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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
4.盲目少女と忠犬の絆 編
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第38章 『翡翠の園』と少女達の覚悟(1)



♢♢♢♢♢♢



 〈軍立病院〉襲撃事件から、1週間が経過した。


 警備兵も含め、大病院の広大なロビーの入口前は、当院スタッフから診察希望者、その関係者__


 様々な人々が、慌ただしく広間を行き交っている。



 そんな光景をすれ違い様に眺めながら__


 少女リリーナ=フェルメールは、緋色のキャリーケースを右手に、中央玄関を目指して歩いていた。



 退院を迎えた彼女は、久々に纏う銀色の学生用ブレザーで颯爽と歩き、上着のベントが優雅に靡く。


 

 乱戦で負った傷は完治し、歩く感覚も体調も全て、普段通りのそれを取り戻したのだった。



 しかし、身体の調子は戻ったが__


 彼女の脳内には、未だ自身で納得できていない事柄が、こびりついて放れなかった。




 それは、退院間近に起こた、自身の《覚醒瞳(アイズ)》についての不具合を相談した際のこと__


 主治医エヴァンズ=ヴァスティーユより、検査結果は先日告げられていたが、リリーナはそれに対する不服と、一層の危機感を抱いていた。



 

【特定の《ギルソード》が見えないと言ったねぇ。


 故に、もう一度脳の装置や《覚醒瞳(アイズ)》の性能検査を慎重に重ねた結果だが……!


 __何も異常は無かったよ。


 君の身体や《能力》の作動状況は、全て正常。

 技術者として調べられるのは、これで精一杯だ!

 

 君が抱く違和感の原因は、もう敵側にしかない。


 君の《覚醒瞳(アイズ)》による位置解析を危険視して、掻い潜る策を連中が講じてきたんだろう!


 気をつけないとねぇ。僕も軍の役人である故に、総本部の上層には報告と連携を取っておくよ__! 】




 __そんなエヴァンズの言葉が、彼女の脳内で繰り返されては、焦りと不安が増大するばかりだった。




 (どうしよう……! どうして連中に宿ってる《ギルソード》、なんで急に見えなくなったの……!?


 私の脳や《瞳》の能力に故障はないと分かっても、そんなのは問題じゃない……!


 アイツ等の足取りを追う唯一の手段が失われた!


 狙われてるシェリー達を危険から守る、大切な手段だったのに! 今奇襲なんてされたら!?


 この街は? みんなは……!? どうすれば……!?)




 __そんなことを悶々と考えていると、聞き慣れた相棒の、男子の声が目の前から聞こえた。



 

「お〜いリリーナぁ? 退院早々どうしたよ? そんな暗い顔して黙って歩いてきて……!?」 



「………ふぇ!?」




 __つい放心して歩き続けてしまったようだ。


 気がつけば、目の前には自身の親友にして相棒の少年、ユウキ=アラストルの姿があった。


 目の前で、ずっと声をかけてくれていたようだ。



 驚いた衝動で、思わず変な声が出てしまう__




「あっ、いや……ごめん……ちょっと考え事してて……」

 


 恥ずかしく顔を赤らめたリリーナは、つい強がって、隠すように平然な素振りをして見せる。



 だが、咄嗟に彼女はその行動に後悔を感じた。

 悩みではなく、本来これは即刻共有すべき事項。


 しかし、彼女はユウキに心労を掛けまいと、事態に対する責任と使命感から口火を切る機会を先延ばして、はぐらかしてしまった。



 いや、この危機は伝えるべきである。

 一呼吸をして、彼女は口を開こうとしたが__


 その心情は、ユウキにばれたようだ。


 彼は左手の人差し指で、肉質が薄いリリーナの頬をグリグリと突っついた。




「何がちょっと考え事だよ! お前の悩みはエヴァンズ先生から一通り聞いてるぞ!?


 あのクソッタレ武装集団を《覚醒瞳(アイズ)》で追跡できなくなったんだろ!?

 そんだけの事だろうが! 悩む必要性はねぇよ!


 っとに! 独りで全部抱え込みやがって……!

 お前……少しは人に甘えるってことを覚えろ!


『付き添いの2人』も、同じ事思ってるぜ!? ほら試しに聞いてやんなよ!?」」




「痛っ! いへへっ……え? 他に2人……!?」




  咄嗟にリリーナが疑問に思うや否や__


 その『付き添い』の者は即座に現れては、背後から体当り際に抱きついた。


 驚いて振り向けば、橙色のショートヘアに同じ銀色のブレザー服を羽織った少女。


 同学年の友人、ヴィクトリア=スレイヤーの姿__




「リリーナぁ……!? 何を勝手に私達の知らないところで、また傷ついて入院長引かせてんのよォ……!?


 ずっとストレスで気が狂いそうだったのよォ!

 アンタが死にかけてたあのテロ事件以来ィ……!


 重体で危篤常態だったアンタが……いつ心臓止まってもおかしくないって……! 私達はずっと祈ってばかりで、生きた心地しなかったんだからねぇ……!?」




 そう訴えかけたヴィクトリアの目は、赤く腫れ上がって、大粒の涙が溢れ落ちている。



 それを見たリリーナが真っ先に感じたのは、やはり心労をかけたという罪悪感だった。



「あっ……うん、本当に……ごめん。私……!」


 


 慌てて謝罪の意を頭で考えるも、もう1人の同級生が左隣から唐突に現れて、その肩に右手を置く。


 


「……まず、退院おめでとう。とりあえずリリーナ?


 言いたい事は山程あるけど、まず貴女は私達の監視下には、絶対に置かれるべきだと分かったわ__!」




「えっ? あぁ……ルフィール……!」




 近距離から囁かれる低く暗い声、確実にお冠だと推測できるそれが、リリーナの肌に妙な緊張と与えた。



 彼女の右隣に身体を寄せていたのは、同じく同僚のルフィール=フロンティア__


 他の生徒より背は低く、肌が陶磁器のように白いが、黒い長髪と制服が目立つ特徴的な少女だ。


 


「……経緯は聞いてるから安心して? 全部把握したうえで、アンタと密着行動してあげる。


 だから、もう部隊行動ありきで考えなさいな。

 負担の負い過ぎは禁物!


 私達はリリーナの手足になってあげるから、今まで頑張ってた分、遠慮なく甘えろってことよ!」




「そう! やる事は知ってる! まず第一目的は新しく会った友達と福祉支援施設『翡翠の園』の守護!


 それと、あのクソ逃げ切ってる武装組織《革新の激戦地(ヴェオグラード)》の完全撃破! でしょ?


 やってやろうじゃないの! 何なら私達が殲滅させて、アンタの仕事を奪ってやってもいいからね!


 ほら! 決まったらさっさと福祉施設に行くわよ!」




 眉間に皺が寄ったヴィクトリアがそう言い放つと、


 ルフィールと一緒にリリーナの腕を引っ張り出しては、さっさと中央玄関へと駆け出していく。




「あぁ、ちょっ!? ねぇ分かったからっ! 言う事聞くからぁ……! 無理に引っ張らないでぇぇ〜!」




 __世話焼きの仲間2人に連れられて、


 恥ずかしさに顔を赤らめた困り顔で、彼女等とロビーへと小走りするリリーナ。



 そんな彼女の後ろ姿を遠目に眺めながら、ユウキはかつて親しかった親友達を思う__




 ( __なぁ、天の上から見てるか? いつかの兄弟!


 地下の隅で泣いていたリリーナは、今は自分のことを大切に思ってくれる、良い仲間達に出会えたよ!


 エルシオ__! リステリア__!


 俺達は大丈夫だから、もう心配すんなって__!)





 共に手を取り合い、少し楽しげな3人の少女達__


 その光景を見守っていたユウキは、心から安堵するように、ひっそりと微笑を浮かべていた。




 ♢♢♢♢♢♢


 


 大病院のロビーを出るや否や、周辺の通りやロータリーは想像以上の緊迫感に包まれていた。



 一帯は厳重なテロ警戒態勢が敷かれて、警察の緊急車両や特殊部隊の護送車、また武装車両が隊列をなして、あらゆる大通りやビル街の裏道を封鎖している。




「もう戦場の光景だよね。病院の目の前なのに、どうしてこんな……!」




 重要な医療機関の目の前とは到底思いたくない、場違いにも程があるその光景__


 それを目の当たりにしたリリーナは、この上ないやりきれなさに唇を噛み締める。



 

「ホントに! あの病院襲撃から1週間は経ったけど、随分とこの辺の風景も変わっちゃったわよね〜!


 主犯の連中は行方知れず、厄介な事に下っ端チンピラの武装蜂起が頻発するし!


 まだ一般市民は周辺に住んでたり、仕事やお店の営業もやってるけど、機動隊との乱戦がもう日常__!

 最早ここ一帯、軍の警戒が集中する危険地帯よ!」




「それに、現時点で検挙してる襲撃犯達は、既存の機関銃や一般武装の奴等だったけど__!


 もう敵側にも、私達と同じ《ギルソード使い》は存在する。襲ってくるのは時間の問題!


 今は上層部も会議室でパニック常態かしらねぇ?


 不穏分子やテロ集団と相手にして、敵側に《ギルソード使い》が現れる事態(ケース)は、今までなかったでしょうに__!」




 ヴィクトリアとルフィールが、リリーナの両腕を優しく掴みながら、その風景を横目に歩いていると__


 聞き馴染みのある男子の声が、右横から聞こえる。




「奴等が現れるのも時間の問題だな! 今はこちらの様子を伺ってるのか__!


 末端の雑魚(ザコ)兵隊しか襲撃して来ないが、ただの捨て駒だ。

 奴等の背後には、必ずあの組織〈革新の激戦地(ヴェオグラード)〉の連中が必ず潜んでいる__!」




「あれ、キルト? ユウキ達と一緒に来ていたの?」




 リリーナ達が横を向いた先には__


 あの高貴な風格を持つ生徒会長兼理事長の男子生徒、キルト=グランヴェストの姿があった。



 首筋まで伸ばしたやや長髪(セミロング)かつ癖のある髪、細く鋭い瞳は、爽やかな若緑の色彩。


 格好は黄色いブレザー、純白のワイシャツ、黒のズボンと革靴を纒った格好を纏ったそれ。




「まぁ、距離が近いからな。それに俺達全員、お前の退院を正直を待ち侘びていたぞ!


 あの福祉施設【翡翠の園】の治安の現状、それを早急に伝えたかったからな__!」




「……施設の治安の現状? シェリー達は無事なの!?

現状って! 一体どうなって……!!? 」




 早々に焦りを早めるリリーナに対し、ユウキが彼女の背後から駆け寄って、その頭をそっと撫でた。




「落ち着けってリリーナ! 護衛には仲間達がいる! 


 誰もお前独りで施設を守れなんて言ってねぇだろ?

 全員で対策整えてるから、焦ることはねぇよ!」




 ユウキはそう言って、頭を撫でながら、それとは反対の手で、ビル街に囲われる大通りの方を指差した。




「……っ!?」




 彼の指差す方をリリーナが見やると、そこには軍の囚人用護送車がずらりと順列駐車されていた。


 まさに今、手錠を掛けられ、胴体を縄で芋蔓式に繋げられた15〜20人の襲撃犯らしき集団が、一斉に捕縛され、拘置所に連行されようとしている__



「……………!」



 そんな光景と共に、ユウキに撫でられる安心感と重なって、リリーナは冷静さを取り戻す。




「なっ! 大丈夫だよ。お前が独りで悩まなくたって、世の中上手いこと回るんだよ。きっと!


 お前は退院したばっかなんだ。無理しねぇで……」




 ユウキがそう言って、リリーナを撫でる手を頭から放した、その刹那__




 【バシュッ__!!!】




 __と、ユウキ達の頭上を高熱の閃光が通過する。



 瞬く間にそれ背後に停止するパトロール車両を直撃し、暴風轟音を散らして爆炎の火花を咲かす__


 

 ユウキ達は即座に身を屈ませ、飛来物から身を守りつつ、周囲を警戒する。




「ぎゃっ!? また新手の軍団!? つーか今の攻撃!

あれ《ビーム》よねぇ__!!


 もう現れちゃったわけ!? 《アレ》を使う敵!!」




「そうね! 戦術もクソもない闇雲強襲だけど、あれを見ちゃったら、他に説明がつかないわね!?


 武装警備隊じゃ無理よ!私達の仕事ってことね!」




「お前達、無駄口叩いてる場合か!? 行くぞ!!」




 屈んで頭を抱えながら、ヴィクトリアとルフィールは漏れた本音を語り、注意を促すキルトだったが__


 その間に、警備隊は次なる大勢と整えるべく動き出し、拡声器で指示を出し合っている。




「《ギルソード》による砲撃を受けている! 通常武装の兵は退避ぃ!! 我々では相手が悪い!


 警備隊は護送車を守備っ!!

 他は《ギルソード使い》の援護に回れぇェ!!」




 その号令に応えるように、即刻に戦闘準備を整えたのは、ユウキとリリーナの2人だった。



 己の身体に宿る化学兵器、《ギルソード》の原子形態とも言える《ナノマシン》__


 それを《粒子体覇気(ナノマシン=オーラ)》と化して体外に放出させて、ユウキは赤紫の光に、リリーナは紅色の光に包まれる。



 リリーナの変化に至っては、眼球が通常の形状ではなく、紅色の虹彩、白く楕円に尖った眼孔__

 

 その瞳は《粒子器発動の覚醒瞳(ブレイン=アイズ)》へと変化を遂げていた。



「何だよ? やる気に満ちてるのかァ? リリーナ__!

 今は無理すんなって! 俺が全員瞬殺してやる!!」




「いいって気遣いは! 私がずっと休んでた間、みんなが頑張ってくれてたんでしょ?

 その分私が戦って、恩返しをするだけだよ!


 それに、病み上がりでどこまで持ち堪えられるか、自分のデータだって欲しいからね!」



 

 覚悟が決まり、思考を闘争本能で固めた2人は、そのまま冷静沈着に、その目で一体の索敵を開始する。




 ◇◇◇



 一方、周辺の警備隊からは死角となる、病院から真向かいの雑居ビル18階の空室フロアでは__




「こちら強襲A班、《ビーム砲》の試験射撃を実施!

 軍用車両を一撃で破壊! カルヴァンの言う通り、この《()()()()()()()》の性能は本物だ!」




 漆黒の武装服を纏った覆面の狙撃兵が、窓の影からインカムを通して報告を告げる。


 同フロアには、男の仲間達が6〜7人と固まっているが、他の近辺にも彼等は数十人と潜んでいるようで、一斉攻撃を仕掛ける算段である。




『ほう、では《革新の激戦地(ヴェオグラード)》と名乗るあのテロ集団は、まだ信用して良いと見た!


 客員! まずは戦線で強襲を仕掛ける!!


 戦いに勝とうとするな!?

  我々はあくまで特攻部隊! 戦力を削ぐのが役目だ!


 我が偉大なる聖地創世の実現のため、奴等の戦力に少しでも多く被害を拡大させよ!!』




「了解! では強襲A班! これより攻撃を続行する!」

 


『了解! 同時に現待機中の計7班を突撃させろ! 我等が理想郷の創設のために! 玉砕を誇りに思え!!』

 


 

 厄災の合図が告げられた__


 

 号令と共に、病院や福祉施設周辺に潜伏する『新たな武装集団』達は、一斉に大通りへと突撃する。


 それも、一か所からだけではない。


 

 下水道地下のマンホールから__

 廃ビル群の路地裏から__

 またそれ等の上階空室や屋上から__



 大通りを中心に配置される軍の包囲網、それを掻い潜った歴戦の猛者達が、一斉に陣営へと躍り出た。


 通常の武装ではない__


 恐ろしく奇妙な形状と造形、奇怪な発光現象を放つ武具、それ等を手に宿して、その集団は突撃する。



 若者達を討ち取り、蹂躙するために__


 

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