第二章⑦
黄昏は既に遠く。
錦景女子は夜の七時。
夜の七時になっても、ユウカとミドリとリリコの三人はモチコトのことを発見することは出来なかった。まず喫茶マチウソワレに行った。いなかった。次に音楽室に行った。一年生限定の軽音楽部の定期演奏会が開かれていた。そこには当然、いなかった。彼女はそれから、講堂に行って演劇部の練習風景を眺めた。体育館に行って、バレー部の古町の強烈なアタックを見た。古町の雄叫びが体育館に響いた。グラウンドに出て、軟式野球部の紅白戦を見ていた。監督である体育教師の日高の罵声が飛んでいる。「違う! そうじゃないよ、ここを、こう、こうするんだよ!」日高は変なポーズを繰り返して声を出し続ける。「だから違うよ! ここを、こうだよ!」
それから一度モチコトとリリコのクラスに戻った。そこにもいなくて、三人は被服部の部室に戻った。
「どこにもいないね、」ソファに座ったミドリが膝を抱いて言う。「もう帰ったんじゃない?」
「……そうなのかなぁ、」ミシンの前に座ったリリコの声は小さい。「もう帰っちゃたのかなぁ、私を置いて帰るなんて、考えたことないよぉ、私、もっちぃに何かしたかなぁ、」リリコは机の上の布を手にして目元を拭った。「このまま終わっちゃうなんて、嫌だよぉ、考えられないよぉ」
「リリコさん、考え過ぎですって、」ユウカは出来るだけ明るい声を出す努力をしてみた。「昼休みに私が二人の写真を撮りたいなんて言ったから、警戒しているだけですって」
「でも、私のことを置いて、行っちゃったんだよ、目が合って、もっちぃ、私のところに来てくれるかなって思ったら、行っちゃったんだよ、絶対に、私が変なことをしたから、嫌いになっちゃったんだよ、私、変な娘だから」
「あ、自覚はあったんですね、」ユウカは笑顔のまま言って、またやっちゃったって思った。「あの、その、すいません」
「え、なんで謝ってるの?」リリコはユウカの失言を拾わなかったみたいだ。スマホを弄りながら呟く。「……もう一回、メールしてみようかな」
「もう帰ろうよ、今日はもう、待ってても仕方ないっていうか、なんていうか、」ミドリが隣に座るユウカを見て言う。「ユウちゃんち、遠いから、早く帰らなきゃ」
「私は別に、」ユウカは首を横に振って、リリコを見た。「あの、私、リリコさんともっちぃさんのことあまり知らないから、だから、その、教えてくれませんか? 二人の恋の話」
「……聞いてどうするの?」リリコが涙目でユウカを見る。「聞いても面白くないと思うよ」
「報告書にまとめます、」ユウカは冗談を言った。しかし、冗談の精度が低かったみたいだ。ミドリは自分の爪を見ているし、リリコは『それで?』と聞きたげな表情をして涙目を擦っている。「……あ、冗談だったんだけどな」
ミドリとリリコは吹き出した。
そして。
「……私ともっちぃが出会ったのは、」リリコは笑顔になった。「去年の秋」