リアル3
とりあえず久々に大学に来てみたわけだが、ちょうど講義終わりの昼時に来てしまったせいか、キャンパスはとんでもなく混み合っていた。
ミスったな……。
微妙な顔見知りに挨拶をしても良いのかどうか迷いながら、結局見て見ぬふりし、既に俺の脳内は『帰宅』の文字で一杯だった。
しかし、往復昼飯代分の電車賃をかけて来てしまった手前、来て速攻帰るのは何というかもったいないので、用事があるていで辺りを意味もなく当てもなく、ウロウロと散策する。
学食。一年の初々しい時期に一人で入って地獄を味わった経験から、候補に上がるまでもなく即却下。
ベンチ。良い具合に木漏れ日溢れる木陰にあるのだが、やはり良い具合なので、カップルが多いのだ。友達もいない寂しい奴だと思われそうだし、俺一人で長椅子を独占するのも如何なものかと思うので、却下。
図書館。前にそれなりに来ていた頃は、もはや図書部(部長、俺)の部室と化していたのだが、残念なことに本日は学生証を部屋に忘れてきてしまった。(そういや教科書を忘れて誰にも借りられず見せてとも言えず、ひたすら教師から指されないことを祈っていた授業なんてのもあったなあ……。全然集中できないから、頭に入んねーの)
そんなブルーな思い出を少しデジャブしながら、空いてる教室へと向かう。
そこでコンビニで買った飯でも食おう。でも……違う人種(チャラいサークルとか、チャラい髪型とか、チャラい女連れとか)で固まっていたら嫌だなあ……。目立つし、落ち着かないし、話題にされそうだし、
やはり却下。
どうするか……結論、帰る。
帰宅だ帰宅! 帰りに安っすい牛丼でも食えばいいだろ。俺にはそれがお似合いだ!(失礼)
結局、こうなるのが半ば定められた運命なのだと、不甲斐なさを一人噛み締めながら、正門まで俯き加減にトボトボと歩いていた。すると、
「あーー! ○君だーー!」
久々に顔馴染みで、幼馴染の彼女たちにいきなり声をかけられた。
「なんだ○、来ていたのか。それならそうと連絡ぐらい寄こせばいいものを。ところで……かなり挙動不審な人物になっているぞ。新しい創作ダンスか何かか?」
「ま、まあな……ひ、ひつも通りだ……」
「声、震えているぞ」
最近、店の店員とぐらいしか話してねーもん……。出てくる声もどこかに行っちまうっつーの。
「でねー、今から学食行くんだー。○君もどお?」
「え? ああ……お、お前らの他には誰かいるのか?」
「いるにはいるがどうしてだ?」
いるなら最初から気を遣って誘うんじゃねえよ。いや……誘われないのもそれはそれで寂しいけど。
「そうか……なら、俺は……パスだな」
「来てくれないのー? なんでえー?」
何でもなにもねえ。理由はお前らが一番良く知ってるだろうよ。
「別に積極的に話す必要もないだろう。所々相槌でも打ちながら、『そうだよねー。わかるー、わかるー』と、適当に愛想笑いを浮かべているだけでいいんだぞ」
まるで自分はいつもそうしているみたいな言い方だな……。
「そういうわけにもいかないだろ。『あの人誰? 怖い』って話になるぞ。これ以上、微妙な顔見知りを増やしたくないし、後で笑いのネタにされるのも勘弁こうむりたい」
話もしない顔見知りなど、たまたま同じマンションに住んでました。ぐらいどうでもいい存在だ。だけど、顔だけは知ってるから無意味に気に入らなく思ったり、関心を持ったりして面倒くせえ。
「うーん、それじゃあ、三人で食べよっか。他の皆とはいつでも食べられるし、いいよね? あいちゃん!」
「ん、私は構わないが」
「それじゃあ、お前たちに悪い」
俺のせいで、付き合いが悪いと立ち位置が危うくなっちまうかもしれないし、俺といることで変に思われてしまうかもしれない。
「もう、変なところで神経質なんだから!」
「まあ、無駄に引きこもってるぐらいだしな」
「それじゃあ、どうしたいの! 怒るよ!」
どうしたいも、こうしたいもよく分からん。とか言ったらさすがに嫌われそうなので、
「……俺もやっぱり、行こうかな」
と渋々返答したわけだ。
「良いんだぞ? 無理しなくたって」
「仕方ない」
まあ、何だかんだ言っても……お前たちと一緒に飯は食いたいしな。
「仕方ない、か。引きこもりってのは本当、面倒くさい人種がなる病なんだな。まあ、私は別に気にしないが」
「私も気にしなーい!」
「こもる理由は人による。第一、俺の場合は……よく分からん」
「鬱病ってわけじゃないんだろ?」
「違うと思う……」
「私には今後、君がどうしていきたいのかがさっぱりわからないよ」
「自分でも分からないのに、他人にわかるわけがないだろ……」
くそったれが……。