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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
10/104

・暗躍と≪ギルソード≫ <上>(2)

フランコ=ヴィットーリオ(49歳)ロザリアの父親にしてシチリアマフィアの最大勢力を誇る巨大ファミリー〈ヴィットーリオ=ファミリー〉の頭領。実質的なシチリア自治国の支配者。


マッツィーニ・ドゥ=ヴェルニーニ(51歳)ローツェの父親にしてシチリア第二の勢力を持つマフィア〈ヴェルニーニ=ファミリー〉の頭領。フランコ=ヴィットーリオを嫌悪している。


アクバル=シャンデリゼ(26歳)謎の超兵器≪ギルソード≫をシチリアに持ち込んだ科学者にして武器商人。




◇◇◇◇◆◆◆◆



 これは今から約2時間前、ロザリアが旧大聖堂(カッテドラーレ)3階のテラスにて、退屈な一時を過ごしていた真っ只中の出来事である。



諸島各地のマフィアを統括する巨大ファミリー〈ヴィットーリオ=ファミリー〉の統領、フランコ=ヴィットーリオは、閑散とした木造の廊下を静かに歩き、旧大聖堂(カッテドラーレ)2階の中央会議ホールに向かい進んでいた。



 その顔面に表れていた表情は、先刻まで愛娘ロザリアに見せていたそれとは打って変わり、闇の世界を闊歩する死神のような、見る者に恐怖と威圧を与えるような眼光を露にしている。




統領(ファーザー)、お待ちしていましたよ。さぁ中へお入りください__!」



 中央会議ホールの入り口に辿り着くと、先ほどエントランスホールに居た黒人の男に出迎えられる。会場警備を任せていた者でだが、一体どこのファミリーの構成員であるかは、実のところ定かではない。




「ロザリアは、ちゃんと3階のパーティーホールに居るんだろうな……?」




「勿論です、あの方はいい子ですから、他のファミリーのご婦人達と楽しくやっていることでしょう」




 強張った表情で問いかけるフランコに対し、黒人の男は笑顔でそう答える。




「本当はあの子にも丁度良い経験だろうと思っていたんだが、この会議に同行させるのは、もう後1年たってからだな。


 何せここからは、汚い大人の話し合いだ……!」




 彼は独りでに呟きながら、会議ホール入り口の重い扉に手をやり、軋む音を立てながらゆっくりとそれを開いた。



 旧大聖堂(カッテドラーレ)には、マフィア達の会合や集会の目的に応じて、様々な会議場やホールが完備されている__



 中でも、2階の中央会議ホールは、3階の交流ホール5つ分と聖堂内でも一際(ひときわ)広大な面積を誇り、その設計や面積は、旧イタリア国会議事堂の本会議場に酷似している。



 大聖堂を改装する際、各部屋のほとんどが限られたスペースで改装されたのだが、この中央会議ホールのみが、わざわざ聖堂の拡張工事が必要とされた唯一の場所である。



 薄暗く照明の乏しい当ホール内は、入り口前の雛壇から半円かつ階段状に1500を超える席が揃えられ、大規模な集会や政治が絡む会議でしか、この場所は利用されない。



 __本会合の主催者であるフランコが入室した時には、すでに諸島の至る所から終結したシチリアマフィアの頭領達がずらりと顔を揃え、各々の議席に踏ん反り返って、会合の開始を待ち詫びていた。



 彼らの机上には、ワインの入った瓶とパンを詰んだバケット、そしてPCキーボードの形を模した端末機械が、各々に用意されている。




「おい! ヴィットーリオ! お前こんだけの人数に待ちぼうけ喰らわすとは何事だ! あぁ? 俺はァ覚えてるぜ!!


 この前、お前みたいに堂々と会合に遅れた奴を、四股引き裂いてタル詰めにしてただろ!!」




 到着して早々、前方中央の席から、一人の男が彼に怒声を浴びせる。



 年齢50歳前後と思われる男は、顔面を縫い傷の跡と無数の皺で覆い尽くし、まるで絵画に描かれた悪魔のような、誰の目から見ても醜く(おぞ)ましい形相をしていた。




「……ヴェルニーニか。俺はちゃんと時間丁度に入室したぞ? 諸君が当然のごとく席に着いた前提でなァ!


 無論この時刻より後にノコノコ入ってきやがるクソ野郎は、前回と同様、見せしめに仕置きする予定だったが……!?」




 フランコは、男の顔力に負けぬ冷徹な眼差しで、彼にぴしゃりと言い返した。




「ケッ! 大国の支配者気取りがよォ……!『血の掟』だか何だかで、俺達の喧嘩に歯止めをかけられちまったが、俺は未だにお前なんぞと仲良くなれる気がしねぇや……!」




「……何とでも言え!『血の掟』ってのは、あくまでシチリアの発展と繁栄を促すための休戦協定だ!


 別にファミリー同士が仲良しごっこするためじゃねぇ! ただ問題を起こさなきゃそれで良い。


 起こしたら処刑するだけだ! そうだろ? 〈ヴェルニーニ=ファミリー〉統領、マッツィーニ・ドゥ=ヴェルニーニ!」




 頭領マッツィーニと呼ばれたその男は、フランコの攻めるような物言いに対し、怒りの形相こそ変えなかったが、反論ができずにその場で黙り込んでしまった。



 フランコは、そんな彼の様子を3秒間だけ見つめるなり、すぐに目を逸らして、ホール内全体の席に注意を向けるよう大声を上げる。




「お喋りはここまでだ! 会合の本題に移るぞ!」




 その一言に、着席していたマフィアの統領達は、待っていたと言わんばかりに姿勢を正して、一同にこちらを注目する。





「……しかし、こちとらァ未だに信じられねぇ話だぜ?麻薬や女を売り裁いた財産を引き換えに何を買い取るのかと聞けば、核兵器を越える威力の『人体兵器』と聞かされたもんだ!」





 マフィアの若頭と思わしき者が、口火を切って会合の趣旨に触れた。



 これをきっかけに、会議の進行と趣旨の解明を催促するような声が、会議ホール内の至る席から上がり始める。




「まるで空想科学の話だよなァ! そんな代物、ガキの頃の歴史の教科書でも読んだことねぇぞ?」




「そりゃ信じられねぇのも無理はないだろうぜ。何せ歴史の闇に葬られた禁断の遺物らしいからよォ!」




「あァ? 嘆かわしいぜ! そんな都市伝説やらのために、わざわざ自治国を挙げてこんな大規模会合を開いたってのか?」




 実を言うと、この場に集められた者達に告知されたは、議題の大まかな内容だけだ__


 彼等はシチリアの情報網を掌握する闇社会の上流人ではあったが、肝心な取引の代物に関する詳細情報は、全く得られていなかった。


 『人体兵器』という前情報は機密であったが、企画時期に油断した幹部が酒に酔って喋ったのか、あらゆる情報屋の間で不確かな噂として前日から広まっていた。



当然のこと、彼らマフィアの権力者が、それを鵜呑みに信じる理由もなかった。



 むしろ、その不確かな噂の真偽を本会合にて確かめることこそが、彼らの目的であるといっても過言ではない。



 それ程に、相手が情報の扱いに慎重なのだろう。


 

 主催であるフランコ本人でさえも、そこは重々理解している。




「お前達! いいから本題に……!」




 と、フランコが苛立ちながら雑談を制止させようした矢先、それを遮るかのように、一人の若い男性らしき者の声が、彼の右隣から唐突に聞こえてきた。




「厳密には、人間兵器というより……『人間』を兵器にする『兵器』なんですよ……?《これ》は………!」



 皆が声のする方へ向いたその先には、度の強い黒渕眼鏡を掛けた若い男の姿があった。



 年齢は大凡26歳前後、学者のように白い白衣を羽織り、ベージュ色のビジネスパンツを履いた彼の服装は、黒スーツを纏ったマフィア達の終結する会議ホール内において、一際目立っていた。




「やぁ! 君の事は、話には聞いていたよ。我らの客人だ!」




 フランコは、それまでの冷徹な表情をどこへやったのか、気前の良い笑顔で、彼に握手を求める。




「光栄ですねぇ。私は、アクバル=シャンデリゼと申します。まぁ今回お持ちした『兵器』の、研究員かつ営業担当とでも思って頂きましょうか……?」




 アクバルと名乗った男もまた、愛想を合わせて彼の右手に応じた。


 そして、何気なく中央の席に目線をやり、まるでアイコンタクトを取るかのように、頭領マッツィーニの方へそれを合わせる。



 一方、彼は気づきはしたが、それに対しては鹿十しかとをした。




「さて……と!時間も推していますので、早速本題に入らせて頂きたいのですが、まずは現物を見て頂きたい………!」




 アクバルは、目線を全体に切り替えてそう言うと、最前席と演説台の間のスペースに置かれた巨大な荷物に、注目をするよう促した。物は、麻布で作られたシーツで覆われていたが、彼は直ぐ様それを剥ぎ取った。



すると、そこから現れた姿に、誰もが目を疑った。




「……何だこりゃ?……人間用のカプセルか……?」




 頭領達の目に飛び込んできたそれは、縦長1.2m、横長3.0m位と、人間一人を収容するがために造られたような、大型のカプセル装置らしき機械であった。



 その外見を例えるならば、旧暦時代に使用された医療機器『酸素カプセル』や、同時代のSF映画に描かれていた冬眠装置『コールドスリープ』あたりが相応しいだろう。




「世界を崩壊させた兵器と聞いたが……この医療カプセルみてぇなのがそうなのか? 中に誰か入ってんのかよ?」




「馬鹿、人体兵器って聞いただろ? 中に人間が入ってんだよ! それも生物兵器と化した人間がなぁ!」




「オイオイ! そりゃ大層趣味のいいこったなァ! まぁいいじゃねぇか、かつての核兵器を脅かした位の代物だ! 持っておけば、俺達は世界の支配者だぜ?」




 目の前のそれに全く知識の無いマフィア達は、それを目の当たりにするなり、自分等に都合の良いた財宝だと思い込み、各々の妄想を展開させて有頂天になる。



 科学者アクバルは、そんな彼らの姿をが滑稽に映ったのか、薄ら笑いを浮かべ、白衣裏の右ポケットからペンライトのような大きさの作動リモコンを取り出し、傍らのカプセルの装置に差し向けながら言った。





「残念ながら何も入っていませんよ~? ちなみにウイルス兵器なんかでもない……! これは、貴殿方が御存知のような既存の兵器とは全く別次元のモノだ!」




カプセル装置の蓋は機械音の一つも発せず、静かにゆっくりと開く。




 やはり彼の言葉の通り、鉄製品や生体どころか、塵さえもそこに在る気配はなかった。





「あ……? じゃあ一体何だってんだこれは……映画のセットならハリウッドにでも売り込めってんだ!!」




「それ以前にだな……! 今日の会合は兵器の輸入をする筈だったろう? ミサイルの一機でも持ち込んだらどうだ?」




「全くだぜ! 俺達が欲しいのは軍事力だ! 兵器だ! そうじゃなきゃこの大会議にわざわざ出向いた意味がねぇ!」





 会議ホールに集められたマフィアの頭領達は、「話が違うではないか」と一斉にアクバルに向けて顰蹙ひんしゅくを浴びせる。



 室内の片隅で様子を見ていた主宰のフランコは、議会の進行を妨害する彼らの罵倒を制止させようとしたが、瞬時にそれを躊躇った。



 何故だか、非難が集中するアクバル本人は、依然として涼しげな顔を見せていたのだ。



 顔を真っ赤にする統領達を宥めることなく、彼は右手に握っていたリモコンを、今度は客席に差し向ける。





「どうぞ? 全ては口で説明するより、実際に見てもらった方が早い!」




そう言って、そのスイッチを入れると、統領達の各席に配置されていた端末が起動され、その机には「空間投影型の液晶ディスプレイ」が表示された。



 近代型の空間液晶モニターは、この《再歴》時代では、すでに所持して当たり前となっている機種ではあり、誰もがその姿や現象を見慣れていた。



しかし、そのディスプレイに書かれていた文章の一語一句には、この時代でさえも、決して見慣れる筈のないキーワードが、数多く存在していた。



 -----“ナノマシン型”人体移植(じんたいいしょく)兵器《通称ギルソード》の一時保管・人体移植用カプセル。通称 : 《超兵器の聖母体(ギルソードマザー)》----------





「《超兵器の聖母体(ギルソードマザー)》……!?

一体どういうことだ……!! コイツはァ!?」




「人体移植兵器……って何だ……!? まさかとは思うが……これは……!?」




 不可解極まりない呪文のような単語に、会議ホールに集う者全員が混乱のあまりに身を硬直させた。



 だが、そこに綴られた文章を再度読み替えすと、事前に聞かされた情報の記憶が、見事にそれ等とリンクしている。



 そして、願わくば間違いであると願った悪い予感が、各々の脳裏を過った。



 科学者アクバルは、彼らのその反応を心待ちにしていたと言わんばかりに、欲が満たされたような薄ら笑みを浮かべて、彼らの聞きたくないその台詞を言い放った。





「え〜♪ 今から皆様にご紹介しますのは、これまでの機関銃(マシンガン)や銃剣といった、鋼鉄製で造られた既存兵器の概念を、大きく覆す代物です!


 その名は、新科学怪機:《ギルソード》__!


 既存品の構成物質が鋼鉄や特殊合金だったのに対し、この兵器の構成繊維は《“ナノマシン”》という『粒子型ナノコンピュータ』なのですよ!


 非使用時には、こうして細かく細粒化して、人体の皮膚に取り憑き、姿を隠しているが__!


 いざ使用時には! ご主人の意思と各部位の運動神経が同調し、粒子は結合してその姿を表す……てね! 



 __そして! この場にあるカプセルは、その《人体兵器の母体》なのさ!



 聖なる子宮の中で、《ナノマシン》という名の羊水と胎盤から《ギルソード》という『神聖なる能力ちから』がその身に授けられる!



 《ギルソード使い》の子宮ってワケだ__!



 まぁ全て『百聞は一見に敷かず』ってヤツだよ!

 


 今からこの子宮の中で、人体兵器《ギルソード使い》としての新たな『誕生』を迎えるのは、そこに座っている貴殿方だ__!!


 さぁ……! 今から誰か1人! この《超兵器生母体ギルソードマザー》の実験台に……いや違う!!



 その身を捧げて、貴方達が《人体兵器》となって下さい__!!」





 彼の放った言葉は、会議ホール一体に震撼をもたらした。




◆◆◆◆◆






 マフィア達の大会合が開始されて間もない刻、2階会議ホール裏の廊下には、一人の若者の話し声だけが、静かにこだましていた。




「親父達はすっかり有頂天だ! 全く優秀なビジネスパートナーに巡り会えるのは気分がいいな……!


 おかげで今日という日は、シチリアの歴史的な記念日になりそうだぜ……!」

 



 頭領マッツィーニの息子ローツェ・ドゥ=ヴェルニーニは、握った薄型スマートフォンを片手に、何者かと会話をしていた。




『それは光栄なことだ。贈り物と人材は大事に扱ってくれたまえ。僕達の貴重な財産だよ……!』




 通話の相手はボイスチェンジャーで音声を加工しており、受話器からは呪いを掛けられたかのような化け物の声が垂れ流されている。




『間もなく、貴方の計画に邪魔が入る頃合いだよ。


 ソイツは丁度、君達のファミリーが管轄するクルーズ客船に乗っていたが、残念ながら轟沈してしまったらしい。痛々しい話だよねぇ……!


 だが手はある! こちらの私兵も数人派遣させよう。彼らをどう使うかは、君次第だ__!』




「エラく俺を軽んじるようなこと言うじゃねぇの?

せめて情報操作くらいは協力してくれよ!

そういうのは、お前らの十八番おはこだろ?」





『最低限の協力ならさせてもらうさ……! 武運長久と良い報告を祈っているよ。若き革命児君__!?』





 その言葉を最後に、携帯のスピーカーから呪いの不協和音が途絶えた。



ローツェは、胸の内の高揚を抑えるようにほくそ笑み、薄型スマートフォンをその場で投げ捨て、静かに廊下を立ち去った。





「《ギルソード》ねぇ……ククッ……! コイツは神様からの最高のプレゼントじゃねぇかよ!


 この喜び、せめてアイツへの手向けとして……最期に華々しい偉業の自慢話くらいはしておいてやるか!


 なぁ我が盟友、ロザリア=ヴィットーリオ__!」





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