二章3【エルフの街 エルフィート】
「疲れた……もう空が真っ暗じゃないか……」
ピロりんピロりんって、街にいながらだいぶ経験値アップしちゃったよ! 近くの草原より効率良いよっ!
「これで私たちも一躍有名人だな」
嬉しそうに言うなよ。もうこの街には二度と立ち寄れねーよ。早々に立ち去りてえよ。
けど、この時間。嘘のボランティア活動に無料奉仕(それなりに防犯対策の役にたった?)したんだから、せめて民家にタダで泊まらせてもらうという手もあったはずなんだけど、これ以上彼らといるとボロが露見する可能性&罪悪感で若干心が痛んだ。だから、仕方なく宿屋に泊まる選択肢しかねえんだよ。
「つーか、お前らは疲れてないの……?」
「君が慌てふためく様を後ろから見ていただけだからな」
「オーディエンスだね! 面白かったよ! ○君!」
「そりゃどうも……」
コロッセオで見物される奴隷戦士かっての。良い性格してるよ、全く。
とりあえず、宿屋へGO! →セーブ(心なしか今日はやけに時間がかかった気がしたな……)
「ここだぞ、○。なに素でオーバーランしている」
「すまん。朦朧としていた」
意味も無く、某マイケルばりのバックステップで戻りつつ、俺たち一行は宿屋に入って女主人に部屋の空きはあるのかどうかを尋ねてみた。
「すみません。現在、お部屋は一つしか残っておりません。三人様ご一緒でもよろしいでしょうか?」
「いいよー!」
「うむ。構わない」
よくねーよ! 12時間耐久カラオケ後みたいに声が出ないよ!
「しかし、小さな宿屋でして、お部屋にベッドが二つしかございません。それでもよろしいでしょうか?」
「うーん、それじゃあ○君。久しぶりに私と一緒に寝よっか?」
「ええ!?」
ほら、あい先生もたまに見せるびっくり顔しちゃってるじゃん。一瞬、さわやかな草原が俺の心の中でそよそよと揺らいだけどさー、
「ね、寝るわけねーだろ……! このオタンコナス!」
お前は、十何年前の話を持ち出すんだよ。寝るならあいと寝ろよ。勝手に百合百合しとけっての!
「ははん」
なに「なるほどね」みたいな顔して頷いてんだよ、女店主!
「えーと、大丈夫です……。俺は床で寝るんで……。敷く布団を貸してもらえればそれでいいっす」
「……左様ですか」
何、萎んだガス風船みたいにガッカリしてんだよ……。あなたはそういうイザコザが好きな人なのか? そのまま勢い良くどっかに飛んで行っちまえよ!
それから普通に晩飯を食って(食うって何か卑猥な言葉だよね……まあ普通にエルフ料理を堪能したのだけど)、寝て(寝るってどことなくアレなワードだよね……まあ普通に一人床の上で就寝したわけだけど)、てな少し頭のおかしなテンションで、普通に朝を迎えたわけである。が、
「昨晩はお楽しみでしたね(ニコッ)」
うるせーよ! 何も楽しんでねーよ! テメーが持って来た煎餅布団のせいで、背中メッチャ痛かったよ! そんなことはいいから、早く道を教えやがれっ!
「なら、南の砂漠を通って行かれるといいでしょう」
「砂漠、ですか……。さぞや歩くことになるんでしょうね……」
「何をご冗談言ってるんですか! 徒歩でなんか行ったらモンスターと出会う前に、途中で枯れ死んでしまいますよ。普通、ラクダとかロバに乗っていくんです。飲み物を背中に沢山乗っけてね。自販機がそこら中にあると思ったら大間違いなんですから。では道中お気をつけ下さい。応援していますよ、頑張って!」
「ありがとう! 頑張るよう!」
「じゃ……」
ふふっ、特にあなたはね。と謎のアドバイスを残されつつ、俺たち一行は迷惑をかけつかけられつした、エルフの街エルフィートを後にした。