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不幸の天才、至福の凡人  作者: 沖津 奏
第2章 Amorous clover
22/44

22 交錯

「どうしたの?」

 彼女は暫くもじもじしていたが、詰まりながらも唇を動かした。

「帰らないで。」

 無理な願いだ。当然彼女も分かっているのだろう、暗くても瞳が潤んでいるのが分かる。

「好きなの、あなたのことが。」

 ルシュナは俯いた。広場から、サンギェがこちらを伺っている。

「ありがとう。」

 設楽はやっと覚えた部族の言葉で言った。ルシュナがぱっと顔を上げる。設楽は今度は英語で続けた。

「でも、ごめんね。」

 ルシュナは小さく、いいの、分かってた、と呟いた。設楽は心の底から、ごめん、と繰り返した。それに―。

「それに、君の一番は俺じゃない。」

 広場の賑やかさがこだまする。戻ろう、と言うと、彼女は黙って従った。少し元気のないルシュナを見て、サンギェが設楽を睨んだ。


 夜、村が寝静まった頃。設楽ははっと目を覚ました。

「声を出すな。」

 サンギェの声だ。弓を体にかけ、手に小刀を持っている。

「ついて来い。」

 サンギェは森の中へ入って行った。獣の遠吠えが聞こえる。一体どこまで行くき。だいぶ歩いた。サンギェが立ち止まる。少し開けた所だ。まばらに立つ大木が大岩を囲んでいる。月明かりに目を凝らすと、何か見えた。

「骨・・・?」

「そうだ。」

 サンギェが答える。

「ここは、裁きの場。罪を犯した者は、ここで死ぬこともある。」

「死ぬ・・・?おい、どういうつもりだ。」

 振り返ったサンギェは、弓矢を構えていた。体が固くなる。

「サンギェ・・・!」

「余所者め!お前はガジュナの巫女をたぶらかそうとした!」

 ガジュナとは彼らの祭る神の名だ。だが、巫女とは何のことか。ふと脳裏に赤いマチェを思い出した。

「ルシュナ・・・か?」

 サンギェが目を細めた。どうやら正解らしい。

「ても、たぶらかそうなんてそんな・・・。だいたい俺は日本に好きなやつがいて、」

「うるさい!巫女はシャハールにガジュナの言葉を告げる者だ。お前のせいで心が曇ったらどうしてくれる!」

 ああ、それで。サンギェはルシュナを気にかけていたのか。いや、それよりも、純粋に惚れていると言った方がいいみたいだ。

「ちょっと落ち着け、サンギェ。」

 一歩近寄った。だが、サンギェはかなり興奮している。

「来るな!」

 矢が手から離れた。危うく避けた矢は、固い音を立てて木に刺さった。森がざわめく。設楽は青ざめた。避けなかったら、胸に刺さっていた。話をしようにも、サンギェは聞く耳を持たない。こんな濡れ衣で。殺されては堪らない。

「俺でなく、ガジュナが裁きを下すんだ。」

 その時、後ろで小枝の折れる音がした。光る目が二つ。

「ガジュナの遣いはお前か・・・。」

 ハイエナのように見える。一瞬時が止まったかと思うと、それは一気に走り出した。

「あ!」

 設楽を無視して、サンギェに襲い掛かった。

「ガジュナっ!なぜ!」

 サンギェの叫び声が聞こえた。神の遣いを傷付けることは出来ないのだろう。サンギェは戸惑っていた。だが、獣は再び狙いを定める。

「サンギェ!」

 獣が飛び掛かるより早く、設楽はサンギェを突き飛ばした。だが。

「ええええっ!」


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