乗り越えなければ
「ピピピピピピピピ」
朝を告げるアラームがうるさく鳴り出す。
頭に直接響いてくるこの音は目覚ましとしては最適だ。
それでも夢の世界から僕が完全に引き戻されるのは1時間くらいたたないと厳しい。
例えどんなに開発された目覚ましでも僕を完全に睡魔から引き離すことは難しいだろう。
そう自信を持って言えるほど寝起きが悪いのだ。
だが、今日は早く起きなければならない。
TTOの会議の前に色々と準備があるのだ。
直前では心の準備も出来ないだろう。
母さんの寝室を覗くとまだ眠っているようだ。
起こさないようにするためにわざわざ目覚ましの音を僕だけに聞こえるように設定していたのだ。
普段は、あまりそんなことはしない。
なぜなら、ある一定のところに聞こえるようにすると寝相が悪い人は音が聞こえる範囲を越えてしまう可能性がある。
TTOの会議に参加することは、母さんには言っていない。
美麗に口止めされているし、直感的に黙っていることが一番良いような気がしたのだ。
僕は気づかれないようにゆっくりと家を出た。
冷たい朝の風が駆け抜けていく。
空は、快晴でここ数日で一番良い天気だ。
通行人はまばらで、運動熱心な人と、天気が良いからか会社員も何人か歩いていた。
待ち合わせの5分前には着いたが、やはり交差点にはすでに美麗が待っていた。
「おはよう。これからが本番。わかってるよね。」
念を押すような口調で言ってくる。
その声は、周りの風と同じ涼しく爽やかだった。
「ああ。がんばるさ。」
美麗に挨拶の仕方など、たくさん教えてもらった。
絶対に無駄にはしない。
タイムハーフで問題になった人物だから恨む人もいるかもしれない。
でも、乗り越えなければいけない。
強い意志を込めその視線を美麗に向け、笑ってみせた。