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四章3【そびえ立つ、それは――ドラギア山脈!】


 テイク21

 ここいらで初めて後ろから人がやって来た。その連中は何度かここを通ったことがある風情で、攻略本よろしくご教授願えることを期待していたんだけど、実際は大変不遜な輩で、


「知りたいなら女を一人寄越しな。ムホホホ」


 などと言ってきやがったのだ。


 殺す! 斬殺! 斬り捨て御免するっ! 大切なパーティーをお前らみたいな脳筋ガチムチ野郎に売れるわけねーだろ、ボケェ!


 さすがの俺もそうカチンと来たわけで、どう料理してやろうかと心の中で息巻いていたんだけど、


「何か言ったか? さっさと決めやがれ、ボケ」


 相手を見る限り明らかに、こちらの分が悪いというか余裕でフルボッコにされそうな勢い。


「……なら、必要ない」


 だからなるべくクールに波風を立てないように返答したさ。 (同性に冷たい人っているよねえ……)


 嘲りながらではあるものの彼らが立ち去ってくれて本当に良かった……。後、こっそり奴らのゲームを観察することが出来て良かった……。 (ゲーセンの待ちかっ!)

 俺は戦うために冒険をしているのではないのだからな!



「どうして差し出さなかった? ゆるりならともかく私なら別に構わなかっただろうに」

「いいわけねーだろ! タコがっ」


 一瞬、お前がメチャクチャにされる姿を想像しちまったじゃねーかよ。しかも何か、悪くない……とか思っちゃったじゃねーかよ。


「タコとは大変失礼な物言いだが、まあ今回は中々見直したと言っておこう」

「カッコよかったよ!」

「そ、そうか……?」


 褒められて嬉しくない人間はこの世に存在しない。叱られて伸びるのか、褒められて伸びるのか? という不毛な議論があるが、そんなの褒められて伸びるに決まってるだろおおおお!



 テイク30(はい! カッッット!)

 そうこう段取りが悪く、リーダー不在の学級会のように個々人の連携が上手く取れなかったため、文化祭の演し物が結局定番のお化け屋敷に決まるがごとく、クリアした頃にはすっかり外は暗くなってしまっていた。


「とりあえず今日中にクリア出来て良かったぜえ……」

 パズル第二弾とか用意されてたらマジで萎えてたわ……。


「こんな時間だ。このままトンネルで野宿するしかなさそうだな」

「仕方ねえけど、そうだな」

「ええー! 野宿ーー!?」


 言葉だけなら不満そうに聞こえるが、そのキラキラした目の輝きと、ワクワクした表情は何なんだよ。徹夜明けのテンションかってーの。


 俺は適当にシートを広げ、無造作に寝袋を三つ置いた。


「いいか、ゆるり。これはキャンプじゃないんだからな。だからキャンプファイヤーもやらんし、輪になって怪談とかもしないぞ」

「えー、そんなー! 楽しみにしてたのにー……。○君、学校の先生みたい」


 行きは寄ってくれると言ったのに、帰りはもう遅いからと寄ってくれなかった、お母さんとの買い物みたいな不満げな顔を浮かべるな!


「というわけで先生は眠い。朦朧としていて、もうロクに考えもまとまらん。どうしてもやりたいんなら、あい先生と二人でやってくれ」


 保護者 (モンスターペアレンツ気アリ)に頼むぞと言い残し、俺は寝袋に入って半ば閉じ掛けていた目を完全に下ろした。


 ……Zzz(グゴキゴ……ブホッ!)……。

 …………Zzzウヘヘ……



 疲れて小学生並みに早く寝ちまったせいか、起きた時外はまだ真っ暗だった。

 こんな年寄りタイムに目が覚めるなんていつ以来だよ……。引きこもってた頃なら、今ぐらいに寝るのがザラだったんだけどなあー。奇しくも、なんてまっとう人間みたいな生活送ってるんだよ。先が思いやられるぜ。

 生活を変えるのって疲れるし、何だか嫌なんだよなあ。いつかこんなラジオ体操のハンコ貰えそうな生活にも慣れる日が来るんだろうか?

 この俺でも。


「○、君……」

「ん?」


 ゆるりか? いや、ゆるり……じゃない。あいか。寄り掛かかるんじゃねえよ。


「重いぞ」

「私で我慢しろ」

「は?」

「私で我慢しろと言ってるんだ。……馬鹿者め」

「……」

 なに寝言言ってんだ馬鹿者め。


 そうだ! 起きている時ならまず出来ないよねえー、頬を試しにツンツンしてみる事にした。


「柔らか」

 大福餅かっつーの。やたらフニフニさせやがって。


 よーし、今度は両手で引っ張っちゃうぞー!


「……んん」


 おお、鈴木さんの切り餅みたいに良く伸びるな! ビヨーン、ビヨーン! と。


 そんな時だったさ。サラアサラアと都合よくトンネル内に心地良い風が吹きやがった。


 スハー、クンクン。クンカ。


 てか近くに水辺なんてあったか? あいの髪やたら、シャンプーの甘い香りがするんですけど……。


 スンスン、スハー。


「変態」


 ん? 起きてねーよな? 顔を覗き込んでも目はちゃんと閉じてるもんな? まったく、性格は悪いクセに良い匂いさせやがって。


「ん、んー」


 あ、寝返りうちやがった。でも良いもんねー。こっちの方が目の前に髪があるから吸いやすいもんねー。ラジオ体操終わりの深呼吸みたいに、大きく息を吸い込こんじゃうもんねー! スハ……


「○君!」



「「ぬわあ!」」



「おはよう。なにやってるのかなあ?」


 爺さんみたいにポックリ心臓が止まるかと思ったじゃねーか……。


「あ、ああ……ちょっと朝の体操をな。良いぞー、体操は。気分が綺麗さっぱり爽快になる」

「おお! ○君。いつの間にかそんな体育会系になっていたんだねえー! 超進化系だねえ!」


 いや、そういうわけではないのだが……。身長もすっかり伸びなくなった成体なもので。時たま測り方によっては縮んでいたりするんすよハハ……。


「んん……二人とも早いな。やたら騒がしいから目覚ましいらずだったぞ」

「ごめんねえ、あいちゃん。そしておはよう! イエイ!」

「おはよう、イエイ。○、おっはー」


 おっはー? お前はお前で妙に嬉しそうだな。面白い夢でも見たのか? 普段朝方はローテンションのくせに。


「……おっはー」


 なんだか今日は、何かが起こりそうな気がする。

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