役割
「他に何か聞きたいことは?」
美麗がそっけなく言う。
「僕の父さんとは会ったことあるのか?」
「ない。でも、私のことは知っていると思う。私は有名だから…」
最後の方はまるで呟いているようだった。
悲しみが美麗の表情に表れていた。
有名なのはいい意味ではない…
悪い何かがきっとあったんだ。
だから多分狙われているんだ。
そう直感したが、尋ねる気には、なれなかった。
だから僕は話を変えることにした。
「僕がいてはいけないと思うか?」
「…思わない。この世界にいてはいけない人なんていない。何かをするためにみんないる。使命みたいなものがある。あなたにしか出来ないことをするためにいる。」
「僕の使命は何なんだろう?」
「きっとわかる日が来るよ。分かったら、精一杯果たすのね。普通は存在するはずじゃないあなたは、世界を変えるような役割があるのかもしれない。あなたは必要だわ。きっと…」
励ましているのだろうか。
いい聞かせるような穏やかな優しい口調だった。
「そろそろ帰るな。もう暗いし…」
「そうね…今度、TTOに連れていくわ。」
「え?なんで?」
「その方が安全だから。また来て…その時に話すから…」
「僕の家に来いよ。土曜日か日曜日の昼間に。」
「土、日の昼間?なぜ?」
「特製スパゲッティーを作るからさ…僕、料理得意なんだ。」
美麗は少し驚いた顔をした。
「そう。あなたって…すぐに人と仲良くなれるような人なのね…」
「そうかな?」
「だってまだ会って3日だし…」
「そうだな…」
普通に話せばそんなに怖くないと気付いた。
「再来週の土曜日…」
美麗は呟くように言った。
「ああ。それじゃまた。」
僕は手を振りながら道を歩く。
帰り道は現実に引き戻され、何かから逃げるように走った。
空にはいつもと変わらない星が輝いている。
「変わっているのは、宇宙全体で見たら、本当に小さいんだな」
僕は独り言をポツリと、眼前の空に向かって言った。