掟破りの母
その名刺は偽造されないように加工されているようだ。
文字は立体的に浮き上がって見える。
紙面全体が黄色と緑の中間のような色合いに菜っている。
日光が当たらない場所に名刺を置くと、紙面が白になった
微量な光に反応し、変色するのだ。
最新のコピー機を使ってもこの微妙な色合いにはならないらしい。
このような仕組みは聞いたことがある。
それにしても、名刺でわざわざ偽造出来ないようにすることは聞いたことがない。
「名刺で偽造防止するんだな。普通はお金もかかるしあまりやらないよな?」
「TTOは本人に実際に会ったことを名刺を持っているということで証明したりするから。」
「なるほど。」
Time Traveler Organizationと書いてある下に、9の下対策係花園美麗と書かれてある。
「9下対策係ってのは何?」
「9下っていうのは、私のランク。1~10まであってその中に上と下がある。いわゆる、身分みたいなもの。対策係は、何かおきたときに対処する係。係は8以上の人しかなれない決まり。」
「他にはどんな係があるんだ?」
「情報収拾係、警備係、資金管理係、設備点検係、教育係、会議担当係。8以上の人はこのどれかに割り当てられる。係は全てTTOの中心にいる人達が決める。その中の中心人物が組合長の青井良彦さん。一番トップの方よ。」
一気に多くの情報が入ってきたために少し混乱してきた。
「僕の母さんとはもしかしてTTOの仲間だから知り合いとか、そういう関係?」
「そう。」
美麗はそれだけ言うと、いきなり立ちあがり、引き出しから写真入れのようなものを持ってきた。
僕の前に再び座ると持ってきた分厚いものをめくり始める。
それは名刺入れのようだった。
そこから一枚の名刺を取り出すと、僕の前に置いた。
それは僕の母さんの名刺だった。
その時、母さんのランクを見て驚いた。
「5の下…」
美麗の方がランクが高い。
僕の様子を見て、驚いた理由がわかったようだ。
困ったような表情を一瞬したが、言うと決心したように話しだした。
「あなたのお母さんは私達の掟を破った。だからランクを下げられた。」
美麗は少し言いにくそうに静かに次の言葉を言った。
「本来ならこの世に存在しない人が、存在するようになってしまった
美麗はそこで言葉を切り、じっと僕の目を見ると言い聞かせるようにゆっくりと言った。
「いるべき人じゃない人。それは…松原強。あなたよ。」