一章3【西の森のよくは知らない魔女っ子ちゃん】
「しっかし、本当に茶菓子が振舞われるとは思わなかったよ。こういうのってどうやって買ってるんだ?」
「えーっとね、だいたいはネットでかなあー。週一で宅配されてくるの。街からねえー」
そういや、ネット繋がってるんだもんな。てか、俺のより高そうなデスクトップ使ってるし……。
「その街ってのはどこなんだ?」
友達ん家みたいにバリッと硬いラスクをボロボロ頬張りながら喋る。
「ああ、もう! 他所ん家だからってこぼさないでよう。掃除するのは私なんだからあ!」
「魔法でささっと片付けちまえばいいだろう」
「そんなことでMPを消費したくないの! もう! わかってよねえ。それでねえ、街ってのはエルフの街のこと!」
「エルフだと? 近いのか?」
ケーキ、ウマウマ。
「うーん、まあまあかな。歩きだと疲れるから、私は行かないけどおー。って! 私のイチゴ取らないでよう!」
「ふうん。しかし話は変わるが君、パティシエになれるぞ。めちゃくちゃ美味いじゃないか。魔女なんて野暮な仕事辞めて、ケーキ屋でも開いた方が性に合ってるんじゃないのか?」
「えー、でもそういう家系っていうかー、私の代でえ、途切れさせちゃうのはやっぱりアレだしぃー、お父さんもガッカリさせちゃうと思うしぃー」
「魔女も大変なんだな」
「そうなのお。わかるうー? この前も旅人に老化の魔法かけられて、もう最悪! 一度体験するとねえ、おばあちゃんの大変さが身に染みてわかるっていうかー、狭い路地でゆっくり歩いてても許しちゃうっていうかー、席も自然と譲っちゃうていうかー」
「ふむふむ」
この変な色した甘いの……超美味い。
「魔女さん! これ本当美味しいよう!」
「えへへー、ありがと!」
あいも、ゆるりもてんで料理はダメだからな。旅先で一人暮らしマイスターの俺が作る羽目になっている。この状況、どうにかならないものか。
「てか質問攻めマジぱないんですけどおー。私も攻めちゃっていいですかあー?」
「え? ああ、構わない。好きに聞いてくれ。主にゆるりが答えてくれるだろう」
その間俺は、テレビでも観ながらゴロゴロしていよう。
「バイバーイ! また来てねー! ゆるりちゃん! 魔法のお話し沢山しようねー!」
「うん! とっても楽しかったよう! 魔女さん。バイバーイ!」
えらく仲良くなってやがるなこの二人。まあ似た者同士ってやつか。その分だが、あいの奴は終始ブスくれていやがるが。
「大丈夫か?」
「何も駄目な所などない! 大きなお世話だ! 放って置いてくれ! 引きこもりのくせに生意気……!」
親切心からポロリと出た気遣いの一言で、えらい言われようだな……。
「それよりもいいのか。魔女の奴を仲間に加えなくても……」
「何でだ?」
「何でだとは随分だな。だって君は、ハーレムゴッコをご所望だろう? 願ったり叶ったりじゃないか。あの女は見かけはお馬鹿、頭脳はおばばだが、魔法も使えるし、料理もできるし、ゆるりにも似ているし、言う所はないんじゃないか?」
「……ゆるりは関係ねえだろ」
確かにコックがいたら非常に助かりそうではあるが、だ、こいつがこの調子だと二三日もしないうちに大喧嘩が起こるのは必須だ。
仮にスカウトに成功したとしても、「今からこの四人で殺人ゲームを始めてもらいます」「え、ええー!」よろしく、なぜか理不尽な矛先は俺に向かい、一方的にジェノサイドされる姿が目に浮かんでくるじゃねえか。
人の命は一度限り。やり直しはきかんのだよ。残機なんて元から一つしかないのだよ。だから残念ではあるが、ここでジャンプでミスって穴に落ちるリスクは犯せない。
仲間にしますか? →(残念だけど)いいえ
「よく分からんが俺はな。ハーレムなんてものに興味はない! 魔王を倒しに行くって決めちまったんだ! 無理矢理ではあったがせっかく外に出たんだし、心機一転! 本当の勇者って奴になってやるんだよ!」
「お、おう……えらいモチベーションの高さじゃないか。頭大丈夫か? 自己啓発書にでも触発されたのか? 序盤からそんなハイテンションじゃ、もたんぞ?」
「わかるか? 俺はな、もっと皆からチヤホヤされたいんだよ! 中心人物にクラスチェンジしたいんだよ!」
「そ、そうか……。まあ、旅はうるさくない方が私は良いし……三人のままで良いんだけどな」