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未成年なのと明日も早くからロケがあるのを理由に、打ち上げをパスしてホテルに行った。するとそこには遅い夕食をとる西川一家の姿があった。終わるのが遅いし、どうせ夏休みだ。日帰りではつらいので、泊まることにしたのだろう。しかし、同じホテルだったのか。
「優君!」
ご主人に抱きしめられた。続いて夫人に。心臓が熱くなる。
「・・・ありがとう。」
二人は声を詰まらせ、それ以上何も喋れないようだ。
「いえ・・・来て下さってありがとうございます。・・・あれが僕の精一杯です。」
全く、口下手なのが嫌になる。
さとみと目が合った。ニコッと笑われ、曖昧に微笑んだ。さとみが後ろをちらりと見遣る。その視線を追った。レストランの奥の方に、笹井と小森、浜原、それに松田と山野、あと二人同級生の女子がいた。
「お前ら・・・。」
七人中三人は設楽が招いた。
「びっくりした?」
松田がにっと笑う。
「ああ・・・来てくれてたのか。」
「うん。『NONTITLE』、いい曲だろ?」
ん?「だろ?」って。何で?
「あれ、俺らが作ったんだ。」
「え・・・。」
「正確には俺らがベース作って、OCEANSが手を加えた。」
OCEANSが?
「お前が入院してる間さ、杉田さんが会いに来てくれて。いや、マジでビビったけど。お前のために曲が欲しい・・・設楽を一番よく知ってる俺らの力を借りたいって。いやー、プロってすげえな。いろいろ勉強になった。」
「あれ、歌詞は俺と笹井と浜原なんだ。」
山野が自慢げに言う。笹井は照れたようにそっぽを向いた。そうか、あのデモテープの声は、松田。
山野が呟いた。
「『NONTITLE』ね・・・。本当、お前らしいよ。」
松田と山野には協力してくれたお礼として、OCEANSからチケットが送られてきたのだという。あとの女子二人は、たまたまチケットが当たったらしい。
「ホテルの部屋もみきちゃんと部屋一緒にできるから・・・。」
ねー、と小森達は三人で笑っている。
笹井が近づいてきて、素っ気なく言った。
「良かったよ。・・・お前で。」
設楽は目を見開いた。
「うん・・・ありがとう。」
涙は出ない。晴れやかだった。疲れもとんだ。
「いい友達だね。」
設楽の後ろで高橋が微笑んだ。
「でしょう?俺の宝物です。」
以前と同じ日常が戻った。雑誌に騒がれることもなくなり、仕事も忙しい。結局あの歌はコンサートのDVDからはカットされ、CD化もしないことになった。一度きりだった。けど、きっと届いた。満足だった。あの歌を歌ってから、気持ちに整理がついた。周りからは、何か男らしくなったね、とか、大人になったとか言われる。ちっともそんな気はしないのだけれども。
ひとみのはめていた、サンギェから貰ったブレスレットは、かなり迷ったがさとみに渡した。さとみは笑顔で受け取ってくれた。
ひとみとよく似ているのだけれど、どこか違う。短く切った髪のせいばかりではない。その笑顔に、設楽も笑顔で返した。
人を愛するのが怖くなるかと思っていたけれど。
「ずっと・・・愛してる。君のことが、好きだ・・・。」
虚空に向けて呟いた。空の青が眩しい。雨上がりの冷たい風が頬を撫でた。
少し離れた場所に、撮影用のセットがある。やっと雨が上がった草地でスタッフが忙しく働いている。
右手を頭上へ伸ばし、白い太陽ごと風を掴んだ。
演じることは、得意だ。
脱力して握った手を開くと、テーブルに放り出していた台本を掴み、戻っていった。




