二章2【エルフの街 エルフィート】
「ここはエルフの街、エルフィートだ。心いくまでゆっくりしていってくれて構わない」
看板見ればわかるっつーの。
「それでお尋ねしたいことがあるのですが……?」
「宿屋は東、道具屋は西、教会は北、町長の自宅は南だ。西の森に行きたければ、ここからずっと沿って進めばいい」
「あの……僕らその西の森から来たんです」
「西の森には魔女が住んでいるという言い伝えがある。真意は定かではないが、君もそれが目当てでこの街に来たのなら、町長のバジリさんに話を聞いてみるといい」
普通にいたっつーの。
「会いましたよ。魔女に。変わった人でしたけど、お菓子はめちゃくちゃ美味かったです」
「西の森の魔女は一見、若い娘に見えるが正体は老女だ。もし出会うようなことがあれば用心した方が良い。魔法を使われると厄介だ」
その情報間違ってるっつーの。バグってるのかい? ソフトを裏からフーフーされたいのかい?(迷信)
「一見老女で、正体は若い娘ではないんですかね……?」
「黒魔術が専門らしい。その力は大変強力だ」
「ご協力ありがとうございました!」
「君とは馬が合いそうだ。気になることがあったらまた、いつでも聞いてくれて構わない」
親切なところ悪いが、二度と聞かねーつーの、ボケエッ!
「どうだった?」
「ダメだった。まるで話が通じなさ過ぎて、埒が空かなかった。遠い異世界人と話してるような気分だ……」
「そうか。なら仕方あるまい。この民家の住人に聞いてみることにしよう。幸いにも鍵はかかっていないみたいだしな」
「牧歌的なんだねえー。エルフさんの街!」
「さすが世界で最も穏健と言われる民族だ」
何の躊躇も無くバタンと勢いよく開けた先、そこには丸テーブルを囲んで食事を取る一家団欒の姿があったわけだ。
「「ひ……ひええ! ご、強盗!?」」
「「……。どひゃあ! あ、いえ……! すみません!」」
ついついRPG仕様が出ちまったじゃねえか。
そう、ここは俺ワールドなんかじゃない。自分が死ねばこの世界も終わる的な小四思考はとっくに卒業したじゃないか。俺たちは役所から任された委託勇者なだけで、この世界のキャラクターの一人。主人公なんかじゃない。看守と囚人の実験しかり、割り切ったロールプレイを演じているわけじゃないんだ。
「ここで壺の一つでも割っていれば立派な犯罪者なんだがな」
うるせえよ……。エルフ一家が恐怖の絵面を浮かべちゃってるじゃねーか。何百年かぶりに訪れた悪夢かっての。
「ご、ごめんなさい! 私たち決して怪しい者じゃないんです!」
「では、一体……?」
来週に向けてのED突入のようなカットで、怯えきった声を出したエルフに俺は答えた。
「勇者、です。悪党が突然押し入った時に備えての抜き打ち訓練を行っております。つまり火災訓練みたいなものです」
「ププッ……大嘘つきめがっ」
笑うなよ……じゃあ、お前が言い訳の理由考えろっつーの。
「…………」
ああ……沈黙辛い。何が辛いって、クラス皆がワイワイやってる中、一人ポツンと椅子に座ってるぐらい辛い。他にも俺みてえなの居ねえかなって必死こいて探すんだけど、自分がクラス内カースト最下層にいることを改めて認識し直すぐらい辛い。
「は、はあ……。そうだったんですか……。いやー、びっくりしました」
「しょ、食事中にいきなり押しかけて申し訳ありません。せめて時間帯を考えるべきでしたよね?」
「いえいえ、そういうことなら一向に構いませんよ。しかし! ならば、我々も町内班長として協力しないわけにはいきませんな。エルフの誇りとしてっ!」
なんか不味い流れになってねえ……? 立ち上がってガッツポーズしたパパさんの唾がママさんのお盆に入ってメッチャ嫌な顔してるんですけど……。
「僕もやるー! 僕もやるー!」
あ、「こらっ! 勇者さんにご迷惑でしょ」とか言って、子どもたちの中々消えない好奇心を諌めてくれないんッスね……。そりゃあ、休日はうるさい子どもは適当に遊びとか行ってて欲しいッスよね、わかります。
「強盗だ!」
「ひええ!」
パスパスと飛び交う弓矢の中、何で青ざめた顔しなきゃなんねえの……。
「さ、山賊だ!」
「ギエエエ!」
もうさ。ズドンズドンって弾丸が飛び交うわけよ。髪を持って行かれそうになったりして、恐怖に顔を引きつらせる俺!
「サ、サタンだ……!」
もう、この時点でアホっぽいんだけど、
「うわー! お父ーさーん!」
「とうとうこの街にも来たか……。ここで終わりにする! 地獄へ落ちろサタンめ!」
ドッキリでした。ごめんねっ! って種明かししても中々止まらない有名人のごとく、彼はひたすら俺に「必殺! バスターソード!」とやらを食らわせ続けたわけさ、トホホ……。
てな感じで、反応は十人十色。一軒一軒回っていき、防犯対策という名の大義名分で散々住人を脅かし続けたのだ。
トリック・オア・トリート!