36 再会は
設楽は屋上のソーラーパネルの支柱に寄り掛かって座っていた。冷静になってみると、笹井は正しかった。ひとみがいなくなってから、俺はどうした?あいつを求めるだけだった。何もしていない。
「設楽、ここだったか。探したぜ。」
浜原がいた。何も言わず、隣に座った。
「笹井な・・・あいつもあいつなりに心配してるんだよ。何つったらいいか分かんねえけど。・・・確かにお前の気持ちは俺らには絶対分からない。人の気持ちなんてものはな・・・。けど、笹井が言ったことも正しいぞ。お前一人が悲しいんじゃない。」
「違う。」
設楽が遮った。
「違うんだ。・・・笹井が言ったこと、本当は全部正しいの分かってる。俺は何も出来ない・・・。やっぱり、俺じゃひとみに不釣り合いだった。」
浜原は設楽にデコピンした。いてっ、と声がする。
「お前は知らないと思うけど、雑誌に書かれてた。お前、ひとみに大丈夫だって言ったんだろ?・・・悪い、思い出させちゃったか。泣くなよ。・・・それ見てなあ、笹井、言ってたよ。ひとみと一緒にいた奴がお前で良かったって。」
設楽は潤んだ瞳を向けた。浜原はどこか空の一点を見て続けた。
「ひとみは一人じゃなかったんだなあって。笹井、泣いてたよ。」
西川家のご主人と同じことを言っている。鼓動が速く、大きくなる。胸が熱い。
「俺・・・笹井に合わせる顔がない。」
笹井は二人の会話を、屋上へ繋がる階段に座り込んで、ドアを隔てて聞いていた。眉を寄せ、沈鬱な表情だ。
突然、ガチャッと重い音がしてドアが開いた。浜原と設楽が立っている。
「笹井?何やってんの?」
浜原がびっくりしている。
「え、あ、いや、俺は・・・。」
少しの沈黙の後、浜原が言った。
「お前ら二人ともお互いに合わせる顔がねえとか言っておいて・・・そんな変な顔合わせといて、よく言うぜ。」
「なっ・・・へ、変!?どういう意味だ、こら!」
「そうだぞ浜原!こいつの顔は変だが、俺はまともだ!」
「あってめぇ、何だよ!」
設楽と笹井は顔を見合わせた。今になって、お互いの口元が少し腫れているのに気づいた。そして、二人とも大きくため息をついた。
「・・・殴ったのは悪かったよ。けど!・・・さっき言ったことは全部本当だからな。あと、お前は俺達の前ではお前でいていいんだよ。分かったな?」
浜原も、そうだぞと言った。笹井の言葉に、設楽はこくんと頷いた。先に階段を降りだした浜原と笹井に、おい、と声をかけた。
「・・・ありがとう、な。」
ふっと微笑む。
「設楽!」
笹井が焦った声を出した。
「何だよ、いきなり・・・。」
浜原がびっくりしている。
「あ、いや・・・なんかお前が消えそうな気がして。」
浜原が顔の前で手を振った。
「やめろよ、縁起でもない。」
「目が覚めてからさ、本気で死のうかと何回も思ったんだ。」
設楽の言葉に、二人は驚いた。
「でも、やめたよ。死んでもひとみには会えないもんな。」
「・・・え?」
設楽は目を閉じた。寂しそうな笑顔だ。
「笑うなよ?・・・輪廻転生っていうんだろ?自殺したらそこから外されるんだってな。・・・俺、ひとみに会いたいんだ。だから、どんなに辛くても自分から死んだりはしないよ。」
二人は言葉を失った。




