一章1【西の森のよくは知らない魔女っ子ちゃん】
「どこなんだここは? やたら森深くまで来ちまったぞ……」
マイナスイオン効果ってのを存分に感じられそうじゃないか。巷じゃ偽物も多いそうだが、紛れもなくここはモノホンだな! ヤッター!
「まずいな。迷った」
「そんなことは知ってんだよ。お前が地図を逆さまから読んだり、ゆるりに方位磁石を貸し与え、挙句、磁石を近づけさせて遊ばせてる時からな!」
「○君……」
おやおや、不安そうに袖なんて引っ張っちゃって……悪くない。
「大丈夫だ、ゆるり。冒険で迷子になって餓死するなんて話、俺は聞いたことがない」
「でも、それは○君の大好きなゲームの中の話でしょ……?」
「むむ、それはそうだが……」
「現実の旅にもな、君の大好きなゲームにも勝るとも劣らない良いところがある」
「……頼むからそんなに君の好きなと強調しないでくれ。何だか田舎の婆ちゃんを思い出す」
「これ、○が大好きだったろう。沢山お食べ」
「いや、もうお腹一杯なんだけど……てか、そんなに好きじゃないというか……」
「ええ? 何か言ったかい? 婆ちゃん最近耳が遠くてねえー」
知ってるよ。何千キロも離れた場所に置き忘れてきちまったんだろ? いつも叔父さんが冗談で言ってたよ。
「ううん、何でもない。すごく美味しいよ」
婆ちゃん……。どうしてしょっちゅう物忘れするくせに、俺がポロリと言った言葉を憶えているんだい? 甘い物は別腹みたいに、保存先とか違ってたりするんかい?
ああ、元気でやってるかな……もう何年も会ってねえや。次は葬……
「(泣)」
「だ、大丈夫ー? ○君のお婆ちゃんの御参……」
「ゆるり。それ以上は言わないでくれ。定番だし、おそらく誰かが言うとは思っていたが、お前の場合、天然だからマジになっちまうんだ。大丈夫。ババアは餅を喉に詰まらせたってそう簡単に死にやしねえ」
「○君、毒舌……!」
「へへっ」
「話の途中だったんだが、戻してもいいか?」
「ああ、で、何だって?」
自販機の下に小銭を落とした時みたいに、唇を噛み締めるんじゃねーよ。
「私を無視するな……。現実の場合、そう都合良く歩く度に敵が出て来たりしないということだ。まして、ターン制で攻撃を繰り返すなんてあり得ない。それがメリット。一方、デメリットもある。敵を倒したからといって、目に見えて経験値が上がるわけでも、モンスターが都合よく金や道具を落とすなんてことはありえない。つまり、敵に遭遇することは稀であることを考えると、先ほどの猟師殿のような人間トラブルの方が面倒くさい。私は嫌なんだ、余計な人間トラブルというものは」
「それは同感だ。珍しく息が合うじゃないか」
思わずポンと肩に手を乗せて睨まれるかと思ったけど、そんなに嫌がられなかった。
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