは、鬼のような形相を変えることなく、ゆっくりと腰を上げてながら、低く重々しい声で言った。





「おいローツェ……そいつは確かな情報なのか? ……つっても、お前は優秀だ! お前が持ってくる情報や戦術はいつも正確だ!

間違いなんざねぇ……!


 てことは? フランコ=ヴィットーリオ……!


 お前……破ったら人生が終わる『血の掟』を破ったことになるぜ?


 __おい……! イダルゴ……!」





 マッツィーニの激昂に、イダルゴは瞬時に自信の役割を理解し、その身体から産み出されたギルソードを、フランコの眉間に向ける。





「お前の手に入れた《新型の銃》で……裏切り者を殺せ!! 試し撃ちみてーなこと、やりたくて仕方ねーんだろ?」





「イェッサー!! 頭領ファーザーヴェルニーニ!!」




 予測不可能な命の危機にさらされたフランコは、ただひたすらに混乱し、怯え、うろたえることしかできない。





「おい……落ち着かないか? 俺は何も知らない……本当だ……! 頼むから…! 無実を証明させてくれ……!」





「ヴィットーリオぉ? 実に残念だよ! こんな形でお前にさよならを告げることになるとはなぁ。しかも、せっかくの《ギルソード》をこんな悲しいことに使うことになろうとは……


 だがなァ! こういった権力絡みの惨事になれば、下手をすれば、やったやってないは問題にはならねぇんだ……! 大事の発端や原因をどっかで作っちまったのが! 怠惰であり罪なんだよ……!


 殺す理由は隙のようなもんだ! 言い訳も弁解も通用しねぇ……!


 マフィアの頭領ヘッドやってるお前が……それを一番よく分かってる筈だぜ……?」




 殺意さえ感じられるマッツィーニの鉛の言葉に対し、フランコは成す術なく言葉を失った。



 ホール内全体から、彼を荒波の如く覆い尽くすのは、疑心・失望・侮蔑の視線。それらの闇が混迷し合って襲い、彼の神経を喰い尽くすのであった。



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