表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不幸の天才、至福の凡人  作者: 沖津 奏
第3章 Dear my clover
35/44

35 絶望再び

 久しぶりに学校へ行くと、皆の安堵が感じられた。文化祭で学校がばれてしまったせいで、毎日のように大勢の人が来るらしい。担任は胃薬を持っていた。

「設楽、もう学校来て平気なのか?」

「設楽君、大丈夫?」

 聞こえる声の中、人のいない席があった。涙がこぼれた。皆が沈黙に戸惑っている。

「うん、大丈夫だ。」

 涙を跡形もなく拭い、笑顔で振り返った。皆は安心した様子だが、足が震えた。


 一週間が経った。相変わらず雑誌に騒がれ、疲れてきた。休む場所がほしい。高橋は事故の後、対応に追われて疲労で体調を崩したらしい。今は風邪が治りかけだと言っていた。

 教室を見回しても、姿がない。放課後になっても、空席のまま。窓の外に夕日が見えた。いつか一緒に見たのと同じ色。同じ風。なのに、ひとみがどこにもいない。視界がぼやけ、めまいがした。

「設楽、てめぇっ。」

 笹井の声がして、突然殴られた。とっさのことに避けきれず、そのまま倒れ込んだ。周りが悲鳴を上げる。口を切ったか。鉄の味が広がる。

「いって・・・。何すんだ!」

「お前、いつまでそうやって悲劇の主人公気取ってるつもりだ!」

「俺が・・・気取ってるだとお?」

 笹井は睨むような目をした。

「そうだ、西川がいなくなって悲しいのはお前だけじゃないんだよ!」

「・・・分かってる。」

 設楽は少し目を逸らした。

「分かってない!お前一人の西川じゃねえぞ!なのにお前ときたらいつまでもうじうじ泣きやがって!俺だったら・・・俺だったら、ひとみを悲しませたりしなかった!」

 告白に、全員が黙った。

「何・・・だと・・・。」

 設楽が声を絞り出す。

「はは・・・誰も知らなかっただろうな・・・。そうだよ、俺はひとみのことがずっと好きだった。だけど、お前ら二人には特別幸せになってほしかった。だから俺は全然構わなかった。辛くも悲しくもなかった。むしろ嬉しかったんだ。なのに・・・なのに、ちくしょう!何だよ、お前は!こんなクズみてえな奴と付き合ってたのかよ、ひとみは!あーあ、これならさっさとひとみを俺のものにしとくんだった。俺なら・・・絶対にひとみを悲しませたりしなかった。」

 設楽は手をきつく握った。お前なんかに――。

「お前なんかに、分かってたまるかあああっ。」

 手応えがあった。笹井が口元を押さえて倒れている。

 目を向け、こちらを睨んだ。ふらつきながらも立ち上がる。

「やっぱ設楽、てめぇじゃひとみに不釣り合いだ!」

 拳を構えて殴り掛かってくる。

「うるせえ!」

 設楽も狙いを定めた。その時。

「やめて!」

 小森が二人の間に飛び込んで、笹井に抱きついた。驚いた設楽と笹井は、つんのめりそうになりながらも拳をおさめた。小森の涙声が聞こえた。

「私は知ってたよ、笹井君がひぃちゃんのこと好きだったって。でももうやめてよ。ひぃちゃんは二人にケンカしてほしいって言ったの?」

 設楽と笹井は目を逸らした。

「もうやめて・・・。」

 皆が驚きを隠せない。あのおとなしい少女が、こんな大胆なことをするなんて。

「小森・・・。」

 笹井が小森の肩に手を回した。その瞬間、設楽は一気に頭が熱くなった。

 ああ、そうだ。いつだってお前らは。

「お前らに何が分かんだよ・・・。」

 皆が設楽を振り向いた。

「お前らはいつだってそうだ・・・。」

 ゆっくりと息を吸って、震える声で怒鳴った。

「俺はいつまで演じ続ければいい!?」

 涙を残して教室を飛び出た。俺が俺でいられたのは、あいつの隣でだけだった。ただ一人・・・。

「ちょっと俺、行ってくるわ。」

 静まり返った中、そう言ったのは浜原だった。

「本当にやばくなったら、松田に電話するからさ。そしたら誰か来てよ。」

 松田が頷くのを見ると、浜原は教室を出て行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ