始めて見る本心からの咲み
僕達が動かそうと思わなければ何も変わらない静寂の世界が依然として眼前に広がっている。
美麗は普通の様だが、僕はまだ慣れない。
人が普段怖いと感じる時は、異様な音がするからということも中にはあるだろう。
しかし、本当に怖いのは静と無だ。
1秒後にどうなっているのか全く予想がつかない、そして人を油断させる。
これが何よりも一番怖いのだと思う。
その時ふとあることを思い出した。
「なぁ、そういえばタイムトラベラーは時間を止めると疲れるんだよな?大丈夫なのか?」
「私は、もうタイムトラベラーになってから3年はたっているから時間への疲れには大分強くなっている。だから、これくらいはなんてことないの。」
「免疫があるわけか…」
「そーね。まぁ、正しくは時間移動性抗力。」
そんなことをあっさりと訂正されても知らん、とつっこみたくなる。
「それでも、疲れは最小限に抑えなければいけない。だから、さっき時間を止める時に強を掴んでいたのは、私達二人の時間だけは止めないから。自分を含めて特定の人に何かをするのは接触していた方が操作はしやすいの。」
「へぇー。」
そんな話は初耳だ。
「まぁ、強が私に触れられたくないなら止めるけど、私のこと嫌い?」
そう聞く声は少し不安そうに揺らいだ。
その様子に少し笑ってしまいそうになる。
こう言われて嫌いという人はいないだろう。
「嫌いじゃないさ。そんな理由がどこにあるんだよ?」
「それは……」
珍しい、美麗が言葉につまるなんてこれまでにないことだ。
そして、自分のことを嫌いかと聞くのも。
美麗は人がどう思うかどうでもいいのではない。
気にしていないと自分に思い込ませている。
「美麗が返事に詰まったぞ、あはは。」
軽くちょっかいを出して笑う。
「だって…」
そういうとまた何も言えずに困っている。
その姿がどうも滑稽で本気で笑いがこみ上げてくる。
そして、今普通の話をしているのだ。
これまでないんじゃないだろうか。
そう思うと、いきなり元気になったような気がしてきた。
「そんなことくらいで気にしないからさ。」
「そう。」
いつもと同じそっけない言葉に戻ったが、少し言い方が柔らかい。
「…ありがとう。」
静かにそう言うと美麗が少し咲みを見せた。
それは、僕が始めてみる本心からの笑いだった。
もう少し良い内容が良かったが、笑って話せた。
この事実がただ嬉しかった。
気がつくと校門の前まで来ている。
そして、次の瞬間世界はまた新たな時を刻み始める。
何があってもこの世界で生きていこう。
美麗がいるならどうにかなる。
そう思えた。