三章2【南の砂漠 サンドアックス】
砂漠のど真ん中(正確な位置は不明。こういう時の気分はとりあえず、ど真ん中と決まってる!)での若干のパーティーのいざこざを楕円形に収め、俺は感心していた。
ゆるりは本当、視力が良いんだなと。
どっかのテレビに呼ばれちゃう部族かってーの。俺はてっきり、「Oasisなかったよー! うわーん!」な展開を期待しちまっていた訳だから、こう実在しちまうと、「人気のあるライブだからな。さすがに砂漠のど真ん中には来てくれないだろう。来年、本場に行こう!(肩タッチ)」というさり気ない慰めもお蔵入りという話になってくる。
「もおー、二人とも遅っそいよー! 待ちくたびれちゃったよー!」
一足先にパラソルの下で足を投げ出しながら、グラスの縁に良い具合に突き刺さった南国果実入りトロピカルジュースを堪能しちゃってるんじゃないよ、お前は!
「すまんすまん。ちょっと、蟻地獄に足を躓かせていてな」
「アリジゴク、いたの?」
「ああ、もうサッラーって感じで渦に飲み込まれそうになってな。出るに出られず、四苦八苦していた所なんだ。な?」
「知らん」
「えー、いいなあー。私もアリジゴクになりたい!」
嘘だけど、全然良くねえよ? てか、地獄さんの方すか? 無慈悲に飲み込んじゃう方すか?
「あー、腰痛てえ」
よっこいしょの代わりにため息をつきながら、隣のチェアへ腰を下ろす。目の前にはプールで楽しげに泳ぐ旅人たちの姿。本当オアシスなんだな、ここは。
「すみませーん、俺にも飲み物下さい。えーっとヤシの実ジュースを一つと、あいは?」
「私はゆるりと同じで構わない」
「それと、トロピカルジュース南国果実付き……(高っ!)DXをお願いします」
「かしこまりました」
バイト的なお兄さん店員なわけだけど、こんな遠くまでどうやって来ているのやら割に合うのやら、まあそんな余計なことには一切首を突っ込まず、今は短し歩かぬバカンスを誰よりも満喫しようじゃないか。
「しっかし、良いところだな、ここは。まるで地方の廃れた健康ランドだ」
「えらい言われようだな」
「そうだねえー。ふんふんふふーん、ふん!」
楽しそうだなお前。もうここがラスボス後のハッピータイムで良いんじゃね?
「ダメだぞ。旅は続くんだからな。第一、我々はまだ何も成していない。これでは冒険とかこつけた、無駄に疲れる旅行をしているに過ぎない」
「なら堂々と旅行って言っちまえばいいんじゃねーか?」
「駄目に決まってる。我々は役所から選抜された、委託勇者ご一行なんだ。抽選に外れた皆に顔向けができない」
「まあそうかもな。おっ、ジュースが来たぜ。つかの間の旅行気分でも味わっちゃって下さいよ。あい先生!」
喋るあいの口に俺は、ストローを無理矢理突っ込んだ。
「うぷっ……痛い……乱暴をするな!」
「ああ! 女の子に乱暴、いけないんだー!」
たまにやったお茶目な悪戯に、人を指差しながら犯罪者みたいに言うなよ。何だ、何だと人が集まってきちまうだろうが。
「悪い。もしかして血出ちまったか? なら消毒なり治療をせんと……」
「いや……」
「口を開けて見せてみろ」
「出ていない! 出血などしていない! 私は予備の水を買って来る。彼らにも餌をやらねばならないから、行ってくる!」
「おお……? 俺も手伝おうか?」
「君は休んでいてくれて構わない!」
「あいちゃーん!」
「ゆるりもそこにいてくれ」
「ほーい!」
決断、早っ! 俺も見習いたいぜ。
「そうかい。まあ何かあったら呼びに来てくれよ。遠慮すんなよ?」
女の子一人に仕事を押し付ける勇者ってどうなの? まあ、でも本人がいいって言うんだし、しつこく手伝うって言うのもキャラじゃないというか、こっ恥ずかしいというか。
元から無い俺の人気ただ下がり中? まさか、あいつ自分だけ一人勝ちしようとしてるんじゃねえよな? 頼む! 人気投票俺に入れてくれっ! 活躍の機会の場を減らさないでくれ!
「ところでゆるりよ」
「んー?」
お前、パフェも頼んだのか。超デッカくて羨ましいな。出資金ゼロめっ!
「最近どうなんだ?」
「へ? そうだねえ、楽しいよー。二人と一緒にいられてね! えへへ!」
口元にクリームが付いているんだが、ぺろりと取ったら俺は犯罪者だろうか?
「そうか。そういえば、こうやって小さい頃はよく一緒に遊んでたっけな」
「そうだねえ。でも、○君。言ってたじゃない。五年生ぐらいの時に、『もう、お前ら女子とは一生遊ばない! 絶交だ!』って。それから本当に遊ばなくなっちゃって私、嫌われちゃったんだと思ってたよー、あはは」
ああ! そんなこともあった。当時の俺……超恥ずかしいっ! 思春期突入真っ盛りじゃないっすか。なんてこと口走ってるんだよ。
「まあ……なんだ、その節はすまなかった。だから、今回の旅はせめてもの罪滅ぼしだと思ってくれ」
「うん! やっぱり幼馴染は仲良くしなくちゃダメだもん! あいちゃんも凄く心配していたんだよう?」
「あいつはただのお節介だろ」
俺をなじるようなことはあっても、心配なんてするはずがない。
「そうかなあー?」
「そうに決まってる。ところでゆるりよ」
言っちまえ、俺! あの告白の返事を聞いちまえよ!
「返事」
「変人? ○君、変人だったの?」
俺は変態だが、変人じゃあない!(断言)
「いや……パフェは美味いか?」
「うん。美味しいよー! 一口食べる?」
「ああ、そうだな。……貰うとしようか」
はい、定番のチキン出ました! この期に及んでも俺は、愛の告白のRE:を聞く事ができないのです。もうちょっとはっきりと書いておけば良かったのかよおおおお!
「はい、アーン」
ええ!?
「どお?」
「ん……悪くない」
いや超絶美味いっ! お前に食べさせて貰えるものなら、ピーマンだってニンジンだってそこら辺の土だって、美味くないわけがないさ!
「本来の三倍増しで美味い」
「良かったねえ! おっ、クリームが付いてるよう? 取ってあげるねっ!」
その笑顔卒倒しそう……。
そんな感じで、一人頑張るあいの奴を蚊帳の外に置いて、ゆるりと二人無為無策なお喋りに興じていたわけだが、いつの間にか俺はうつらうつら夢の旅をしていたらしい。
ゆるりが熱心に、どっちのキャラが可愛いかを布教しているようだが、脳を突き破って右耳から左耳へと、そりゃ黒髪ツインテールもクールで悪くないんだが、金髪ロングヘアーもツンデレで捨て難い。だがしかし、栗色ショートカットも優しいからむしろ良い。的な具合に俺は夢心地に自分の容姿を全力で棚に上げて、上から目線で評価していたのだが、突然それはやって来た。