呟いた台詞
「やぁ!」
いきなりした声に、僕と美麗は同時に振り返った。
「高木 駿平?」
「ああ。そうだよ。よく名前覚えているね、話したことなんかないだろ。花園美麗さん。」
確認するように美麗の名前を強く言う。
美麗が一瞬眉間にシワを寄せる。
「あなたも名前覚えているじゃない?」
「当たり前だろ?成績学年一番で順位表に載っていたじゃないか。花園さんは俺なんて相手にしてないのかもしれないけど、俺は二番さ。俺にとってはライバルなんだ。」
美麗はあまり興味もなさそうに見える。
「ごめん、私は順位とか興味ないから。ライバルとか、あんまり思わないの。自分は自分、人は関係ないから。」
成績一番でその台詞…
一度は言ってみたいものだ。
「花園さんは、なんでもそう言って片付けてしまうんだろうな。人がどんなことになろうと、自分が良ければそれでいいんだよな。」
呟くような細い声だった、しかしその凍てつく声はしっかりと僕に届いた。
「じゃあ、またな。」
そう言うと笑った。
しかし、口元が左右対称ではない。
これは、無理矢理笑った時にしかならない表情だ。
「あ、ああ。」
呆気にとられ生返事になってしまった。
ふと、美麗の様子を見た。
走り去る駿平の背中を無言で見送っている。
その瞳は少し困ったようなそれでいてどこか悲しそうだった。
「じゃ、行くか。」
僕はそういうと再び歩きだした。
さっきの台詞は次の日にはもう記憶の片隅に追いやられていた。
この言葉の真実を知ろうともせずに。