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不幸の天才、至福の凡人  作者: 沖津 奏
第2章 Amorous clover
30/44

30 クローバー

 バラが咲いている。クラス替えもして、新学年が始まってひと月が経った。幸運なことに、今年もまたひとみと同じクラスだ。今は六年生は有志で体育祭の応援団を結成している。設楽やひとみ達吹奏楽部員は、体育祭の音楽係という仕事があるので、応援団は出来ない。

 まだ半袖では少し涼しいが、夕日が暑い。グラウンドと校舎の間の土手にはクローバーが繁っていた。土曜日の部活練習を終え、設楽とひとみがそこでぼうっとしていた。そうしていながらも、今度の演奏会について、思い出したように話している。いきなりひとみがすっと手を伸ばした。

「どうしたの。」

 ひとみの手にはクローバーがあった。

「四つ葉・・・。」

 葉の枚数を数えるようにくるりと一回転させた。ふふ、いいことあるかもね、と笑う。設楽はそのクローバーを見ていたが、口を開いた。

「俺さ・・・思うんだけどね。大抵生えてるのは三つ葉だよね。いっぱいあるくせに―だからこそ、と言うべきかな―見向きもされない。ひきかえ四つ葉はちょっとしかない。大勢の三つ葉の中に紛れてるのに、見つかるとちぎられるんだよね。『幸せの象徴』とか言って。」

 ひとみは黙って聞いている。

「でもさ、四つ葉にしてみれば・・・三つ葉の方が羨ましいんじゃないかな。」

「・・・どういうこと?」

 ここで設楽は一呼吸おいた。

「四つ葉は『幸せの象徴』としてちぎられるより、もっと地に根をはって、泥だらけになっても、三つ葉みたいに生きたかったんじゃないかって・・・。そっちの方が、幸せだったんじゃないかな。」

 ひとみはクローバーを見つめていたが、鞄を開けて読みかけの文庫本を取り出すと、その間に挟んだ。

「人間も一緒だと思うんだ。」

 その声は、鞄のチャックを閉める音に重なった。ひとみは聞き返したが、設楽は笑って何でもない、と答えた。

 ひとみに答えを教える代わりに、そっとキスした。

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