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不幸の天才、至福の凡人  作者: 沖津 奏
第4章 Nostalgic clover
40/44

40 ステップ

 世間ではお盆真っ只中。コンサートホールには何千人もの観客が集まった。こんな大勢・・・。FLAGのメンバーは緊張していたが、OCEANSは慣れているようだ。それでも過去最大規模。豊田はさっきから人の字を飲み込んでいる。

「本番用意お願いしまーす。」

 人の熱気が溢れる。OCEANSのメンバーはラフな格好、FLAGの四人は全身黒の長袖のワイシャツ、ネクタイ、長ズボン、靴できめている。つばのある黒い帽子には、白いテープが一周巻いてある。


 歓声が耳をつんざくようだ。OCEANSの人気がこれほどまでだったとは。ダンスメンバーの名前を公表しているので、もちろんそっち目当てに来た人だっているだろう。けれど、彼らの歌はそれさえかき消すほど魅力を感じる。

 もう何も考えていられないくらい必死だった。次の動きがどうとか、もう頭では分からない。なのに体は動く。自分の体だけが頼りだ。

 午後五時に開演で、休憩を挟みつつ二時間半行う。途中にメンバーのトークやゲームを入れるのでぶっ続けではないが、それでも体に限界がきそうだ。もう何日も三時間程連続で踊るのは慣れているはずなのに。

 休憩で舞台袖に引っ込んだ時、体中がびしょ濡れだった。雨に打たれたのかというくらいだ。ああ、着替えたい、と思いつつ、失われた分の水を補給する。

「ああ、やばいなあ。これ、本当に俺達のコンサートなんだぜ。」

 荒い呼吸をしながら杉田が水を飲む。興奮しきってヒューズが飛んだような雰囲気だ。空気に酔っている、とでもいうべきか。異様なオーラに気圧されて小平が一歩さがった。

「ああ、気にしないで。こいつ、興奮しまくると完全にただの変態みたいになるから。ほら、皆ひいてるだろ。自重しろよな。」

 豊田が杉田を何とかなだめようとするが、あまり効果がなかった。やれやれと首を振って、後半もよろしく、と設楽に笑いかける。その時、ホールのブザーが鳴り響いた。



 ついに最後の曲だ。最後はOCEANSのデビュー曲にして永遠のヒット曲とまで言われた『大海へ誘え』だ。メンバーが、あの頃は俺達も若かったんだよ、という程に眩しい曲だ。ダンスにも修正を加えて新バージョンとしたが、実は一番キツいダンスだ。疲れた中では足が上がらない。

 だが、歓声と共にギターが鳴る。ヒロが後ろを向いて、FLAGの四人にガッツポーズをしてみせた。まるで子どものような元気と無邪気さ。手足に力が入る。

 これで最後だ。小平は疲れを感じながらも設楽にウインクしてみせた。設楽が笑い、他の二人もつられて笑った。豊田はそんな四人を見て目を細めると、再びフレットに目を向けた。


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