三章1【南の砂漠 サンドアックス】
「あらためて言うのも憚られるんだが、やはり試しに言ってみてもいいか?」
「……暑いんだから手短かに頼むぞ」
「その……暑いな」
「……砂漠だからな」
「ううー……死にそうだよう……」
珍しくゆるりの奴もヘバッてやがるか。さすが、パンはパンでも食べられないパンはなーんだ? →フライパン! もビックリ、灼熱地獄だぜえ。
てな感じで、Are you OK?(そんなテンションどこからも湧いてこねえ……)現在、俺たちは十数時間前から一向に先の見えない砂漠の中をダラダラと行軍していた。
「どうして砂漠の旅ってのはこう、夏ばかりに行くんだろうな。冬だっていいだろうに」
「冬でも行く連中は行くだろうが、格好がつかんだろ。イメージが湧きづらい。そういうのは氷の帝国あたりにでも譲ってやれ」
「湧き水飲みたーい!」
「しかし……そうは言っても酷く暑いものだ、やれやれ」
どうやらあいの奴のネジも、だいぶゆるんでるみてーだな。
「なんなら俺が、ドライバーで締めてやろうか?」
「訳のわからないことを抜かすな。マイナス思考ドライバーしか持ち合わせていないくせに!」
理解早えーな、お前……。てか、それだとただのマイナス思考なドライバー(運転手)になっちまわねえか?
「はあ……俺の時だけいっつも赤だわ」みたいなさ? まあ、現在パカパカと四足歩行の動物を運転中の俺にピッタリな称号なわけだが、いらねー。むしろ装備なんてしたらステータスに悪影響だわ。てか既にバッチリ装備してるんだわ。
「「おおおおっ!」」
「どうした、ゆるりよ」
いつも通りデカい奇声を上げて。まるでサッカーの応援みたいじゃないか。もしや一点入ったのか? ゴールは……近いのか?
「見てみて! オアシスだよ! 天の恵みだよ! 地下の恵みだよ! 水が一杯だよ! 涼しいんだよ! プールだよう! 海だよーーーう!」
オウンゴール!(そういやレーシングゲームとかわざわざ逆走して遊んだよなあ……メッチャ飽きてる時とか)ゆるりの奴、一人で喚きながら突っ走って行っちゃったよ……。
「何だかんだいってもあいつは元気だよな……」
おもちゃ屋の前で走っていく子供かよ。急ぐとロクな事にならないってのがフラグ的定番なんだぜ?
「そうだな。だがこれでやっと言える。君も念願叶ってロバに乗れて良かったじゃないか。おめでとう」
こいつ……またそんな訳のわからねーこと抜かしやがる。そういや前にもそんなアホなこと言ってたな。唸る暑さのせいもあってか、だいぶイラっとくるぜ。
「言っておくがな、俺はラクダに乗りたかったんだ。それなのにどうして、俺だけロバにしろとお前は頑なだったんだ? そんな嫌がらせをして楽しいか?」
あのコブ、一度またがってみたかったのに……。
「別に嫌がらせなどしていない。良かれと思ってやっただけだ」
「良かれって……だから俺はラクダに乗りたかったんだよ! 何度も意味不明なことを抜かすなっ!」
「………………」
今まで見たことのないような表情を垣間見ちまったじゃねえか……。三日目の味噌汁を毒味と言って友人に飲ませた時みたいに、空きっ腹にブラック珈琲を流し込んだように、心が……胃が……キリキリと痛むじゃねえか。
だが、悪いのはあいの奴だ。俺は……何も悪くない。中学で習うnot~anyで十分だ。
「別に、怒ってるわけじゃねーよ。だから……落ち込んだフリするなっつーの」
「……ごめん」
「いいんだよ。わかってもらえれば別に謝らなくたって」
「……ありがとう」
なぜ感謝をする? 調子狂うじゃねえか……。
歯間掃除中のフロスが歯に挟まったような雰囲気の中、
「本当は私、○のロバに乗りたかった。よければ交換してはくれないだろうか?」
と言ってきたので、彼女のラクダと俺のロバを交換してやった。
「もしかしてお前は自分が乗りたかったのに、わざわざ俺にロバを譲ってくれたのか?」
「いや……そういうわけではないのだが」
照れるなよ。ロバも中々可愛いもんな。でも、ラクダと違ってあまり大荷物を積めないから連れていくのは一頭が限界だ。ゆるりもいるのに、お前だけロバに乗っていたら何かズルいもんな。だから俺に譲ったんだろう?
「よく分からんが、まあ、そういう話なら俺が感謝しなくちゃな」
「……どうだろう、乗り心地の方は?」
「ああ、中々悪くない。腰あたりを良くする健康マッサージ機に採用したら売れそうだ」
「君が満足してくれたのなら……それで良かった」