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不幸の天才、至福の凡人  作者: 沖津 奏
第2章 Amorous clover
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29 あとぞ恋しき

 参拝を終え、ひとみは引いたおみくじを木に結んでいた。背の低い木が、白い花の咲いたようになっている。二人は神社の庭へ歩いて行った。人は参道の屋台へ集まっているようで、あまりいなかった。

「綺麗だな、それ。」

 ひとみは朱色の着物を着ていた。朱といっても、薄い黄色のような桃色のような、絶妙なグラデーションがかかっている。夕焼けをそっくり写したような風合いだ。

「中身は?」

 少し膨れてみせる。そこがまた愛らしい。

「言わなくても分かるだろ。」

 照れて目を逸らしたついでに腕時計を見た。九時。ちょうどその時、後ろから西川夫人の声が聞こえた。

「あら、こんな所にいるの。」

 さとみと、ひとみ達の祖母もいた。占い師もどきのことをしている、例のあの人だ。

「あ、どうも・・・明けましておめでとうございます。」

 ひとみの祖母は、設楽をまじまじと見た。

「ほうほう、貴方が、ねえ・・・それはそれは・・・。」

 一人で何かもごもごと言っている。西川夫人が、ごめんなさいね、と言うふうに微笑んだ。

「あの、僕、もうそろそろ行かないといけないんで。ちょうど良かったです。」

 ひとみ達と別れ、設楽は一人で駐車場へ行った。

 駐車場には見たことがあるような大きなキャンピングカーが停まっていた。その横で、高橋が手を招いている。嫌な予感がする。

「高橋さん・・・まさかと思うけど、」

 車の近くまで来ると、突然、ドアが開いた。

「設楽君、あけおめっ。」

「ことよろっ。」

 OCEANSのメンバーが、目立たない格好でそこにいた。

「何してんのさー、眼鏡までかけちゃって。」

「明けましておめでとうございます・・・。あの、皆さんこそお揃いで何してんですか。」

 豊田が答える。

「いやー、仕事で近くまで来たからお参りしようかと思ったんだけど、予想以上に人が多くてね。帰ろうと思ったら、そこの自販機のところで君のマネージャー発見して。」

「どうせこの後一緒に仕事するんだし、聞けばタクシー使うとか言うじゃん?ちょうどいいし、乗せてってやろうと思って。別の話もあるし。」

 ヒロが後を続けた。

「それはどうも・・・でも、別の話って?平井のことですか?」

 週刊『WAVE』で騒がれた平井えみの恋人は、OCEANSのヒロだった。

「ううん、違う・・・まあ乗りなよ。」

 せっかくなので、ラジオ局まで乗って行くことにした。メンバーは移動の時、よくこの車を使う。中は広かった。設楽は眼鏡を外し、脱いだコートのポケットに仕舞った。

「で、話って何です?」

「うん、実はね・・・君にお願いがあるんだ。」

 喋り出したのは、OCEANSのリーダーであるドラマーの杉田シンジが、みかんを渡しながら言った。

「この八月中旬に大きなコンサートするんだけどね・・・今までと少し違う感じにしようと思って。その・・・単刀直入に言うと、そこでダンサーをしてくれないかな。」

「・・・つまり?」

「君以外にも三人、声をかけてるんだ。KAITO、内田ともき、小平啓。」

 三人とも設楽と同年代のモデルや俳優だ。皆ダンスも上手い。豊田が続けた。

「ほら、去年僕とドラマやった時、一緒にダンス練したでしょ?撮ったビデオとかドラマ見て、凄いなって思ったんだ。それで今回、ダンサーどうするってなった時、メンバー全員が真っ先に思いついたのが君だったんだ。どうかな・・・やってもらえないだろうか。」

 設楽の目が輝いた。小さい頃はダンスに興味を持っていた。いつか舞台に立ってみたいと思った。忘れかけていたあの胸の高鳴りを再び感じた。

「僕でよければ・・・やらせて下さい、是非。」


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