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 ピンポンと乾いたベルの音がした。


 ちっ! また勧誘か? 目覚める系の冊子はいらねーって何度も言ってるだろうが。一瞬出るかどうか逡巡しちまった後、再びPC画面に向かったのだが、


「いるか○? いやいるに決まっているな。だって引きこもりだもの。外にでるはずがない。あい」


 なんだお前か……。てか人の部屋の前で何言ってくれちゃってんだよ。帰れよ。寝不足なんだよ。

 引きこもり外に出るのが、非日常。○!


「というのは軽い冗談だ。外人の挨拶程度に思ってくれて構わない」


 お前生粋の日本人な。生まれも育ちも日本な。てかパスポートすら持ってないだろ。


「今日は何をしたいのかわからない○のために、特別に良い物を持って来てやったぞ」


 良い物ねえ……。タダより高い物はない。良い話には裏がある。安物買いの銭失い。人を見たら泥棒と思え(飛躍)

 未公開株あります! ってか? だから、見ず知らずの野郎にそんなの売るわけねーだろ! 良い商品なら自分で買って儲けるわ、ボケェ!


「はあ……。あー、わかった。ポストに入れておいていてくれ。今、手が離せないから、後で時間があった時に見ておく」

「なんだ。それは失礼したな。昼間から一人でご苦労なことだ」


 何を勘違いしてるのかは知らねーが、何もしてねーよ!? いきなり来たと思ったら、一体何なんだよお前は……。

 濁った思考を振り払い、重い腰を上げて渋々ドアを開けたさ。


「なんだ、もう用事はいいのか?」

「ああ、今さっき終わった」

「終わった? なるほど……早いんだな。念の為に聞いておくがちゃんと手は洗ったのだろうな?」

「洗ってねーよ! てか、用事も赤点先生もびっくりの真っ赤な大嘘だよ! 茶化すなら帰ってくれよ……」

「ジョークだ。そう無駄にテンションを上げるな。私はハイテンションが苦手だ。カラオケとかも苦手だ」

「知ってるよ! お前が順番をパスして微妙な空気にさせるのは周知の事実だよ!」

「とりあえずまあ、小汚い部屋だが上がってくれ」


 それ、一応言っておくが俺のセリフな。


「……あらためて言わなくたってさ、俺の部屋がメチャクチャなぐらい知ってるだろ?」

「隣の住人が可哀想なぐらいにな」


 空気感染するほど汚くはねーよ!? ゾンビ映画成り立たなくなっちゃうよ!?


「歩いたから喉が乾いた。何か飲み物はと」

「勝手に冷蔵庫開けるなよ」

 蛇口ひねって鉄臭い水でも飲んどけよ、お前は……。(それはそうと、小中とよく飲めたもんだよな……おえ)


「いいだろ別に。このコーラ貰うぞ。賞味期限は切れていないな?」

「切れてないが生憎、コップが無いんだなそれが」


 コップは二週間前から流しでお陀仏だ。


「このまま飲めばいい」

「おいおい」


 せめて宙に浮かせて飲めよ……俺も飲むんだからさあー。


「唾とか入れるなよ。気分的に日持ちしなくなる」

「なんだ、女の子の唾なんか喜んで飲むものだと思っていたのに。特に君は」

「飲むわけねーだろ! そういう趣味俺にはねーての。返せ、子どもみたいに全部口の中に入れやがって……」


 キュポンッと口から取り外しつつ、唾液をティッシュで拭きつつ、こうしてあいを部屋の中に招かざる客がごとく入れてしまったわけだが、


「……で、何の用で家に来たんだ? 何か持って来たとか言ってたが、手っ取り早く用件を済ませてくれ」

「用がないと来ちゃダメなのか?」

「別にダメではないが、お前は用が無いと来ないだろ」


 この合理主義者め。


「それを言うなら、君だって用がないから外に出ないのだろう?」

「そりゃそうだが……」


 ズバリ指摘するなよ……ちくしょう。


「まあ、ちょっと休・憩ー。ふう……」


 俺のベッドでうつ伏せになるのは構わんが、コーラで汚すんじゃねえぞ……。


「この枕、寝心地の良い枕だな。お先真っ暗の君と違って、もっふもっふしている」

「普通の枕だよ……」


 なんだかなー……なんか言葉に言い表せない何かというか、目のやり場に困るっつーか……なんかなー。


「襲わないのか?」

「う、うるせーよ……! 誰がお前なんかを襲うかよっ! ブース!」


 はい。やっぱり早々にでもベッドから降りて下さい。ホムセンのベッドでゴロゴロしないで下さいアナウンス、かけますよ?


「そういう言い方はさすがの私も傷つくんだが……」

「そうか。じゃあ、ありがたく襲わせてもらうよ! ガバッ!」

「んん……苦しい……」


 妙に色っぽい声出すなよ……。勘違いしちゃうし、ドキマギするだろ。


「はあ……」


 ちなみにため息じゃねえ、これ吐息な。


 するとその時だった。やっぱり僕って何でもタイミング悪いんスかね? スタートダッシュ決めよう思ったらちょうど目にゴミが入ったり、大事なテストで下痢したり、だいぶタイミング逸しちゃうんスかね? 


 部屋の扉がガッチャーン! 開きやがったのだ。


「こんにちは! お馴染み……間違えた! 幼馴染のゆるりでーす! 来たよ○君! あいちゃん!」


「……」

 目が点になるというのは、こういうシーンで使うのが最も正しい使用例なのだろう。是非、辞書にも載せるべきかどうか検討を重ねて欲しい。


「わわっ!」


 第一声良い反応だ。さあ、自分のことながらゆるりよ! もっと見せてくれ。お前は次にどうビクンと反応する!


「入るよー! おっ邪魔しまーす!」

 ってスルーかよ! 一番想定外のパターンだから! もっと色々あるだろ、ほら!


「お前は、俺とあいのこの状況を見て何とも思わないのか……?」

「だってー、チキンの○君にあいちゃんをどうにかこうにかできるとは思えないもの。えっへー!」


 グサッ! もう、大っきな矢印が俺の胸に深く突き刺さったよ……。

 お前まであいみたいなことを言うとは世も末だな。荒廃した大地をモヒカン男とか肩パットが、ヒャッハー! バイクで爆走しちゃうよ。


「なあ、そろそろ退いてはくれないだろうか? 重いし暑苦しくて叶わん」

「え? ああ! す、す、す、すまん!」

「汗でびっしょりだ全く……。勝手ながらエアコンの温度を下げさせてもらうぞ」

「好きにしてくれ……」


 持ってけドロボー……。自分の家のように振る舞いやがれってんだ。ただしお菓子はこぼすなよ。絶対にだ。後で掃除が面倒だからなっ!


「冷房は自動がオススメだよ、あいちゃん」

「うん」

「……で、再度聞くが、お前たちは何の用があって俺の部屋に来たわけ?」

「えーと、何だっけー? ○君知ってる?」


 すっかり忘れたゆるりさん、乙です! 地獄に堕ちて下さい!


「うむ。これだ」


 そのプリントにはこう書かれていた。


 ――昭明大学工学部情報工学科。ゲーム制作講義のお知らせ。

 プログラミング、シナリオ、ビジュアルデザイン、サウンドメイキングなどが学べまっす! 最初はみんなド素人! 基本のキから学べるよ! 興味のある人は一度見学に来てみてねっ!(人差し指をズドン! と前に出したカワイイキャラ絵)


「ゲーム制作? 何なんだこれは?」

「今度、大学で開催されることになった授業だ」

「○君ならゲーム大好きだし、こういうのに興味あるんじゃないかなあーと思って持ってきたんだよっ!」


 お前、このズドン! の萌キャラとくりそつじゃね? なに、お前をモチーフにしてんの?


「大好きなものなら、少しはやる気が起きるんじゃないかと思ってな。だから大好きな物を条件に、二人で探してみたんだ」


 まあ、興味がないわけじゃないが、そう大好きと連呼されると反骨精神がムクムクと刺激されるから止めてくれ。


「一応下調べをした感じだと中々悪くない授業だったぞ。意見押し付け教授でも、フニャフニャと何言ってるのかわからんお爺ちゃん先生でもなかった。若い講師だったな」

「下調べまでしたんだー。あいちゃんって偉いねえー、優しいねえー」

「ゆるり、脇腹をツンツン突っつくのは止めてくれないか? くすぐったい。とにかく○よ。時間がある時でいい。一度出てみる気はないか?」

「当然、お前たちも一緒に出るんだよな?」

「私たちはそもそも学部が異なるし、その時間はゼミだ。悪いが出ることは出来ない」

「ごめんねえー」


「いやそれならいいんだが、そうか……」

 じゃあ、どうすっかな……。いつも通り、回避性人格な俺が脳裏でチラついた。


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