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散りゆく桜から…

「大丈夫か。」


 唐突に美麗が呟いたことで我に返った。


「何が?」

「盗聴器はなかったみたい。」


 鞄に機械をしまっている。


 あれは、確か盗聴器を感知する機械だ。

 何かあった時に証拠物件として使うために持っている人もいる。

 極々少数派で、僕もCFコンパクトフィルムでしか見たことがない。

 考え事をしている間に色々調べていたようだ。


「もう帰るね。」


 いきなりそう言うと、すぐに立ち上がる。

 見送りをするため僕も玄関に向かった。


「組合長に挨拶に行く日はまだ決めてないから後で連絡する。」

「分かった。」

「今日はありがとう。スパゲッティーおいしかった。」

「あっうん。こちらこそありがとう。」


 お礼を言ってきたことに少し驚いた。

 美麗は黙ったまま、帰ろうとドアを開けようとした。


「美麗。」


 僕は叫ぶ様に呼び止めた。


「例え母さんと美麗が敵になったとしても、僕は絶対に美麗を裏切らない。」


 驚いた様な、動揺した様な表情をした。

 始めて見る10代の少女の反応だった。


「美麗…」


 僕は小さく呟いた。

 美麗はいきなりドアを大きく開け放つ。


「あの桜のようにあんなに満開だったものが気が付いたら散ってしまう。どんなに誓った言葉もしだいに消える。私は、信じられない。絶対という言葉を。」

「信じなくてもいい。いつか、必ず証明して見せるさ。」


 美麗は何も言わずに家から出た、暖かい風が彼女の髪を優しくなでている。


「ねえ、強って呼んでいい?」


 美麗は向こうを見たまま唐突にそう言った。

 いきなりだったから、驚きもあったが、始めて僕に心を開いてくれたような気がして嬉しかった。


「もちろん。」


 美麗は返事を聞くと、何も言わずに静かに歩いて行った。

 僕は花が少し残っている桜の木をいつまでも見つめていた。



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