目は口ほどにものを言う
部屋から出るとさっきよりも人が歩いていた。
美麗を見ると礼儀正しく頭を下げて行く人が多い。
ランクの高さをあらためて実感した。
人が頭を下げていくごとに美麗がとても遠い存在の様な感じがして、何故かすこし空しかった。
すれ違う人は、誰もが珍しいものでも見るかのように僕を上から下まで見てくる。
少し警戒心もあるような目を一様にしていた。
お互い何も言わずに無言で歩いていると見覚えのある人がこちらに歩いてくる。
杉吉美香子だ。
僕達と同じく制服を着ている。
僕と美麗に気付くと目配せしてきた。
なにか言いたげないたずらっぽい表情がありありと浮かんでいる。
「こんにちは」
杉吉は、僕達の前まで来ると深々とお辞儀をした。
美麗は、その様子を黙って見ていたが一瞬僕を見てから杉吉を厳しい目で見た。
「あの…なにかありましたでしょうか?」
困ったように下から恐る恐る顔色を伺っている。
「松原強に私の情報を勝手に話したのよね。松原がそう言ってたけど」
杉吉が僕を不満そうに見てくる。
「ちょっ、まった、それは…」
言いかけた僕を美麗が軽く手で制した。
「申し訳ありません。ただ、花園さんが松原さんを信用してると思ったもので」
杉吉が美麗の目を一直線に見据えていた。
「違いますか?」
挑発的な言い方だ。
さっきまで恐れていたが、話の内容がわかったから恐怖心も消えたのかもしれない。
美麗の目が一瞬中をさまよった。
「そういう問題ではないの。誰にも許可なく言わないで。」
「はい。以後気をつけます。」
まだ美麗の部下だとこれ以上聞くことは無理なのだろう。
煮え切らない表情だが、渋々頭を下げると話を切り上げた。
ここまで露骨に表情を出すのも良くないだろう。
これでは、口で言わなくても表情でわかってしまう。
目は口ほどにものを言うというが、杉吉の場合は少し目が言いすぎだ。
「作戦失敗。」
耳元でそう囁くと冗談ぽく笑った。
美麗もその一言が聞こえたようだが、特に何も言わなかった。