あなたは気まぐれ
皆さんこんばんは、常盤春人です。もうこの挨拶やめていいかな。
地球と人に優しくをモットーに今日も元気に頑張りました。
今俺は学校が終わり帰宅している真っ最中。部活?今の所はしてません。家に帰って飯を作って食べるという業務に追われているので。
「はあ」
あと少ししたら駅に着くだろうというところでため息が漏れた。今日は何か、その、すごい疲れた。
亡霊同居生活一日目だもんねー慣れないことばっかで疲れるわ。とりあえず今日のことを簡単にまとめると
朝はワープで登校して授業中に浮遊してるやつらを見ながら授業受けてラストは担任教師の異常な趣味を知ることに。はっきり言ってキッツイわ。
「まあまあ、そう思いつめないでよ」
「なやみごとー?」
心配してくれてありがとう。だいたいお前らのせいだがな。
ヘルプメッセージ第四話
あなたは気まぐれ
ニヤニヤしてる迷い家とヘラヘラしてるハライソが俺の左右について浮遊している。お前ら本当に笑顔が尽きないよな。いつも楽しそうにしている、という点については少しだけ羨ましいと思えた。まあ迷い家の場合は俺の考えてる事がおかしくて仕方ない、とか思っていそうだが。
「いやぁ春人君。初日から素晴らしい結果だよ」
さっきからニヤニヤと浮遊していた迷い家が口を開いた。ニンマリと曲げられた目には俺がかすかに写っている。
人を嘲笑っている気がして少々不愉快かもしれない。
「何が」
少し不機嫌気味に言葉を返す。そんな俺を見てまた楽しそうな顔をするコイツは、おもむろに体温計を取り出し俺に見せつけてきた。
「着々と悪いことが溜まって言ってるってことさ。今日の朝のワープでメモリが上がって、最後ののぞき見でも少し溜まったんだ」
確かにその水銀体温計はほんの少しだけ銀色の部分を増やしている。
「でもさぁ、本当はもうちょっと多かったんだよ?でも君が落ちてるゴミを拾ったりおばあさんの荷物を持ってあげたりしてくれたおかげで、だいぶ下がっちゃったんだ。これだから善人は困るよ」
そんなこと俺の勝手じゃあないか。いきなり悪いことを貯めろと言われたって普段してることをないがしろにはできない性分なんだよ。
迷い家は呆れたように首を振り、ため息混じりにメガネを指で押し上げた。
「ゆっくり、ゆっくりでいいからねー?」
気がつくと後ろには満面の笑みのハライソ。今日一日コイツが軽く癒しだったから困る。
迷い家がそういうこと言ってたらいつまでたっても終わんないよーと言ってくるが無視する。
自分でもいきなり溜まるだなんて思ってないし、いいじゃないかゆっくりで。
焦ったところでどうにもならないしお前らもそんな急いじゃいないんだろ。
「それを言われると少し弱いな。まぁ長い亡霊人生の暇つぶしさ、付き合ってよ」
迷い家は困ったような顔を作ると、横目でちらりと俺の方を見た。
それは別にいいんだが、あくまで俺の家に住み着くつもりなんだな。
それはそうと本当今日は色々あった。うん、まず朝のワープ。これは役に立ったから言及はしない。
問題はのぞき見の方なんだ。担任教師がストーカー、か。いや、だからと言って俺がどうこうできる話じゃないし
証拠もないから自首をすすめることもできないし。そもそも一生徒のさじ加減でどうこうできる問題じゃ、ない。
「案外君は臆病なのかな?」
迷い家が生意気な言葉を漏らす。
「いや、俺があーだこーだ言うのもおかしいと思ったし。こういうのは本人が反省しないとなぁ」
そもそも証拠がないんだよ。いきなり言ったってな。
「証拠なんて作っちゃえばいいんだよ。たしかあの先生の家は、この辺だったね?」
くるりと目の前に立ちふさがった迷い家はまっすぐに俺を見ていた。
「個人情報は見んなつったろ」
「そんなこと言われたっけ」
首をかしげるこいつを軽く、その、殴りたいと思った。
「ぼくもさんせいー」
ああハライソ、お前もそんなことを言い出すのか。
「だって、きみがしってたほうがいいかなって」
ふわりと夕方に舞う白い影。ちなみに彼の服装はYシャツのみ。下を履け。
先生探すつったってまだあの人帰ってないだろうよ。
「何を言ってるんだい春人君。あの人はいつも早く帰ってしまうんだろう?」
さも当たり前のように迷い家が真顔でほざく。このやろうそんなことまで調べてやがったな。
「俺にできるのはここまで。道案内はそこにいるハライソくんがしてくれるってさ」
迷い家が指さした先には満面の笑みを振舞う一人の天使のような少年。
彼はおいで、とだけ言うとふわりとどこかへ飛び去ってしまった。
「ちょっと、まっ」
どんどん遠ざかる彼に謎の不安を感じた俺は
しばらく考えてから彼の後を追いかけることにした
ま白い彼を追いかけて何分くらい経ったろう。俺の息は切れ切れで汗も流れてきた、日頃の運動不足を容赦なく思い知らされる瞬間。結構辛い。
そろそろ倒れ込むんじゃないかと思った時ふとハライソが動きを止め、俺の前にふわりと舞い降りてきた。
何。そう言おうとしたとき隣にくっついて飛んでいた迷い家がしーっと言いながら口の前に人差し指を置いている
ふと目の前を見るとそこにいたのは
ぼっさぼさの髪の毛、死んだ魚みたいな目。間違いない櫛方先生だ。
「うっ、だろ。本当に」
そう小さくつぶやきそうになったとき二人の亡霊に静かにと怒られた。
櫛方先生はこちらに背を向けてたっていた。というのも塀に隠れてどこかを見ているのを後ろから見てしまったらしい。少し間抜けな図だ。
迷い家がねえねえと指を指す。何かと思ってそちらを見ると、どうやら先生のズボンのポケット指差してる。
そこからちらりと見えているものはどうやら鎖のようだ。
どうやら鎖のようだ!
これはいよいよのっぴきならない状態になってきましたぞこれは。先生!早まるな、それやっちゃうとさすがに
それをしてしまったらさすがにあかんのとちゃいますの!え?
「何か突然関西弁になるよね君」
引き気味に俺を見る迷い家を無視して頭をぐるぐる回す。回してもいい考えは浮かばなんだ。
「こっち、はるひとくんこっち」
俺の手をぐいと引っ張ると、先生が見てる方とは正反対の方向に連れ出される。
どこに連れゆくつもりなのか?
「だいじょうぶ、ほんとうをみにいこう?」
ふわりと笑いかけるがその笑顔に少し不安を覚える。本当とはなんだろう?手を引かれるままに連れて行かれているがこの子はもしや、追われてる側と俺を引き合わせようとしているのかもしれない。それは、それは危険なんじゃないか?先生の視界に俺とその女性を写してしまったら俺もその人も両方危険なんじゃ。
反対にでもそのおかげで今日は諦めてくれるかもしれないという甘い考えがよぎる。
夕方のてる道を手を引かれて一心に走る、走る、走る。彼の言う本当を見に、横にいる黒いやつの明かさない本当をこの目で見るために。
どれだけ走ったかわからないほど走ったと思ったときに突然手を離される。ぐらりと揺れた体が傾いてそのまま前に倒れ込みそうになった、なんとか体制を立て直し辺りを見回す。手を離したということは本当がそこにあるのか
「にゃあ」
足元からなんとも気の抜ける可愛らしい鳴き声が聞こえた。下を見るとそこには
「猫?」
黒い毛並みの青い色した目の猫がいた。なんだおまえ、と猫を持ち上げてみる。猫は無抵抗でびろーんなんて効果音が似合いそうなほど間抜けだった。
「常盤?」
すぐ後ろから先生の声がした。
後ろを振り向くと先生はぽかーんとした顔でこっち見てる。ものすごい見てる。
「お前その猫、どうした」
「どうしたって、その。いたんで」
「あーなんだよこの野郎。俺はダメで常盤はいいのかよコノヤロウ」
先生は音もなくこっちに近づいてくると猫に向かって
「ずっと探して追いかけてきたのは俺なのに」
その猫は俺に抱かれているときはおとなしいのに先生に受け渡そうとすると激しく嫌がった。
先生はどうしてもその猫を自分の家に連れて行きたいらしく、俺ごと家にあげた。
「先生この猫を探してて学校早く帰ったり塀に隠れたりしてたんですか」
気になっていたことを先生にぶつけてみる。まさかストーカーって猫を追ってるだけだったのかよ。
「うん」
先生は説教されてる小学生みたいに正座して頭をたれていた。そして死んだ目だけで俺を見るとぽつりぽつりと語りだした。
「あのな、その猫はな。先生の昔の恋人の猫なんだ」
「昔の?」
「うん。今はもういない、事故で死んだ」
先生は俺をしっかりと見据えながら淡々と話していた。
「先生な、恋人の遺言も聞いてやれなかった。だから俺の次に可愛がってたこの猫だけは大事にしてやらにゃならんなと思ったんだが。こいつ脱走しまくってな。もしもの時のために付けておいた監視カメラのおかげで場所の特定なんかはできたんだが捕まえられなくて」
先生は少し視線を下げるとしょげたように目を伏せると、いきなりわっと泣き出した。
「なんで死んだんだよぉ朱美ぃ!さみしいよう!」
うずくまって泣いている先生をとりあえずなだめてみる。
「ほら、先生泣かないで。泣いてるとほら、天国の彼女さんが心配しますよ」
「心配してんなら戻ってこいよう!」
あーこれもうどうにもならない予感。どうしようかと悩んでいると、先ほどのあの猫が先生の隣に座った。
「ほら先生、猫ちゃんが心配してくれてますよ!」
「んだよぉアザミー今更なんだよ」
猫は呆れたように先生を見たあとにゃあとひとつ鳴いて目を伏せた。
先生はまたわっと泣き出すと猫を抱きしめながら
「そばにいてな?そばにいてな?」
猫はまたにゃあと鳴いた。猫のおかげで俺は慰める必要はなくなったかな、と思い目を違うところへやると
机の上に大量の手紙が置いてあるのを見つけた。
「先生、あの手紙」
「ん?ああ、毎年出してるあいつへの手紙」
先生は泣きはらした目をごしごしと拭きながら答えてくれた。
悪く言ったら未練タラタラ。でも良く言うなら
「先生って一途なんですね」
初めてこの先生が可愛らしく見えた。
先生が泣き止むまで時間が掛かり、やっと解放された時はどっぷりと夜だった。
「ただいま」
やっと帰ってきたいとしの我が家。
「おかえり春人君」
「おつかれさま」
二人の亡霊は一緒に帰ってきたのにおかえりと言った。でもこういうのも悪くない。
軽い飯をこしらえて食べる。その頃の時刻はもう九時を回っていた。
「あの猫先生のそばにいてやってくれるかな」
ふと青い目が脳裏をよぎる。
「しばらくはだいじょうぶだって」
ハライソがドヤ顔してる。俺が先生の話を聞いてる時猫と話してたのかな?この子ならありえる。
そんなことより、だ。
「迷い家、お前知ってたろ」
「なんの事かな?」
「とぼけんな、全部知っててわざと連れてったろ」
「ま、正直に言うとね?あの先生はあの猫を探してて、探すために監視カメラつけて夜道で探してたのさ」
迷い家は部が悪そうな顔で話しだした。
「人間観察ってのは?」
「生徒をよく見てるってことさ。一人一人の性格も名前も理解できるいい先生だよ」
飯を食い終わって食器を下げる。ポツリと言いたかったことを言ってみる。
「あのさ、俺の悪いことって全然溜まってねぇんだよな」
「そうだね?」
「で、お前らの力使うと溜まる」
「だから?」
「今日思ったんだけど。俺はお前らの力を人のために使いたい。どんな形であれな」
しばしの沈黙。振り返ると亡霊どもはふふっと笑い
「なるほど君はそうやるのかい」
「馬鹿にするか?」
迷い家はしみじみと笑い、ゆるゆると首をふり
「いや、しないさ。君のような奴がいたっていいさ」
ハライソは嬉しそうに
「きみはほんとう、よいこだね」
と笑った。






