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三章3【南の砂漠 サンドアックス】

「「痛ってー!!!! もう、超痛ってー!!!!」」


「ど、どうしたの!?」


 そりゃあ天然教教祖のゆるりさんだって、この大っきなエクスクラメーションマークを見ればびっくりするよな。もちろん当事者であるこの俺が、起きた現状に一番仰天しているんだが……。

 痛みの矛先を恐る恐る見ると、何かが、俺のビーサンからはみ出した足の親指を、ガッツリ挟んでるんですけど……。


 カニ? いやあ……


「「し、死ぬーーーーーー!?」」


 思わず長い棒が大勢横滑りしちまったよ。


「大丈夫? わわっ!」


 サソリさんだよ。大っきいねえーってか? て、サソリ!?


「「でぇぇgltjadmwぶはくしゃ、ああー!」」


 地面にへたり込んだまま、汗滲む形相で猛バック。百メートルを9秒台でフィニッシュしそうな勢い。

 そりゃあ砂漠だもん。よくよく考えれば、サソリぐらいいるよなあ……しかし数がなあ……。

 畑に押し寄せるバッタの大群かっつーの。もうウヨウヨメッチャいるの。残念ながら俺にサソリの佃煮 (いや……バッタもだけど)を食す習慣はねーぞ! 田舎のばっちゃんにでもじっくりコトコト煮込んでもらえよ!


「大丈夫……?」

「いや……ダメかもしれない」


 ってそんなこと言ってる場合じゃねー。すっかり地獄色に染まっちまったオアシスは、初期の清々しいオーシャンブルーは跡形もなく、一面サソリ軍団のアジトと化していた。


「ゆるりよ!」

「はい!」

「魔法でどうにかこうにかしろ!」

「無理だよう。私にできるのは回復魔法とその他諸々だけだよう! 攻撃魔術は危ないよう!」


「くそう!」

 どうする、どうする……。

 実際はスパム広告ばりに十匹ぐらいなわけだが、虫嫌いの俺にとってはあまりに凄惨な光景なわけよ。だから色眼鏡っつう、自主規制モザイクを装着した気分でもってお茶の間を濁し、眼前で蠢く赤い彗星、じゃなくて! スコーピオンをただただ見届けるしかなかった。


「こりゃもうここも終いだな……」

 その発言、勇者失格。桶狭間並みに先制攻撃を仕掛けられた俺、やはり失脚。


「キャー! こっちに来たよう!」

「ひえええ! ゆるり、俺の後ろに隠れんじゃねえ! おとり捜査をしてくれよう!」


「何事だ」


「おお、あい! なんて絶好のタイミングで戻ってきたんだ! どうでもいいから助けてくれ!」


 ふっふっふっふ……とバッグをガサゴソと、悪事を働く前の悪党のような笑みを浮かべて何やってんだ? もしくは悪事後の上手くいった満足げな笑みを浮かべてどうした?


「お前……」

 準備いいな。まさか、そんな物まで持ってきていたのか。


「以前ゆるりから、町内清掃のために借りた」

「……貸したのか?」

「そうだよう。あいちゃーん! 早ーく!」


 その名も、『サソリ誘ってイチコロよん』。どうして町内清掃に必要だったのかと、ダサいネーミングセンスと百均並みのデザインセンスは今は置いといて……。


「よし、やっちまえ! 奴らに真の地獄とやらを見せつけてやれ!」


 例のごとく、深夜枠ならまだしも中々にエグい光景を絶妙にカットしつつ、赤いカサカサを隅から隅へと追い回し、タコ殴りにし、抹殺していったわけである。がしかし!


「ひいぃ!」

「情けない声を出すな」


 苦手なサッカーみたいに脚の間をトンネルしていき、取り逃がした一匹が裏庭の花壇の中へ入ってしまったのだ。


「くそ……悪の化身め。追え……追え! あの花の方に逃げたぞ! そこだ!」


「そこっ!」

 殺虫剤のノズルが伸び、ビームのように大量に液体が散布される。

「くそう……速いな。奴は化け物か?」

「しかし、どこへいったのだろう」


 消えた……的漫画展開に次現れる定番の上空を見上げ、そういえばサソリは空を飛べないことを改めて認識し直し、地面に向き直った!


「おおっ! いたよ!」


 部屋の中で消えたリモコンかよ、てめーは。

 前触れもなく現れたソレは、建物内に今まさに入ろうとする瞬間じゃねえか。


「しまった! 中で殺虫剤は使えんぞ」

 戦線離脱されるのか? フィールド張られちまうのか?

 諦めかけたその時だった。ドアから出てきた通りすがりの男によってぐしゃっと、それはもういとも簡単に巨人に潰されるように、ペシャンコにされちまった。


 おおう……ファッキンユー……。変な液体飛び散らせて、それは俺らの仕事だろうが。


「お前たち一体ここで何をしている」

「何ってサソリを追い回していたに決まってるだろ。あんたの靴の下にも一匹、お陀仏してるぜっ」

「何だと……?」


 何だこのターバン野郎? まるで気づいてなかったみたいに、突然青ざめた顔をしやがって。


「ちきしょう。お前らのせいだからな……」


 何現実逃避しちゃってんだよ。最期に一発かましたのはテメーだろうが。サスペンスで実は息の根を止めたのは別人だった、の別人はお前だろうが。


「そりゃあ気持ち悪いとは思うが、相棒を踏みしめたのはあんたの手柄だ。あえて俺が横取りするつもりはない」

「くっ!」


 ピキュン! と……。


 へ?


 それは映画みたいに、こめかみ辺りをおそらく弾丸と思しき何かが横切って行ったさ。


 え、え?


 裏手の方からAK何とかを抱えた柄の悪そうなチンピラ共が、ゾクゾクと(俺の鳥肌的意味合い含む)バラバラと(いや、足音なんだけど実際足並みもバラバラだったからさ……)

 何人かがやって来たではないカッ!(目を大きく見開くっ!)


 ここは摘発前の闇カジノか何かですか? 警部!


「兄貴……こいつらです。兄貴の大事にしていた赤サソリをヤったばかりか、キラッ!(可愛い感じに自主規制)の花を枯らしやがった連中は」


 いやいや、最後の一匹ヤったのはあんたじゃん! てか……知らねーよ。ペットとして危険種なんかを飼ってるんじゃないよ。

 だいたいよー、あんな近所の花屋にありそうなのが、そんな末端価格おいくらですか? のヤバい代物だったなんて俺にわかるわけねーじゃん。ベロベロバアー。

「いかがいたしましょうか?」


 って、さっきのバイト君じゃねーかよ! こんな裏通りのションベンちびりそうな場所で、何やってるんだよ。早く、生中のオーダー「はい! 喜んで!」取り行っちゃえよ!


「まあ、ドモイよ。落ち着きなさい。客人たちよよく聞け」


 何か後ろの方から杖ついた、いかにもな感じの親玉が出てきたぞ……。


「俺は知っての通り優しい。だから選択肢をやろうじゃねえか。今ここで死ぬか、奴隷として一生酷使されるかだ」


「「HAHAHAHA!」」


 二つすか……嫌だなあ……。もっとひねらないと鉛筆転がす暇も無いじゃないっすか……。


「他に僕らでも選べそうな、優しいチョイスはないですかね……?」

「それじゃあ、真っ先にお前が死ぬか?」


 まあ、普通そうなりますよねえ……。


「○」


 なんだ? お次はお前の攻撃ターンか?


「右下の方に表示されているコマンドを忘れたか」


「あ……なるほど良い考えだな」

 勝てば官軍。どんなに横暴したって、勝者の下にはひれ伏すしかないんだよ。そりゃあ、二人に全力で目配せしたさ。


「なんだ目に砂粒でも入ったのか、それとも死ぬ覚悟ができたのか?」


 うるせえ。定番コメントしてんじゃねーよ。


「「あい! ゆるり! …………逃げるぞ」」


 勝ってないって? 何言ってんの。時には逃げるのも勝ちだって。格闘家だって、刃物持った相手からはさすがに逃げるらしいぞ。ましてや銃だ。飛び道具だ。

 剣>>>銃のフィクション的お約束は無い以上、何はともあれ逃げるが勝ちDASH!


 一応、冗談っぽく語ってはいるものの、本来なら蜂の巣状態にあってもおかしくないわけで、死にたくない一心でパニクっていた。

 しかし面白いように弾は、もう物理法則を全力で無視しちゃってるんじゃないの? ぐらいの勢いで射的の場外、ダーツの知らない人の頭に突き刺さる、ボーリングの球が隣のレーンをストライーク! するレベルでガターしたのだった。


「……ゼエハア、ゼエハア……死ぬかと思ったぜ。しかし、意外と当たらないもんだな」


 まるで歩兵が弱い、いくら撃たれても当たらないアニメのようだぜ。むしろ一発ぐらい怪我しない程度にカスってくれた方が現実味が湧くってもんだ。


「○くんは、勇者だもん。こんなところで、死んでなんていられないよう!」

「主人公補整ってヤツだろう。○、お陰で助かったぞ」


「そりゃどうも」


 主人公は道半ばで死んでられねーてか? そりゃご都合主義ってもんよ。まさか、主人公が、主要キャラが死亡!? ってのも予想外しの、最近流行りの展開でもあったりするんだぜ。


「しかし、連中に魔法を使えば皆殺しにできたんじゃないのか? ゆるり」


 皆殺しとは物騒な奴だな……。


「攻撃魔法は使えないんだよー」

「そうなのか? 初耳だ」

「えへへー」

「胸を張っているが、褒めてはいないぞ」


 張る胸の無い人がうるせーよ……。


「○君、どうしたの黙って? 呆れちゃった?」

「ん。○、大丈夫か?」


 こんだけ動けば血の巡りもよくなるよな、そりゃあ……。


「「○(君)!」」


 そう、今さっきまで忘れてたぜ。そういや俺、サソリに刺されてたんだよな……。

 毒はゆっくりと、意外にじっくりと体を蝕んでいたらしく、いよいよ持ってロバから豪快に落っこちた。


 ところまでは辛うじて覚えている。


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