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プロローグ1【どうして俺を外に出す!?】

「あいちゃーん! これ、どういう意味かわかる?」

「Give me a lova? そうだな。直訳するなら手頃なロバが一頭欲しいって意味だ」

「旅がしたいってこと?」

「冒険に飢えているんだな。だって、」


「「男の子だもの!」」


 →カッコいい英字のタイトルと共に、無駄にオーケストラ調の荘厳な音楽が鳴り響き、俺の冒険は始まったらしい。



 さて、まずは一体どうしてこんなことになったのか、この濁った頭で極めて冷静に考える必要があるだろう。

「ふんふんふん、ふふん!」

 あいかわらず、ゆるりは楽しそうだ。いつだってこいつは楽しそうだ。地下帝国で強制労働させられていても、こいつは楽しく穴掘って埋めていそうだ。熱々の地獄でさえちょっと高めの湯船だと思って満喫してしまいそうだ。

 そう俺は……そんなわけのわからぬ女に愛を伝えただけなのだ。それなのになぜ、こんな街外れの田舎道を女神こいつ一人と、目の上のたんこぶ(口に出したら中世のアレ。そうアレ。アイアンメイデンの中に入れられて酷い目に遭うだろう)一人様。計、幼馴染二人と歩かにゃならんのだ? 罰ゲームなのか? やはりそうなのか? いや、彼女たちにとっては知らんよ? だが俺にとっては罰ゲームって訳じゃないんだけど……そりゃ俺だって健全な男子だ。女の子二人と肩を並べて歩くのは悪くない、むしろ良い。と言わねば、「君はそういう方向の人なのかね? ん?」と妙にマッチョな方から言い寄られる可能性をも生みかねないので先に言っておく。


 俺は……女の子が大好きだーー!(やまびこ)


 どのくらい好きなのかというと、(手を左右に大きく広げて)このくらい好きだーー!(二人からの視線が痛いので、早々にしまっておく)


 しかし、何と言うか……神の不条理というか、二人の勝手極まりない理不尽というか、とりあえず俺は外に出たくないんだ。

 家にいたい。一日中、いや出来るなら一生部屋にいたい。それだけは間違いのない事実だと最初に言っておかなければならないだろう。


「悪いな。ゆるりロバはやれないそうだ。代わりに君の旅に付いていってやるそうだぞ。感謝しろよ、青年」

「はあ……」

 少年っていうとまだまだ未来ある気がするけど、青年ってどうにもやる気の無さげが伝わるよねえ……。

「お父さんに聞いたらね、○にやるロバはねえ! って怒られちゃった。じゃあラクダはどうなの? って言ったら、あいつに砂漠は無理だー! って。それじゃあ、羊はどうなのかなあ? って尋ねたら、奴じゃ毛を満足に刈る事すらできんだろー! だって。じゃあ馬は……」

 俺は適当に女神のありがたい話を聞き流した。そして、口の中でいわゆる苦虫(ってどんな虫?)とやらを噛み潰して考えた。

 つまりさ、俺がムカつくってことなんだろ、あのおっさん。俺のゆるりに対する想いに気づいてやがるんだよ多分。でもだからって、俺がどうこうできる話じゃねーんだよな。そうなんだよ。超恐えーんだよ、あの親父。昔、こいつん家の牧場で馬に変顔したり、背中ペチペチして遊んでたら、クワ持ったゆるりの父ちゃんがその馬に乗って、

「馬を馬鹿にするんじゃねえ……馬を馬鹿にしたら許さねえ……オラオラ!」

 って散々追いかけられたんだよ……。クワッ! って目を見開きながらさ。

 アレだよ。子象が小さい頃に足に巻かれた鎖が切れなかったから、大きくなってからも切れないと思い込む感じのジレンマと同じだよ。

「許して下さーい、ゆるりのおじちゃん……。もう二度としないから……」って、


「クソッ!」

 嫌な事思い出しちまったじゃねえか。

「?」

 小首を傾げるゆるり萌えー。

「ゴホン」

 まあ、今はそれはいい。現状では別問題だ。

 俺は、数日前まで六畳一間の侘しい部屋で、MMORPGで世界を救うべく仲間たちと伝説の旅をしていたんだ。なのに、この有様は一体どうしたものか。

「○君はね、引きこもルンっていう魔法にかかっていたんだよ! やっと外に出られる日がきたんだねえ! 良かったねえ!」

 ああ、眩しい……。なんだその天から降臨した女神のような笑顔は。やめてくれ……お前のそのキラキラとしたまるで、少女漫画の表紙のような目の輝き。アニメ仕様か? そして、こんな真昼間からの~カラリとしたお天道様のピーカン照りは、俺を干ばつ期の冴えないダムのように干上がらせちまう。

 サースティー……。

 狭い六畳間で男一人。親に仕送りという名の迷惑をかけつつ、ひっそりと暮らしていたってのに、


 どうして俺を外に出す?


 近所のコンビニ程度ならやぶさかじゃあないさ。声を大にしては言えないが、読みたい雑誌だって、仕切りに区切られた隅の方にあったりもする。

 なのに、いきなりハードル高すぎだろ。どんだけ上げてくれてんだよ。

 高跳びならいきなり1m上がる感じだぜ? せめて、地区大会から参加させてくれよ。オリンピックかって話だよ。ハードル走なら一つ目で華麗に躓いて、肉離れを引き起こしそうだぜ。なら今のうちにわざと転んで、リタイアした方がいいのかもしれないよな。痛いのは嫌だが、へばって醜態を晒すその前に。


「もう何ぶつぶつ言ってるの! ○君!」

「はあ……」

「ため息つかないの! そんなんじゃ幸せが逃げちゃうよ?」

「はあ、はあ、はあ、はあああ……」

 ガックリとうな垂れる俺氏。幸せが逃げちゃう? とな。ゆるりよ。現在、幸せは絶賛逃避行中よ。しばらくは帰って来そうにない。俺の意思には関係なしにな。

「はあ……もう」

 帰りて……。嫌な学校なり職場なりに向かう途中ぐらい帰りて。(建物が見えるとやって来る胃のキリキリ……心臓の動悸……)

「うう……もしかして私と冒険行きたくなかったの……?」


「へ?」

 あ、やば。ジワーってゆるりの目がウルウルしてきてんじゃん。

「あ、いや、その……」

 そりゃあたふたしながら恐る恐る、もう一人を見たさ。

「……」

 って、ジャッジャッって完全に無言でサバイバルナイフ研いでんじゃん! 停まってからやれよ! ってそうじゃねえ!

「ひええ! あ、いや! すまん! そういうわけじゃないんだぜ……ゆるりよ」

「そうなの……?」

「ああ、もちろんジャマイカ……」

 まあ確かに、冒険については気が進まんのは変わらんが、よくよく考えればお前と、四六時中一緒に居られるっていうのは、何というか何よりなことだよな。うん。小さい頃一緒に遊んだのを思い出すよな。

「……」


 …………そしてお前もな。


「何?」

 ジトーと変な物を見るような目をするな。てか、早くナイフをしまえ! 言っておくが、某東の国だとナイフの携帯は厳禁なんだぞ。お縄になっちゃうぞ、そんな物騒なの見せびらかしてたら。(てか、持ってるだけで)

「てかさ……どうしてお前たちはわざわざ、引きこもってた俺を外に出してくれたんだ? そっとしておいてくれたって良いだろ、え? サナギなんだよまだ。ミノムシを剥いてくれるなよ。風邪を引く」

「何を言うかと思えば、何を言っているんだ君は」

「そうだよ! 駄目だよう! 少しぐらい働かないとっ!」

「べ、別に良いだろ……働きたい奴が働けば。だいたい、そういうのは失業率がゼロになってから、改めて考えさせてくれよな。働きたい奴の職を奪ってやるなよ」


 まあ、そうは言っても何一つ生産的なことをしていないと、後ろめたい気持ちになるのも事実。そういうのに「働いたら負け」とか言って対抗心を燃やしたりする人もいるらしいが、俺にはそういった気概はないし、割とくだらないと思っていたりもする。何気に引きこもりにストイックであるのだ。つまり真面目に引きこもっていると言い換えてもいい。


「もう! またそうやって屁理屈ばっかりこねるんだから! 昔から○君はいつもそう!」

「俺、冒険家なんて無理だよ……。藤岡隊長すげーよ……。これだってさ、なるのに結構大変だったんだろ?」

 無駄に金かかってそうな立派な役所に連れて行かれて、無駄に書類を沢山書いて、無駄に証明書なり提出したんだよなあ。


「倍率50倍だそうだ」

「それみたことかよ。だってさ、役所で良い具合に魔物狩ってくれそうなイケメン勇者が、抽選外れて男泣きしてるの見たし。全く勇者っぽくなかったぞ、あんなの。すごく可哀想だった。だからさ」

「頑張ってな……」と俯き加減に肩を叩かれたのを思い出しちゃったじゃねーか。「きっと大丈夫だ。俺たちの想い。世界の希望を君に託すっ!」そう彼は肩をプルプルと震わせていたっけな。

「あ、ああ……頑張るよ……」

 って重過ぎだろっ!


「もう、文句を言わないの!」

「もし、主人公選択式だったら、俺だけ余るんだろうなあ……」

 ダサいロボットとか変なバケモンキャラと同列にするの勘弁してくれよ。

「こいつ弱そうだから使うのやめとこうぜー!」「だな! 超ヘナちょこそうだし。超ダセえし」(by小学生談)


「どうでもいいが、本当○は昔からネガティブだな」

 ナイフはしまってくれたみたいで何よりだが、「なら死ぬか? え?」みたいな顔をするなよ。悪ぶる不良中学生かよ。

「やはり何か危ない薬でもやっているのか……?」

「どんな薬だよ、気分が落ち込む薬って。余計なお世話だよ。先天性病だよ。お前だってどうせ、嫌だと思ってるんだろ? 俺とパーティー組むのなんて」


「当たり前だ」


 きっぱり言ってくれるじゃねーか、ちくしょう。小石を蹴って、コントロールミスって、車に当てて知らんぷりしてやりたい気分だぜ。

「だが仕方あるまい。パーティーは三人一組って決まりだからな。私が入らねば、君とゆるりの二人しか集まらない所だった。ゆるりは人気者でヒロインとしてまさに文句なしだろうが、鈍な君が足を引っ張るお陰で、とんと人が集まりそうになかった。プラマイゼロといきたい所だが、君の負のオーラはゆるりの正のオーラを凌駕しているんだな、これが。そこで止む無く、幼馴染の私がご登場というわけだ。文句を言う前にありがたく思うんだな」

「えへへ。ありがと、あいちゃん!」

「ああ」

 あいがゆるりの頭を撫でる姿は、まあ、何というか……悪くない。

「見るな。変態」

「そう出る杭を打ちつけるみたいにはっきりと言ってくれるなよ。けどさ、男一人、女二人ってのも随分と都合良さげな設定だよな」

「今回はそういう趣旨の企画だそうだからな」

「なんだ、そういう趣旨の企画ってのは?」

「それを女の子に言わせる気かなのか、君は?」

「はあ?」

「つまり、最近はハーレム物というのが流行っているそうだ。おそらくその意向を役所が汲んだんだろう」

「ああ、なるほどな。ま、俺たちは幼馴染だからあんま関係ないけどな」

「……そういうのも込みで、私たちが選ばれたんだろうが」

「はあ?」

「はあ、はあ、うるさい!」


 ハア……ハア……って取りようによっては俺、変態じゃん!

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