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「はあ……」

 鬱だ。満天の曇り空の下、所々剥げ落ちた公園のベンチに座っていると、余計に気が滅入ってくる。休みなのに楽しくない、何もする事がないのに楽しくない、いつ頃からだろうかそんな状態に陥りはじめたのは。


「「たかし! そっちに行っちゃいけません! 危険よ!」」


 露骨に嫌な顔すんなよ、ママさんよお……。それに危険ってなんだよ、危険って。俺は断崖絶壁の落ちる所ですかってーの。

 公園ってのはなあー、子供が遊んだり、カップルがイチャついたり、ママさんが見栄を張ったりする場所、だけじゃないんだぜえ? 営業でノルマが達成できず疲れ果てたリーマンやら、いつお迎えが来てもおかしくないメッチャ低速の老人やら、就職もしていないのに既に定年後みたいな生活を送っている無為無策の俺がいるんだ。十人十色なんだ。いろんな意味で。


「はあ……」

 ため息だけが俺の友達。悪友=ため息。

 ママさんに軽く睨まれつつ、で、何で俺がこんなことになってしまったのか? 少しだけそのワケを話そうと思う。おう、どうせ暇だしな。

 というのも俺は、大学に通うために中高と親の転勤を経て久々に、生まれ故郷の地――東京に戻ってきたんだ。

 本来ならその鬱屈した思いを爆発させるがごとく、きらびやかな地で学生最後の青春ライフを満喫するはずなんだけど、ここ二週間ばかり俺は部屋にいた。深夜を除いて六畳一間から一歩も外出していなかった。

 別に病気とかじゃないんだぜ。(いやまあ、ある意味病気なんだけど……)そう。つまり世間で言うところの引きこもりに陥ってしまったんだ。

 まあ、そのうち話す機会もあると思うが、中高とその傾向が無かったわけじゃない。でも、何とか、今じゃ信じられない話だけど朝7:00に起床し、週5日もチャリンコ漕いで通っていた。スゲーよな。遅刻も休みも大分あったけど、皆勤賞ものだぜっ! 今じゃあ9:00の一限なんてもってのほかっていうか、二限も遅刻するし、午後一の三限も布団の中というか、最悪行ってないし。多分、反動が来ちまったんだな。この親元から離れた自由の地を良いことに。


「はあ……これからどうすっかな……」

 これ言うの最近のマイブームなんだよね。だって、何かが起きるフラグみたいじゃん。ま、何も起きないんだけどさ。

「帰るか……」

 重い腰を上げて、ベンチに鳥の糞が落ちていたことに気づき、さらに若干気分が滅入った時だった。


「よお、久しぶり!」

 誰だテメエは。気軽に話しかけてんじゃねえよ。

「え、あ……あ、お、おおなんだドラゴンか」

「やめろよ、そのあだ名……でもよく覚えてたな」

 テニスクラブでドラゴンスマッシュ! 云々いう決め技を決めていた、友人の竜ではないか。


「いつ以来だ、こうやって話すのは?」

「え? ああ……え、えっと、小学校卒業以来じゃないか、多分……」

「そっかー、卒業以来か。懐かしいなー。ていうか中々元気そうじゃないか」

「目、腐ってるのか? 魚の腐ったような目してる俺が言うのもアレだが……」

「悪い、どうやら大学に入ってから視力が落ちたようだ」

 気持ち良さそうに眉間をマッサージするな。

「お前」

「へ?」

「ケツにウンコついてるぞ」

「え? あ……ああ、知ってる。知ってる。ソフトクリームと思ってミスって座っちまったんだ。悪いが取ってくれ」

「嫌だから……。自分で取れよ……。てかソフトクリームなら座るんかいな」

「自分だけ三食食うのは悪いじゃないか。ケツにもさ、たまには餌をやろうと思ってな。ドラゴンも試してみるといいぞ」

「そ、そうか……。だからか、お前のケツってやたらそういう人に狙われやすいのは」

「しまった。それが原因だったのか」

「おそらくはな」


 神でも救い用が無い、どうしようもない馬鹿話をしていたんだけど、モジモジとドラゴンの背後から美人が現れたやがった。テメエは背中で何飼ってんだっつーの。遂にヤマタノオロチ出現ってか?

「こ、こんにちは……」

「え、あ、ここここ、こんにちは……」

「ココココって、ニワトリかよ。紹介する、俺の彼女のミーちゃんだ!」


 ミーっちゃんて猫かよ!


「はじめまして。ミーです……。よろしくお願いします」

 名前はアレだか、しかし可憐だ。ドラゴンと歩いていたらまるで、美女とゴリラじゃないか。

「……今凄く失礼なこと考えたろ? 顔に出てるぞ」

「妹か?」

「彼女」

「姉さんか?」

「あ? 彼女だって」

「まさか、お母さん……か? お前にそういう趣味があるなんて知らなかった……。まあ、そういうのも人それぞれだからな。別段俺は何も言わないが、しかし一般的にどうなんだろうか」

「だーかーら、彼女だっつーの! 現実逃避をするな!」

「ふふっ、○さんって面白いですね」

「そ、そうですかね……? ファンタースティックってヤツでしょうか?」

「……お前、うぜーな」

「ウザイウザイも好きのうち!」

「ええ、とってもユニークだと思いますよ」

「こいつ昔からこうなんだよ。一言で言うなら変な奴なんだ」

「変とは失礼だな。異端と呼んでくれ」

「異端っていうか、単に変なんだよ。変わってんだよ」

「へえー、そうなんだあー」

「なあ? 頭がおかしいんだよ。イカレテるっつーか。馬鹿というか、死んで欲しいというか」


 イチャコラ、イチャコラ。

 イチャコラ、イチャイチャ。


「……」

 シュン。気分は隅の方で体育座りだぜ(斜線とか掛かっちゃってる?)

「ああ、そうだ。○。ゆるりちゃんから聞いたぞ。お前、引きこもってるそうじゃないか」

「……ま、まあ」

「大学、行ってないんだろ? 毎日部屋で何してるんだ?」

「……何ってわけじゃないが、しいて言うなら、飯食って寝て、うんこをしている」

「うんこって……それじゃあ赤ん坊とやってること変わらないだろ。いや、赤ん坊の方が可愛い分だけマシっつーか。だけどさ、引きこもりでも、公園に出て来られるんなら、そんなに重症って訳でもないのか?」

「……外に出るのは、買い出しで、公園にいたのはそのついでだ……」

「そうか。まあ、無理に人に慣れろとは言わない。少しずつで良いと思うんだ。リハビリだと思って、大学の方にも行ってみると良いんじゃないか? ゆるりちゃんも、それにあいちゃんだっているんだろ?」

「まあ……同じ大学だからな」

「小さい頃からの幼馴染なんだろ? 仲良くやれよ。多分、あいつらは来て欲しいと思ってるぞ」

「……そうか。良かったな」

「他人事かよ。もっと頑張れよ」

「お前は鬱のカウンセラーにはなれそうにないな」

「ならねーよ。けど、皮肉なもんだよな。ほとんどの能力はレベルアップしたってのに、コミュ力だけはだだ下がりってのは」

「言うなよ。お前はコミュ力も性格も変わらねーよな」

「おいおい、それは褒めてるのか?」

 あたりめーだろ。可愛い彼女まで手に入れやがって。どこのどいつだ、「俺、大魔法使いになるわ」とか中二病みたいな顔してほざいていやがったのは。小6が中二病って意味わかんねえよ。


「……クソ!」

「そうカリカリすんなって。おい、そこ鳥の糞」

「あ、ミスった」

 クソ! 無意識に座っちまったじゃねーか。クソ……。


 ムシャクシャして手で払っていると、ミーちゃんとやらが両手で俺の手(もちろん払ったのとは逆の手)をガシッと握ってきやがった。

「ひええ!」

「大丈夫、逃げないで下さい。頑張りましょうよ! きっと○さんなら、上手く行きます! 私はそう思います! そう思い込みます!」

「ど、どうも……」

 その通り、きっと思い込みだと思います。


「良かったな、○。ミーちゃんの予言って当たるんだよ。きっとお前は上手くいく! 俺もそう思う!」

 お前って本当、ポジティブ良い奴だよな。ポジティブって俺みたいなネガティブ野郎からするとたまにムカつくんだけど、お前は別だ。だから……少し心配になるじゃないか。


「なあ、もしかして壺とか買わされてないよな……?」

「は? 何だ壺って。言っておくが、ミーちゃんは良いとこ出の、御令嬢なんだからな。あんまわけのわからねえことぬかすなよ」

「そ、そうなのか……? なら、良いんだが」

 逆玉ってヤツか。ドラゴンのくせに上手くやりやがって、こんちくしょう。

「まあ……そうだな。結婚式には呼んでくれ。大したご祝儀はやれんが、残さず食べる事ぐらい今の俺にだってできる」

「なんだ、引きこもってんのに、そんな人の多い所に来られるのか?」

「馬鹿にするなよ。友人としてそれぐらい、当然だ」

「どうだかな。ま、お前も引きこもってさえいなけりゃ、結構色々と上手く回ると思うんだけどな」


「どういう意味だ、それは?」


「ちゃんとこもり病、脱出したらいずれわかる事だよ。バーカ」


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