冷ややかな目
「美麗」
声をかけた時だった。
また例の歪みがきたのだ。
時間がまるで停止しているように感じる。
「何か用?」
美麗はあまり興味がないようで、仕方なく聞いているような感じだ。
聞きたくないが、聞いてあげているというふうに見える。
「美麗逃げるの速かったな、訓練でも?」
そう問いかけた時、また警戒するような目で僕を見た。
「そんなこと…してないよ」
そう言いながらも微かに困惑したような表情を見せる。
これ以上聞かれたくはないようだから、話を変えることにした。
「今、なんか揺れなかった?」
僕の一言で美麗はこちらを向いた。
さっきの聞く気のなさそうな態度とは大違いだ。
「わかるの?」
「えっ?美麗もわかるのか?自分だけが感じているのかと…」
「誰にも言わない方がいいよ」
まるで僕のセリフを遮るかのように真剣な眼差しで言った。
「もう龍と健太には言ったんだけど…」
美麗は僕ではなくもっと後ろを見ている。
その視線の先を見ると、学級委員長に決まったばかりの赤川 緑がいた。
美麗は体育館の裏へ彼女を避けるように移動した。
僕もその後に続く。
「その人達はもう仕方がない。でも、他の人には言わないほうがいい」
淡々とした声が日陰の特有の肌寒さと相まってより一層恐ろしさが増す。
その言葉は、とても暗く重かった。
「なぜ?」
少し考えるような仕草をすると、僕の瞳を正面から見た。
「あなた自身のためだから。もし言ったら、不幸を招くかも知れない…」
徐々に小さな声になっていく。
「あなたの母親は誰?」
そう言いながら美麗は、僕から目をそらした。
「松原 杉子だけど…それが何?」
「松原 杉子?そうなんだ、あの人の子供なんだね…」
「えっ?何で母さんを知ってるんだ?」
「いつか話すよ。」
そう言って僕の目をまっすぐ見据えた。
心の奥底まで全て見られているような気がする。
その瞳は、驚くほど冷たい光を放っている。
ちょうど美麗が太陽の光と重なり、輝いて見える。
美麗は一瞬冷ややかな笑いをした。
「またね」
そう言うと、ヒラリと風のように行ってしまった。
「また一人、不幸な現実と闘う人が増えるのか…」
その最後の独り言を僕は聞き逃さなかった。
一人、体育館の冷え込む裏側でしばらくの間呆然と立ち尽くしてしまった。
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