非常に遺憾である
「好きです、俺と付き合ってください!」
頭を下げ、右手を突き出す。人生何度めかの全身全霊をかけた告白。
彼女は今、どんな顔をしているのだろう。俺は黙って返事を待つ。顔から火が出そうなほど恥ずかしいのにたらりと流れるのは冷たい汗だった。手が震える。
しばしの沈黙が流れたあと、彼女は柔らかな声で言った。
「常磐君って本当にいい人だよね」
どちらとも取れないその言葉に戸惑い、少しだけ顔を上げる。そこには笑顔を崩さない彼女が。
「でもね、そんな優しい君だから恋人になるのが怖いんだ。だから、ごめん、ね」
優しすぎる否定の言葉を聞いたとき全て終わってしまったのだと確認した。
俺はゆっくりと顔を上げる。
「そっか」
「ごめん、本当にごめんね」
「いいんだ。話聞いてくれてありがとう」
彼女が無理をして笑っているのがわかる、その目には微かに涙が滲んでいた。
「君の気持ちを受け止められないほど弱い私だけど、よかったら、友達でいてくれないかな」
俺は、頭を掻きながら笑ってみせる。
「もちろん!」
彼女はそれだけ聞くと今にも泣き出しそうな顔で
「あり、がと。ごめんなさい!」
とものすごい速さで走り去ってしまった。
こうして常盤春人十六歳、春の恋は終わったのだった
とか、自分でナレーションつけんのも虚しいわ。
これで俺がフラレたのは六回目となる。
「帰ろ」
一息ため息を着くとさみしさと切なさと空腹感がいまさっき空いた心の穴を埋めていく。
たしか一回目の時は「春くんってーいい人だけど刺激たんなーい」と言われ二回目の時には
「いい人なんだけどねー」と言われ。
なんだけどねーってなんだよこのやろういい人だったら付き合ってもいいんじゃないですかね!
そっかそうだよね、いい人イコールどうでもいい人だもんね!もう仕方ないね!見返りなんて求めませんわよ本当にもう。
でもさー何がいけないんだろうねー日頃の行いの良さなら誰にも負けないのに、エコバックだって持ってるし
お年寄りには席譲るし人に暴力なんてふらないし、友達の相談もよく乗るし。恋愛関係の相談にだって乗るますよ?その場その場で的確なアドヴァイスしてさ。で恋愛関係の相談俺にすると必ずうまくいくから最近は恋愛神とか言われるようになったし?
当の本人がフラれてちゃいみないんだけどね!
もういいおうち帰る、おうち帰って枕に頭突っ込んでねる。
そんなこんな考えながらうつむいて歩いてたらいつの間にかマンションのエレベーター下りて家の前。
今日両親二人共出張中だし誰もいないことはわかってるけど
「ただいまー」
っと癖で言ってみたり。あーなんかこんな時に「おかえりなさい春くんっ」なんて言いながら出迎えてくれる可愛い女の子とかいたらなーなんて馬鹿なこと考えたりなんかして。
「お帰りなさいあなた、お風呂にする?ご飯にする?それともわ・た・し?」
「えっ?」
は?
「おかえりーまってたよぉ?」
「えっ」
一瞬の現実逃避を全力で吹き飛ばしてくれる二つの声。
あれ?おかしいな、両親はいないはずバッと顔を上げると目の前にいたのは二人の男。
「ど、どちら様ですか?」
「やだー忘れちゃった?」
とか言いながら品を作ってる黒縁メガネの男。いやいや知らないよあんたみたいなの。
何かしたかな?俺なんかしたかな?一夜の過ち的な?オカマと?
「ま、ぶっちゃけおはつなんだけどねー」
と言ってくれる巻き毛のワイシャツ一枚男
ですよねー良かったーじゃないよ。
「だからどちら様ですか?その、警察呼びますよ」
「警察とか呼んでも無駄だと思うけど」
「それはどういった意味で」
「だってぼくらおばけだし」
「えっ」
「ちょっと俺らの足元見てもらえます?」
恐る恐る二人の足元を見てみると...なんか、浮いてる。
浮いてるよ、ふわふわしてる。
俺は突然のバーゲンセールによりパニック状態に陥った
イヤァーッ
ヘルプメッセージ
第一話 非常に遺憾である
さっきの俺の絶叫によりお隣さんが心配して見に来てしまった。
焦りながらもなんとかお隣さんに帰っていただき、事なきを得た。
しかしながらお隣さんにこの二人は見えてなかったらしくノータッチだった。
いきなりなんなんだ、これは。
とりあえず俺はこの変人幽霊二人を自分の部屋に引きずり込んだ
「おー春ちん積極的ー」
「からかってんじゃねーよ、説明しろてかなんで俺の名前」
「説明、説明ねー」
面倒くさそうにメガネの淵をくいっと上げている。
「まァさっきのあれでよくわかったと思うんだけど、俺たちは俗に言う亡霊ってやつなのね」
「よろしくー」
「んでー最近ここら辺ぶらぶらっとしてたら君を見つけたんだよトキワハルヒコクン」
「クン」
メガネの言うことを復唱してる巻き毛、自分の意見を持てよ。
「で、なんかコイツおかしいなーって思ってちょっと君のこと調べてたんだけどさ。あ、名前はその時知ったんだけどね」
「ごめんねー」
「ここから先は君のこと少し見てた俺らとしての見解なんだけど。あ、ストーカーと呼ばないでね」
「もうお前らが亡霊と分かった時から何があってもおかしくないとは思ってるけど」
「飲み込みが早くてよろしい」
「嬉しくなんかないんだからね。いいから早く見解とやらを聞かせろ」
ぶっちゃけ怖い。なんで俺が亡霊にストーキングされなきゃいけないんだもう泣きたい。こんな日に限ってなんでこんなことに。
「君さ、日頃の行いが良すぎてこのままだと天国にも地獄にも行けないよ」
「いけないよー」
「えっ」
なんてこった。俺の冒険はここで終わってしまった。
っじゃねーよ
「何それ超理不尽!」
「うんー、なんかねーすごいことしたわけでもないしだからといってわるいことなんもしてないし」
「生まれてから今まで悪いことしてない人間でいろんな人から感謝されてるけど運のない君は天国の利益にも地獄の利益にもなれないんだよねー、はっきり言うとプラマイゼロ過ぎて扱い方わかんない的な」
どことなくのんびりとしたその二人の宣告は俺にとってあんまりにも衝撃的すぎて、頭ん中は真っ白です。
「どっちにも行けないとどうなんの」
「真っ白な空間を漂う的な?」
「はっきりしろよ!はっ、でも偉業を成し遂げたら天国に」
「きみひとにゆずっちゃうから、むりー」
「だめだこりゃ!」
なんで好きな子にフラれて亡霊にストーキングされて尚且つ天国にも地獄にも行けないとか言われちゃうんだろうか!もうわけわかんない、なんで自殺してないのにリンボ漂わなきゃあかんのん?
「泣きたい...それだけ言いに来たんならもう帰ってよ、泣くから」
「ふふん、そんな君に吉報があるんだ」
「え?」
「ぼくらがーきみのことてんごくか、じごくか、どっちかにいけるようにしたげる」
舌足らずな彼の言葉が届く。えっ天国か地獄かって行けるのは嬉しいんですけど
「どうやって?」
「そうだねーとりあえず悪いことメーターでも貯めようか」
「それ地獄行くじゃん」
「わからないよ?もしかしたら天国への鍵になるかもしれない。かけてみようよこのチャンスに」
死んでからのことなんてわからない、俺はこの亡霊たちに騙されてるのかもしれない。でもこの時の俺の思考回路は度重なるパニックによりショートしてしまったらしく
「分かった、かける」
と言ってしまったのである。
「了解。じゃあこれから宜しくね春人君」
「えっ」
「きょーからぼくらここにすむー」
あ、やっぱりそうなるんだ。困ったときだけ助けていただくわけには...いかないんだよねー
「俺の名前はご愁傷様くんって言うんだー」
「長いね」
「ま、その他にも悪魔とかルシファーとかいろいろあるから好きなように呼んで」
先程から俺のことをからかいやけに説明口調だった男は黒縁メガネをかけた女顔でまつげが長く、頭の髪の横から小さな羽をぴょこんと出していた。俺はコイツのことを、迷い家と呼ぶことにした。理由はなんとなく、浮世離れしてると思ったから、ということにしておく。マヨイガの意味もあやふやだ
「ふえぇ、ふええ、おくすり、おくすりないの」
「えっ何、急にどしたん」
「あ、あの子薬中なんですよお薬ないとダメ系の。ほらはーちゃんお薬なら自分で持ってるでしょう」
「うわ」
「あ、ほんとー」
巻き毛の彼は薬中らしい、危ない匂いがする。色の薄いクシャクシャの髪の毛に真っ黒い天使の輪みたいのがついていて、手足は骨みたいに細い。俺はコイツをはらいそ、と呼ぶことにした。理由はまよいがの野郎がはーちゃんとなんとなく呼んでいたから、という事にしておく。
はは、大変だなー。これから俺どうなるんだろ。