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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
4.盲目少女と忠犬の絆 編
101/104

・『翡翠の園』と少女達の覚悟(2)




 戦火の幕が切って落とされた__


 

 号令と共に、病院や福祉施設周辺に潜伏する『新たな武装集団』達は、一斉に陣営へと躍り出る。


 新たに導入された量産兵器、《簡易ギルソード》を手に、その集団は突撃する__




 ♢♢♢




「__っ!? 伏せて__!!」




 攻撃に気づいたリリーナが、真っ先に先頭へ立つ。


 《細剣形態(サーベル):サンセベリア》を右手に、空から注ぐ《ビーム粒子》を瞬く速度で斬り払った。




「えっリリーナ?……《ビーム》を斬った??」



「アンタ!? さては入院中休んでなかったわね!?」




 その反応速度に、ヴィクトリアとルフィールは瞼がひん剥かれて唖然としたが、その光景に困惑を覚えたのは、何も味方だけではなかったようだ。


 


 ◇◇◇



『なっ……何が起きている!? 仕留めたと思いきや、奴はまだ生きてるぞ! ?

 一体何だ!? あの女は何を斬った!? 」




 ビルの上層階から的を狙う《簡易ギルソード使い》の狙撃手は狼狽する。


 その焦りは周囲の同士達、また無線を通して別拠点の者達にまで伝わり、徐々に伝染していく__




「うっ……狼狽えるなァ!! とにかく撃ち続けろ!!俺達は特攻部隊だァ! 玉砕覚悟で奴等を……!」



「オイ……!? 待て……!? あのガキ……あんな距離から俺達を睨みつけて……!?」




 この瞬間、狙撃手が覗いた銃のスコープには、嘘のような絶望的光景が映っていた。



 覗いた先では、200m以上も離れた紫髪の少年が、獲物を定めるように視線を放さず、こちらを睨んで微笑んでいる。

 

 逆に狙われていると理解した瞬時__

 閃光が差し迫った__




 ◇◇◇




「__良い反応だぜリリーナ! 今ので遠距離にいる敵の位置がはっきり分かった! あそこだろ__♪」



 高層ビルの上層階を見上げるユウキは、笑いながら

利き手の左手で《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》を翳し、自然の直線上に照準を合わせていた。



 


 凄まじい衝撃波と火力を纏って、破壊光線と化した《剣》は約35階前後へ放たれる__




 一瞬の間に雑居ビル16〜21階は爆炎の花火と業火が吹き乱れ、襲撃犯達は塵のように落下していった。

 

 ユウキは目が尖ったまま、まだ笑っている。




「こんな都心部で本格的な戦闘はゴメンだな! ここは手っ取り早く害虫駆除だ!


 リリーナ、身体は大丈夫なのか? 確かに人手がより多けりゃ、より短時間で仕事は片付くがよ!」




「私の心配はもう大丈夫だよ! それより、敵が遠い位置から襲ってくるけど? どうするの!?


 誘き寄せると被害が広がる! でも遠距離攻撃は駄目、それも周辺や怪我人や損傷の恐れがある!

 病院と福祉施設は!絶対に守らなきゃだし……!」



 

 リリーナの不安と相談に対し、ユウキの返答は極めて冷淡かつ、あっさりとしていた。

 冷静な真顔だが、判断と覚悟に一切の迷いは無い。




「そこは何も考えるな! この状況下で被害ゼロで市民を守れって? クソ級の妄想だ!

 一帯は何度もテロの襲撃を受けてんだぞ!?

 

 施設の住人や周辺市民には、もう避難命令を出してるし、何なら慣れてやがる!

 的確な判断なら、別働隊のプロに任せればいい!


 戦力がいねぇんだ!


 だから俺達だけで、奴等の殲滅を__!」




 ユウキはそう叫んで__

 

 両手に《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》を計8本、鉤爪のように握り、先端を正面に構えたが……


 

 次の瞬間__


 ユウキ達は目線の遠くで、一筋の熱源光線が降り落ちるのを見た。



 爆炎の花と煙幕が再び地面から顔を出し、建物の外壁が崩れ落ちる__


 男達の悲鳴と嗚咽が轟音に混じって聞き取れた。


 どうやら、あの物影に敵影が隠れていたようで、友軍からの支援攻撃と推測される。




「何っ? また《ビーム砲》!? でも私達を狙ったわりには、下手すぎるような……!? ねぇルフィール!」



「少しは落ち着いきなさよヴィクトリア! あれは友軍の攻撃でしょ!?


 __でもすごいわね。

 かなり遠方から狙い撃ちしてたけど!


 それできるの、キルトぐらいだと思ってたわよ!」



 ヴィクトリアとルフィールが驚くのをよそに、キルトは特別といった反応は見せなかったが__



 目の前にいたユウキは、その光景に興奮と高揚を隠しきれずにいた。




「上出来じゃんよ! こりゃ人手は足りるかもなァ。 上等な戦力が期待できるぜ__!」 




 上機嫌な顔で呟きながら、ユウキは福祉施設のビルの頂上を見上げて微笑を浮かべた。




 ◇◇◇◇◇




 その頃、福祉生活支援施設『翡翠の園』45階、公共用のスカイデッキにて__



 

 右腕に重武装を纏った1人の少女が、高台から地上を見下ろしている。

 



「オッケー! 良い位置に位置に命中できたよ。


 ただでさえ、あの時は病院で我儘を聞いてくれちゃったから、先輩達には、極力手間を掛けさせない!」




 そう言って、独りテラスに立っていたのは、施設に住む少女ラフィアス=フィラデルフィアの姿__



 その右腕は、軍で開発された《義手》を装着するが、その形状は、まるで見慣れたそれではない。


 

 肘から先端が、空母の『対空砲』のような__


 銀色かつ硬質で機械仕掛けな大筒が、その右腕を強固に覆っている、ように見える__



 いや、正しく腕の形状はそれに相違ない。


 上半身に着飾る学生用の黒ブレザー、素材の布は右腕部の二の腕まで、確実に纏わっているのに、そこから先が腕の形をしていないのだ。


 まるで改造手術でも受けて、文字通り『対空砲』に腕を据え替えたような外観の、それ__



 しかし、《砲台》の先端をよく見れば、構造は既存兵器ではなく、太陽光や熱を吸収する《簡易ソーラーシステム》のような小型パネルが備わっている。



 ラフィアスの右腕は、単なる『義手』ではない__



 立派な彼女の《ギルソード》であり、今の右腕は《高出力メガ粒子砲》の役割を存分に果たす__





「__本来なら、 誰の負担をかけずに私だけで戦えたら良いのにって思うわよ。


 この神様から貰った腕、《武神創生の(ゼウスメイクス・)武装機械手(ハザードアーマー)》さえあれば、私は幾らでもシェリー達の盾になれるのに__


 でも、【アンタ】の主人が望んでないんでしょ?

 ほら、この風景はどう見えてる?


 シェリーに伝えてあげるといいよ!


 その目から見える位置や光景、感じた感情をあの子に全部、ねっ__!」




 そう呟いたラフィアスの傍らには__


 盲目の少女シェリーに仕える忠犬、ホワイトシェパードの【セイバー】が、凛として共に立っている。

 

 

 シェリーの補助犬なのに、

 何故だかラフィアスと共にいた。


 尚且つ、その胴体に装着されているのは《誘導器具(ハーネス)》ではない__


 少し長い、細い棒状の何かが突き出ていた。


 形状は正しく、戦場で通信兵が背負うバックパック通信機から飛び出る、そのアンテナ__


 それに酷似している。



【ウァオォウォウン!!】



 忠犬セイバーは、何かを知らせるような遠吠えを1つ、その高台から叫んでみせた。

 



 ♢♢♢


 __同時刻、


 福祉支援施設〈翡翠の園〉28階、シェリーの寝室。




「分かるよ、セイバー! お前がラフィアスと一緒に何を見ているのか。


私達は繋がっているから、全部を分かり合いたい!」





 電気を消した、薄暗いベットに腰掛けて__


 盲目の少女シェリーは、右手に金具のような何かを携えて、そう呟いていた。



 その手にする金具の形状は、あの忠犬セイバーに装着されている、あの《誘導器具(ハーネス)》の取手。


 その正体は、少女と忠犬が互いに所有し、かつ共有する《ギルソード》__



 名は《深層読解の(サイコメトリア・)共鳴体器具(ライフハーネス)》__

 



「セイバー、力を貸して! ラフィアスと私達で、この施設で暮らす人達を守ろう!

 私は目が見えないけど、この《共鳴体器具ライフハーネスのおかげで__


 お前が何を見ているのか、何を思っているのか、この肌を通して伝わってくる!


 私はセイバーと一緒なら、きっと何だってできるし、どんな痛みも堪えられる!


 我儘な主人だって思ってるよ、ごめんね__!


 でもお願い!あの時に私達を守って戦ってくれたリリーナさんを、今度は私達が助けなくちゃ__!」



 少女シェリーが覚悟し、決断したその時__



 彼女に見えてはいないが、手元に握る《共鳴体器具ライフハーネス》は、艶やかな淡藤色(ライラック)の光を帯びて、輝き出した。



 離れた屋上に立つ忠犬セイバーと、その覚悟を共鳴するように__

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