26 秋色の陰謀
秋の色が濃い。アスファルトの道路に色を重ねるイチョウ並木の下で、設楽は雑誌用の写真を撮っていた。傍に同年代の少女がいる。平井えみといって、彼女はモデルだ。設楽とは今までもこんなふうに一緒に仕事をしたこともある。
「お疲れ様です。おかげでいいのが撮れましたよ。」
カメラマンは満足そうだ。設楽の隣で、平井が上目遣いで話しかけた。
「よかったら、この後、お茶でもしませんか?ちょっと、仕事の相談もあって。」
どうせこの後は何もない。彼女は自己解決するタイプだから、隣で話に相槌をうつだけでいいだろう。構わない、と言うと彼女は嬉しそうに目を細めた。この間いいお店見つけたんです、ケーキも美味しくて、と一人で喋っている。
店は確かに洒落たものだった。内装も細かいところまで行きとどいている。味も悪くない。ただ、こういう所には女性ばかりかと不安でもあった。意外にも男性客の姿も見える。
彼女はいろんなことを喋り、設楽は適当に頷いていただけだったが、それでも他人から見れば充分だった。
「あれ・・・あそこに座ってるの、設楽優輝と平井えみじゃないか?」
スーツの男が言う。隣の、同じくスーツを着ている女性が答えた。
「そうですね・・・。そういえば、五月頃、設楽が好きな人がいるって・・・。平井えみの方も、『同業者』にいるらしいですよ、好きな人。もしかして、あの二人・・・?」
男は何も言わずシャッターを切った。女が慌てている。
「ダメですよ!使えませんからね、その写真は!」
「分かってるよ、証拠もない。ただ一緒にいるだけかもしれない。でも、何かあったらつかえるだろう。」
女は黙って二人を見つめたままだったが、口を開いた。
「少し、様子を見る必要がありますね、あの二人・・・。」




