プロローグ2【どうして俺を外に出す!?】
「というわけで、間もなく森に入る。ゆるり、虫除けスプレーとやらを出しては貰えないだろうか?」
「はーい!」
「準備がいいな、お前は。あいかわらず見かけによらず」
遠足とか、ピクニックとか、修学旅行とか、トボけた感じのゆるりのくせに、こいつはいつも準備がいい。人の忘れそうな物まで常備薬みたいに揃えていたりする。
「ありがと! でも見かけによらずは余計だよ? ○君」
でも、忘れ物にはたまに厳しい。
「や、やめろー……! 何やってんだお前……! 俺の弱虫ハートが駆除されちまう……!」
顔面にシューする奴があるか! 猟奇キャラ担当は君じゃなくて、あいの方だろう!
「ハハッ少し駆除された方がいいんじゃないか? 一匹いると、百匹いるって言うぐらいだしな。ゆるり、ちゃんと全身にもかけてやれ」
それは忌み嫌われる、黒光りしたGさんの話だろう!
「俺にそんな生命力はない!」
「うん!」
うん! ってなんの「うん!」だ? 「はい!」って言って、また宿題忘れてきたりするヤツじゃねえか!
「や、やめろ……」
「冗談だ。ゆるりほどほどにしておいてやれ。代わりに私の腕にも頼む」
「了解!」
本当無駄に元気だな……お前は。大佐さんも思わず頷く素晴らしい敬礼じゃん。
「森の冒険ってのはな、虫との戦いでもあるんだ」
「……虫ってのはやっぱり弱虫のことか?」
「それは君の心に巣食う魔物のことだろう。虫ってのはあそこにやたら固まっている羽虫や、あそこを飛んでいる趣味の悪い婆さんの服のような虫のことだ」
ひいい! こっちに飛んできた……。
「それに毒を持つ虫や、明らかに触りたくない地面を這う虫もわんさかといる」
足、何本あるんだっつーの……何か俺、食欲なくなってきたよ、母さん……。
「……なあ、ご教授してくれるのはありがたいんだが、別の話にしないか?」
食欲がないと、「あんた友達ん家で食べてきたわね! 明日のおやつは抜き!」されちまうからよ……。
「えー、私、昆虫は大好きだよー?」
はい、ゆるりさん。ピョコンと触覚の付いたヤバそうな色の虫ツンツンしない。
「えへへ……えへへ……」
大丈夫かよ、この女……。寒い地方の人がGさん珍しくて飼っちゃうタイプ?
「ん?」
「何だ……?」
「いや……誰かの視線を感じたような、気のせいか?」
いや、気のせいじゃねえから。メッチャ木々ガサガサ揺れてんじゃん……。
「どうやら、お客様のようだな」
ガチャン? って……
「うわあ!」
散弾銃!? なんでお前はそんなの所持しちゃってんだよ。ガサガサと木陰が揺れる前に、ガタガタと俺の膝が震えちゃってるから!
「お前……免許とか持ってたっけ……?」
「きたか」
都合悪いからって、無視するなよ! 食事中に不倫相談みたいな番組が流れて、過去の過ちを詰め寄られるお父さんかよ! 子供ながらに気まずくて食が進まんわっ!
「グルル……」
おいおい、まるでアニメ絵みたいなデフォルメされた凶暴な何者かが突進してきてるじゃねえか……。完全に目血走っているじゃねーか。
「寝不足なんだねえ~」
違げーよ! 侵入者にブチ切れてるんだよ奴は!
しかし、ズドーンと一発、間もなくその何者かは華麗に吹き飛ばされた。(さすが文明の利器! 余裕ッスね!)
「ふう。一丁完了だ」
いや、銃口から煙とか出てねえから。(ま、俺も戦闘前に余裕ぶっこいてナイフ舌なめずりするアレやってみたいけど……)てか、ちゃんと相手確認してからお前は引き金を引いたんだよな……?
近くに行ってみると、
ただの鹿でした(自主規制によりお見せすることはできません)
多分、天然記念なんとかの類いじゃないとは思います、はい……。あえて図鑑で確認したりはしませんが……。
「危機を救ってくれてありがとう……。で、改めて聞くが何でお前はそんな物を持っているんだ? 超危ないじゃねーか」
「ショットガンのことか? 武器が無くてどうやって冒険をする?」
「もう、ズルいよ。あいちゃん! 私、剣しか持っていないのに!」
「えっ?」
何だって? その鋭利で、振ったらスパッといきそうなヤツは……。
「私もあいちゃんの、それがいい!」
「やめろ、ゆるり。また変態が私たちの仲を勘違いする」
しねーよ! いや……するかも。って今はそんな事はどうだっていい!
「なんでお前もそんなヤバそうな武器持ってんだよ! よこせよこせ……ひい!」
今の見ました? 二人を生暖かく見守っていた俺の眼前を、スルリと鋭利な刃が横切って行ったんだぜ?
「ちゃんと鞘に収めないと駄目じゃないか。パーティーから死人が出るぞ」
「でも……」
「ひい!」
いやもう、某SF映画ばりのマトリックスで辛うじて避けたよ。鼻先が持ってかれそうになって恐怖だったよ。
「ぜはあ……ぜはあ……。ぼ、没収だ……没収! 教室でゲーム機を見つけた先生みたいに没収だ! 聞いたことないぞ。誤って仲間に大ダメージなんて。勘弁してくれ」
声変わりして間もない少年のように声裏返る中、俺はゆるりから剣を奪い取った。ま、後で職員室じゃなくて……適時使うんすけど。
「ああ! 私のなのに! 返してよう!」
「ほーら、高い高いー。お前じゃ危なっかしくて、いずれ死人がでる。自爆はライフが残り少ない時に敵に向けてやってくれ」
「もう、本当○君はわがまま! ぷん!」
某アイドルかっての。
「だいたいなんで、お前ら二人がやたら物騒な武器を持っていて、俺だけ手ぶらなんだ? ヒノキボウでも使えってか? ヒノキ棒って落ちてる枝を拾うだけだろ?」
「えー、だってー、○くんは魔法使いじゃない。だから、武器なんて必要ないんだよー」
「魔法使いだとう?」
だから、ハロウィンでもないのに、こんなとんがり何とかみたいな帽子を被らされていたのか。
「ええい、これはお前にやる!」
「わわっ!」
そうそう中々似合うじゃないか。
「ジョブチェンジだ。今からお前が魔法使いで、俺が戦士だ。その……」
「そのー?」
「お前は俺を、引きこもりから脱出させてくれた魔法が使えるしな!」
「どーゆーことー?」
絶妙な上目遣いで見つめるな。恥ずいじゃないか……。
「要するに、ヒーリングの魔法が使えるってことだ。回復魔法だ。ベホ何とかとか、キュ何とかだ。役立つぞー!」
「役立つの?」
「ああ。少なくともこんな刀振り回して俺を脅かすよりはな。第一、魔法使いはどう考えたって俺の柄じゃない。この中だとやっぱりゆるりが適任だろうよ」
「えへへ……そうかなあ?」
なんだ満更でもなさそうじゃないか。
「私じゃ……だめなのか?」
どうしてこう変なタイミングで落ち込んだ顔をするんだよ、お前は。
「少なくともショットガンをぶっ放すような女に魔法は必要ないだろ。お前の性格にマッチしているであろう、現代武器で我慢してくれ」
「蜂の巣にされたいか? 全く……。ただ冒険だと、銃が弱いってのが定番なのだが……」
「らしくないな。ゲームみたいにダメージ制じゃあるまいし、生身の人間にそれは当てはまらないだろ。おそらくそんなんで撃たれたら一撃必殺も同然だ」
「ならいいが」
「「おい! 誰だ、こんな近郊の森で銃をぶっ放した奴は! さては、狩猟協会の者じゃないな……野良か……そうか野良なんだな!」」
「ヤベッ! 何か言ってるぞ。釣りみたいに小銭払えば許してくれるかな?」
「無理だろ。とりあえず逃げるぞ」
散々あいが、空砲を放ちながら生態系と猟師を脅しつつ、俺たちは逃げ出したわけで……
逃げますか? はい→→→→成功!(無意味にボタンを連打したりしなかったり)