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谷崎有華のフォト・フォルダ(Taken For A Fool)  作者: 枕木悠
第二章 アクセラレイト・ジャズ・タイム
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第二章⑧

 去年の秋。

 秋休み明けの、錦景祭の、三日間の準備期間。

 モチコトはモデルを探していた。モチコトがデザインしたドレスが似合う女の子。探していたといっても、それは被服部の先輩に対しての表情だった。もうずっと前からモチコトはモデルを見つけ出していたし、彼女のためにドレスを作成したと言ってもよかった。

 白水丸リリコ。

 モチコトは彼女を一目見たときから、気に入ってしまっていたのだ。

 それは春から。

 春に気に入ってしまってから、この思いを誰にも言うことなく、気付けば晩夏から初秋へ季節は移り変わっていた。

 一年ときはクラスが違っていた。学年のイベントなどで、リリコとすれ違うことはあったが、会話を交わしたことはなくて、ずっと遠くから彼女を見ながら、彼女に着せるドレスのことを考えていた。

 錦景祭において被服部は、毎年恒例、ドレスを作成し、モデルを選び、ドレスを着せて歩かせる。モデルを見た女の子たちのオーダを受け取って、被服部には潤沢な資金が舞い込むというシステムが出来ていた。当時三年生の先輩は三人いた。先輩たちは素敵な人たちをモデルに選んだ。だから、モチコトだって素敵なリリコをモデルにしたいって思ったのだ。

 でも、モチコトは面倒臭い性格だから、リリコに直接、モデルになって欲しいなんて、そんな愛の告白みたいな恥ずかしいこと、言えるわけがなかった。言えないから、図書室に住まう魔女、森村ハルカに頼んだのだ。リリコもその時は図書委員だった。だからそれとなく『被服部の上七軒モチコトがモデルを探している』っていうことを伝えて欲しいって頼んだのだ。モチコトはあまり期待をせずに、ハルカの仕事の成果を待っていた。

 そしてそれは錦景祭の二日前、黄昏時。

 様々な女の子たちが錦景祭の準備に追われる中、ドレスを早くも完成させていたモチコトはグラウンドのベンチに座って携帯ゲームをしていた。三年生たちは最後まで準備に余念がなかったから、あんまり真剣になれないモチコトは部室にはなんだか、居づらくて、外に出たのだ。

 その時にやっていたゲームは何だったかな。

 確か小人が世界の神々をハントするエキセントリックなゲームだったと思う。

 そんなゲームに夢中なモチコトの前に誰かが立った。

 画面が影で暗くなって、イラッとして、顔を上げたら、そこにリリコが立っていた。

 目が合って。

 睨んだ目の形も変えられなくて。

 困ったことを覚えている。

「ああ、大変!」リリコは大きな声を出した。

「……はあ?」モチコトは睨んだまま首を傾げた。「いきなり、何を、」

「コロボックルがぁ!」

 その声にはっとして、ゲームの画面に視線を戻せば、プレイヤが操作する小人が天神さんに食べられていた。

 遅かった。

 ゲーム・オーバの音楽が流れる。

「ああ、食べられちゃったねぇ、」リリコは笑顔でモチコトの隣に座った。「えへへへっ」

 モチコトは困った。

 何を話せばいいか、分からない。

 胸の中にはきっと、沢山彼女に伝えたいことがあるはずなのに。

 何も脳ミソに響いてこなくて、それは声に出来ない。

 こんな風に黙ってしまうことはきっと、良くないことだ。

 変なことだ。

 そう思うんだけれど。

 困った。

 駄目だ。

 どうしようもなくて。

 携帯ゲームから流れる安っぽいメロディはまるで今の自分みたいに素敵さの欠片もなくて。

「いいよ、」リリコは屈託のない笑顔で口を開いた。「私、モデル、やってあげる、ふへへ」

 リリコはなぜか上から言ってきた。

 でも、そんなこと気にならないくらい嬉しくて。

 自然に笑顔が出て。

 すぐに、こんな風に笑顔になるのは、気持ち悪いって思って強がった。

 この心理は未来から考えて、意味不明。

「はあ、何よ、突然、モデルやってあげるだって? どうして上から? 訳分からない、他にいくらでもモデルの候補はいるのよ、それなのに、アンタ、急に何? 初対面でしょ? いや、別に、モデルなんて誰でもいいけどさ、アンタだって、別にいいんだけどさ」



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